1989年の12月だったと思う。
パリ、16区のパッシー通りを歩いていたとき、ブティックのウィンドウに素敵なコートを見つけました。
Gennyの、こんな色のコート。
その頃の私は、今とは違った意味で元気で、インプットとアウトプットをすごい勢いでこなしていました。
若いって、そういうことなんだなあと、今、思います。
明るい色を着ると、気持ちも上がります。
これは、ボルドークレール、という色。おそらく。
このコートを着ていた頃の自分が好きです。
いろいろな物語があったから。
そして、時代が時代でしたから、
「こんな本があったら素敵」
「こんなイベントをしたら面白い」
と、企画を出せば実現できたのです。
創造性がどんどん広がった時代でもありました。
90年代に入り、バブル後の日本は急速にしぼんでいく。
企画を出しても通らないことが多くなり、
そうすると何かを始める前に、
(ダメかもしれないけれど)
と思ってしまう。
そんなふうに私の気持ちも弱くなった気がします。
もちろん、いつも希望をどこかに見出しながら生きていましたが。
結婚して、子どもが生まれ、役割が増え、
前とは違う時間が流れ始めました。
自分だけのことを考える時間が少なくなりました。
ときどき、自分がダメになってしまうのではないかという恐れが湧いてきて、
悲しくなるような、焦るような気持ちになったことが何度もあります。
もちろん、家族とものすごく幸せなのだけれど、
それとは違う次元のこと。
新しい自分の感性が広がっていることも感じていましたが、
それとも違う次元のこと。
そんなとき、ボルドークレールのコートと再び出会ったのです。
もうずいぶんの前のことで、スタイルも少々古くなっていますが、
この冬もときどき着ています。
歩幅も、歩く速さも、いつもとは少し違う気がするのは、
ちょっとした錯覚かもしれません。
元気になるもの。
気分が上がるもの。
人生という時間の中で、行ったり来たりできる何かがあるといいですね。
過去に囚われている・・・ということではなく。
音楽でもファッションでも。
気分が上がるためのトリガーとなるもの。
音楽なら・・・EW&Fとチャカ・カーンかな。