今日は、のぼせないように用心して、サッサと出ようとすると、
「千尋ちゃん、上がるの?」
「ウン。気を付けないと、また抱かれてお風呂あがらなアカンから。」
「千尋ちゃん軽いから、平気なのに。」
「毎回のぼせるわけやないよ。」
「小さな楽しみなのに…。」
「ん?」
「ウウン。僕もあがる。」
昂大は洗面所で、ワタシは寝室にあるドレッサーで髪を乾かす。
「千尋ちゃん!」
「何?」
どうしたのかと慌てて振り返ると、ダッシュしてきた昂大に抱き付かれた。
「どうしたん?」
「先に寝ちゃったかと。」
………。
「それでダッシュ…。してきたん……?」
「ウン。」
「ウーン…。ワンコ系…。」
「ん?」
「なんでもない。寝よー。」
「ウン。」
ベットに入ると、昂大はワタシを抱き寄せて、目をつぶり、
「おやすみなさい。」
と言った。
ワタシは、しばらく昂大の顔を見ていた。
まつげが長く、鼻が高い。大きめの口元は、笑うと歯が見えて、少年のようになる。綺麗というより、可愛い。
ワタシと付き合っても、未来とかないのになぁ。
好きとか言うたら、アカンよなぁ。
「千尋ちゃん、そんなに見たら穴があいてしまう。」
「ゴメン。」
ワタシは別の意味で謝っていた。が、そんなことは昂大にはわからない。
「眠れない?」
「ウウン…。ウン。」
「どうしたの?」
目を開けた昂大が、ワタシの顔を覗きこんで、
「泣きそうな顔になってる。」
「そう?」
「どうして?」
「…緊張してるんかな?」
「明日のこと?」
「そう。ホントに?」
「ウン。」
昂大は、しばらくワタシの顔を見ていたが、
「大丈夫だよ。」
と、ワタシの髪を撫でる。
ワタシは目をつぶり、いつまで言わずにいられるか、このまま、好きと言わずに耐えられるか考えていたが、撫でられる気持ちよさに、そのまま寝落ちてしまった。
ワタシは5時半に目覚め、抱き締めている昂大の手を外し、静かにベットを抜け出た。昂大は、起きなかった。
顔を洗い、洗濯、御飯の準備。コーヒーを入れて、タバコを吸う。
3本目に火をつけた時、昂大が起きてきた。
「ゴメンね。迎えに来た。」
火をつけたばかりのタバコの火を消して、ワタシを抱き上げ、寝室に戻る。
目が覚めると、昂大はいなかった。時計を見ると、9時だった。寝室から出ると、
「おはよー。」
キッチンから昂大が顔を出す。
「おはよ。どしたん?」
「千尋ちゃん、今日はスゴク早かったんだね。」
「そうなん?」
「とめることできなかったし、お迎えも遅くなっちゃった。」
「迎えに来なくても、そのままタブン寝てるから、放っておいても大丈夫なんやで。」
「大丈夫じゃないよ。千尋ちゃんは誰かが一緒にいると、必ず朝、無意識に起きるでしょ。エアコンとかいれたりしないから、冬は寒いなか、夏は暑いなか、そのままでソファーで寝てしまってるから、エアコンのタイマーをいれるか、迎えに行って下さいって。」
「取説ね。」
「そ。まだこの季節だからいいけれど、夏が来たら、エアコンのタイマー、僕が忘れずいれるからね。」
「ありがと。」
「僕がいるから、千尋ちゃん起きちゃうんだよね…。」
「昂大だけじゃなくて、誰が泊まっても、起きてるみたいやし、昂大のせいやないよ。」
「慣れたら起きなくなるかな?」
「んにゃ。慣れるってことないらしい。2年住んでた恋人いたんやけど、2年間、ずっと起きてたらしいから。」
「そうなんだ。」
「タブンね、普通の恋人みたいにしたいんやろなぁって思うねん。ワタシの生活は、昼夜逆転してるから、それがちょっと引け目に感じてるんかもしれんなぁって。」
「可愛いなぁ。」
「エッ。どこが…。」
「恋人の為に、体が動くってことだよね。」
「そういうことになるんかな?」
「そういうことだよ。顔洗ってきて。朝御飯作ったよ。」
「マジで?」
「パン焼いて、シチュー温めた。コーヒーも。」
ワタシは急いで、顔を洗いに行った。