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温帯地域にある島国という点で、日本は極めて自然に恵まれています。自然に恵まれているということが日本人の宗教観にも大きな影響を与えています。 日本人は「自然」と「先祖」を大事にする宗教観を持っています。日本人が、お釈迦さまやイエス・キリスト、マホメットのような個別の宗教的開祖を必要としない理由です。 日本が安定した気候の島国で自然に恵まれ独立した生態系を持ち生活しやすい風土であるのに対して、大陸の生活はずいぶん異なります。 たとえばユーラシア大陸は、中国から中東、ヨーロッパにかかる地球上で最も大きな大陸であり、その広大さゆえに熱帯から温帯、冷帯、寒帯、砂漠のような乾燥帯と気候は多様です。中国の中原、メソポタミアなど肥沃な地域も多く存在します。 ヨーロッパも農業の盛んな地域です。しかし、豊かな地域ばかりではありません。北方は寒冷地で農業には適しません。 人間は摂氏26度程度ならば、着衣があれば不自由なく暮らせると言われていて、南方はその点で豊かな地域が多くあります。それらは、飢えに苦しむということのない一方、野獣や害虫も多い地域です。マラリアが発生したり疫病が流行ったりします。こうしたことを考えると、ユーラシア大陸において住みやすいところは意外に少ないのです。そのため、広大な大陸ではありますが、一部の住みやすいところに3億人くらいの人々が密集して生活する、といったことになります。 草原地に 遊牧民が生活しているという傾向も、住みやすさという点で問題がありました。遊牧民は、冷害などで作物の不作があると騎馬に乗って肥沃な地域に攻め込むことがあります。遊牧民の侵攻は歴史上、非常に頻繁に起こったことです。肥沃な土地に攻め入って殺戮、略奪を行います。侵入して、そのまま定着してしまうこともありました。 肥沃な地域の人々はその周辺の騎馬民族や貧しい地域の人々に攻められる危険を常に感じながら生活を送ることになります。肥沃な土地に暮らしているとは言っても、安定的で穏やかな生活とは言い難く、その精神状態はどうしても刹那的になってしまいます。 中国は度重なる北方からの侵入に手を焼いて万里の長城を築くなどしましたが、そんなものを建設する余裕のない地域もたくさんありました。 大陸での生活には荒々しい面が多かったのです。大きな城を築き、支配層と被支配層に分かれ、力のあるものが国を統 一するという歴史が繰り返されました。 日本はとても穏やかでのんびりとした平和な地域でした。世界でも例を見ない、特別な地域なのです。 『かけがえのない国――誇り高き日本文明』 武田邦彦 ((株)MND令和5年発行)より R060219 189