・前置き
2年前にmixiで書いていた小説を改訂して投稿しています。
スピカはトゥルスが好きという設定がありますが、今回はその設定は無しにして、トゥルスとはただの幼馴染という設定にしてあります。結構色んな設定を無視しています。ご了承ください。
2月14日の昼。
「スピカがあんたに渡したいものがあるから部屋に来てくれって。それを伝えにきた。」
何で俺がこんなことを、と漏らしながらトゥルスは去っていった。
それを聞いた自分の足はいつの間にかスピカの部屋に向かって歩き出していた。
彼女の扉の前に来た。
彼女が自分を呼ぶなんて珍しいと思った。
スピカと言えば常にトゥルスやレグルスと一緒にいることが多く、自分の入る隙間が無いと思い、あまり話したことがなかった。
そんな彼女が自分に何の用があるのか。
緊張して、手が震えてきた。
震える手を何とか動かして、扉をコンコンと叩いた。
「はーい、入っていいよー!」
元気な彼女の声が聞こえる。
扉を開けると、椅子に座っているスピカがいた。
もじもじしながら手を後ろにやっている。
何か隠しているみたいだ。
「とりあえず、ここに座ってよ!紅茶も丁度いい温度になってるはずだし!」
彼女の向かいの椅子に座る。
テーブルには可愛いマグカップが置かれ、そこから微かに湯気が立ち、紅茶の良い香りが漂った。
「え、えっとね、今日は君に渡したいものがあるの!」
そう言ってスピカは、小さめの箱を自分に差し出してきた。
濃いピンクの箱に、薄いピンクのリボンが巻かれている。
ピンク色が好きな彼女らしい包装だ。
ありがとう、と受け取ると、彼女の顔がほのかに赤くなったように見えた。
リボンを解いて箱を開けると、美味しそうなチョコレートが入っていた。
4つに仕切られていて、ハート型や丸型のシンプルなものや、四角いチョコに模様がついているものとトリュフが入っており、かなり手が込んでいた。
「君の為に頑張って作ったから、その、食べてくれると嬉しいな!」
笑顔で言うスピカが、何だか可愛らしくてこちらも照れてしまいそうだった。
早速、ハート型のチョコを口に放り込んだ。
ミルクチョコレートだが、丁度いい甘さだ。
淹れてもらった紅茶を飲むと、チョコの甘さと混ざり合ってまるで高級な紅茶を飲んでいるようだ。
とても美味しい、と彼女に告げると
「ホント!?良かったー!」
目を輝かせながら自分を見てきた。
どうしよう。可愛くて目を合わせるのが難しい。
そういやレグルスが以前「スピカが可愛すぎて辛い」とか言ってたのを思い出した。
なるほど。可愛すぎて辛いとはこういう感情なのか。
「君の口に合わなかったらどうしようって思ってたから、甘すぎないように調整したんだよ!君の好みとか、全く知らないし…。」
確かにスピカに自分のことをあまり話したことがない。
そもそも今のような状況になったことがない。
彼女の部屋に二人きりで、向かい合って座っている…。
そう考えたら、何だか恥ずかしくなってきた。
黙々とチョコを食べていると、彼女が笑顔でこちらを見てきた。
「ねぇ、せっかくだから君のこともっと教えてよ!私、君のこともっと知りたいの!」
笑顔のスピカを見てドキッと心臓が跳ね上がる。
今のスピカは本当に可愛すぎて辛い。
彼女の周りにハートマークがたくさん出てるように見えてきた。
しかし、このまま自分のことを話したら、自分の秘めた想いまで話してしまうかもしれない。
それでもいいか。たまには自分に正直になっても。
スピカ、実はずっとお前のことが―――。
急遽始まったスピカとの楽しいお茶会は、夜まで続いたのだった。
終