すべてのウソは一部の利益のために
メジャー系の各石油会社は、のちに有名になる地質学者コリン・キャンベルの「石油が枯渇するグラフ」のようなものを次々と発表しはじめます。
キャンベルは「石油の枯渇を理解するのは簡単だ。アイリッシュ・パブを考えてほしい。ビールジョッキは満杯からはじまって、空っぽで終わる。閉店時間までに飲めるジョッキの数は限られている。原油も同じことだ。ジョッキが空になる前に、新しいパブを見つけなくてはならないのだ」と一般大衆にもわかりやすい言葉で石油枯渇の危機を説きました。
1970年ぐらいからそういった資料が出はじめて、「石油がもうなくなるぞ」という考えがじわじわと世界中に広がっていったのです。
その仕掛け人は、メジャー(国際資本家)です。これは石油に限ったことではありません。
たとえば、鉄、金、ダイヤモンドといった鉱石は地中に埋まっている時にはタダの鉱物です。ダイヤモンドの市場価値がいくら高くても地中に埋まっている時にはその価値はありません。
そういった天然資源の価値を高めて値段を上げるために、「その資源が尽きようとしている」と言い続けるのです。
その結果、どんどん石油の値段は上がっていって、2021年10月20日にはニューヨーク原油市場で1バレル84ドルを超えるという史上最高値を更新するまでになりました。60年代の2ドルから40倍以上も値上がりしたことになります。
ただし、1970年には「石油が枯渇する」といって値段を上げましたが、現在は産油国がありあまる原油の発掘量を減らすことで値段を上げています。
枯渇と減産では原油高騰の理由がまったく異なりますが、その点を指摘する声が日本のメディアから聞かれることはありません。
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本章(序章)では、1960年あたりから漂いはじめた日本社会の大きなウソについて、例を挙げて検証しました。この問題は日本国内だけでなく、諸外国やメジャー(国際資本家)などの思惑も絡(から)んできています。
しかし、このようなウソを見抜けない国民の側にも問題があります。データや事実に基づいていないメディアの報道を妄信してしまうからです。
これから本書では、「新型コロナウイルス」や「EV」「脱炭素」「SDGs」などの問題を取り上げ、日本社会に蔓延しているウソを解明していきます。
このままでは、わが国はさらに低迷していくでしょう。理系思考のない国は滅亡する―――そういっても過言ではないのです。
『「新型コロナ」「EV脱炭素」「SDGs」の大ウソ』武田邦彦著 ビジネス社刊
20240301 P27