yuzuori03の小説ブログ

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オリジナルキャラクターが登場するオリジナル小説を投稿しています。

ハインツェル村の宿屋で朝を迎えたトゥルスとプロキオン。
気持ちよく眠っていたところだが、意外な者達に起こされることになる。

ドンドンと力強く壁を叩く音でトゥルスは目を覚ました。
内心うるさいなと思いつつ、音がした壁の近くの窓から外を覗く。
そこにいたのは、昨日会ったカシオペアのメンバーである男数人だった。
慌てた様子でトゥルスに何か訴えかけているようだ。
窓を開けると、食い気味にトゥルスに話してきた。

「大変なんだ!姉貴が…姉貴が…っ!」
「どうした?リゲルに何かあったのか?」
「それが…」

「ここの村長に連れていかれたんだ!」


それは今から数時間前の早朝だった。
いきなりハインツェル村の村長とその仲間達が貧困層の村に現れ、カシオペアのアジトに押し寄せてきた。
カシオペアのメンバー達はリゲルを守ろうとしたが、村長の仲間にやられてしまった。
遂にアジトの最奥にたどり着いた村長達の前に現れたのは、堂々と立っていたリゲルだった。

「見つけたぞ。盗賊団カシオペアのリーダー、リゲル。散々我々の宝物を盗みおって。」
「…それで、あたしを捕まえにきたんでしょ?」
「ほぉ。意外と物分かりがいいな。その通りだ。さぁ、我々と一緒に来い。」

その時、ボロボロになったメンバー達が駆け寄ってきた。

「てめぇら、姉貴を連れていくなら俺達を倒してからにしろ!」
「さっきは手加減しちまったが、俺達が本気になればてめぇらなんて…」

「やめて!」

突然リゲルが叫ぶ。
ボロボロの仲間達を見たからか、悲しげな表情をしていた。

「あんた達がこれ以上傷つくのを見たくないの。皆あたしの大事な仲間だもん。」
「姉貴…。」

「…大人しくあんた達についていくから、これ以上あたしの仲間達を傷つけないって約束して。」
「まぁいいだろう。リーダーの貴様さえいなくなればこの汚い集団は自然に壊滅するだろうからな。」

村長の言葉に怒りを露わにするメンバー達。

そしてリゲルは村長達に連行されたのだった。



以上が、宿屋を訪れたメンバーから聞いた話だ。

まずいことになった。
昨夜プロキオンと話していたことが現実になりつつある。
村長は貧困層の村を滅ぼすまではいかなそうだが、カシオペアを壊滅させることは確実になった。

一番の心配事は、連れていかれたリゲルの安否だ。
あの怪しげな村長のことだ。
リゲルに対して酷いことをやりかねない。
トゥルスは眠っていたプロキオンを叩き起こして、急いで村長の元へ向かった。



村長の家の前に何故か人だかりが出来ている。
どうやら富裕層達が集まっているらしい。
富裕層の一人にプロキオンが話しかけた。

「あのー、すみません。一体何の集まりなんですか?」
「あら、あなた達は村長から聞いてませんの?遂にあの盗賊団カシオペアのリーダーを捕まえたんですって。」
「それで、村長の家の前で公開処刑をやるんだってさ。」
「こっ、公開処刑…!?」

恐ろしい単語を聞いてしまった。
一気に青ざめるプロキオン。
一方トゥルスは村長の家の前に何かが置かれていることに気づいた。
人だかりでよく見えないが、一瞬ジャンプしたらハッキリと見えた。

トゥルスが見たものは、木で出来た十字の形をしたものに磔にされているリゲルの姿だった。

「リゲル!」
「あっ!待ってよトゥルス!」

人々の間を潜り抜け、リゲルの前に辿り着いた二人。
リゲルは薬で眠らされたのか、目を閉じたまま動かない。
二人はリゲルを救出しようと腕にある紐を外そうとしたが。

「何をしている貴様ら!」
「くっ!」
「うわっ!」

村長の側近二人に羽交い絞めにされてしまった。
離れようと必死にもがくが、びくともしない。
そこにリゲルを磔にした張本人が現れた。

「おや、あなた方は観光に来られた方じゃないですか。申し訳ないが、よそ者にはこのことに首を突っ込んでもらわないでいただきたいのです。」
「そんなことは分かってる!だがこれがあんたら大人のやることか!?こんな小さな女の子を磔にして、公開処刑とか悪趣味にも程があるだろ!」

珍しくトゥルスが怒り叫ぶ。
今回ばかりはトゥルスも冷静ではいられなかったようだ。
無論、プロキオンも同じ気持ちだった。

「…確かに、僕達よそ者が首を突っ込むことじゃないです。でも、何も彼女を殺すことはないと思います!」
「ほう?何故そう思うのです?この女とその仲間達は我々の宝をたくさん盗んだんですよ。だから死をもって償うべきなのです。」

そうだそうだ、と富裕層達が一斉に言い出す。
村長は彼らの声を聞いて満足そうな顔をしながら剣を抜いた。

「さぁ、いよいよこの時が来た。盗賊団カシオペアの最期を我々が見届けようではないか!」

わーっと盛り上がる富裕層達。
村長は剣先をリゲルの胸に向ける。

「やめろ!」
「やめてください!」

トゥルスとプロキオンの声はもう届かない。
村長がリゲルの胸を刺そうとしたその時。


「やめてぇ!リゲルおねえちゃんをころさないでぇー!」


子供の叫び声が聞こえた。
その声を聞いて、村長の動きがピタリと止まった。
さらに男達が村長の手から剣を奪い、村長を羽交い絞めにした。

「なっ、何だ貴様らは!」
「俺達は、お前に散々酷い目に遭わされた貧困層の村の住民だ!」

男達をよく見るとボロボロの服を着ている。
先ほど叫んだ子供も同じ格好だ。
彼らを見た富裕層は、汚らわしい、気持ち悪いだの言っているが、そんなことは彼らの耳には入ってこなかった。

「何が『我々の宝をたくさん盗んだ』だ?俺達の宝を盗んだのはそっちだろ!」
「俺達貧困層から宝を奪って、ここを立派な町に変えたくせに!」
「そのことを隠すために、リゲルに全部罪をなすりつけやがって!」
「わたしのだいじな、あかいほうせきがついたペンダント、かえして!」
「俺の結婚指輪も返せ!このクソ村長!」

貧困層達が今まで抱えていた思いや感情をぶつけてくる。
彼らの言葉を聞いた富裕層達もざわざわし始めた。
一斉に身に着けていたキラキラしているものを見る。

「赤い宝石のペンダントって、まさかこれのことですの…?」
「あー!それ!おかあさんからもらったペンダント!かえして!」
「この指輪も…元は貴方の物だったと…?」
「そうだ!間違いねぇ!返してくれ!」

実は村長が貧困層の村から奪った宝を、富裕層達に配っていたのだ。
宝の一部は、売却して村の発展にあてていた。
ようやくそのことに気づいた富裕層達は、羽交い絞めにされている村長に視線を向ける。

「…これらは全部、元々あの方達のものだったんですね。」
「こんな高価な物を私達に無償でお配りするなんて、気前のいい村長だと思っていましたが…。」
「貴方こそ本当の盗賊だったなんて、失望しましたわ。」

富裕層達は呆れた顔で村長を見る。
今まで行ってきた悪行がバレてしまい、くっ、と苦しそうな顔をする村長。

「し、仕方ないだろう!このハインツェルを大きく立派な町にするにはこうするしかなかった!そのために富裕層と貧困層を分けて、貧困層には犠牲になってもらうしかなかった!」
「てめぇ…!俺達を何だと思ってる!」
「何事にも犠牲が必要だ。町を発展させるためにもな。」
「ひどい…!村長さん、貴方最低です!」

貧困層達と一緒に叫ぶプロキオン。
一方トゥルスは羽交い絞めにされながらも、体を震わせていた。
そして、彼のペンダントが光りだし、体からは青いオーラが滲み出ていた。

「…許さない。…俺はあんたを、絶対に許さない…っ!」

突然トゥルスの体とペンダントから青い光が放たれ、彼を羽交い絞めにしていた村長の側近が吹っ飛ばされた。
同様にプロキオンを羽交い絞めしていた側近も遠くへ飛ばされた。

「ト、トゥルス!?どうしたの!?」

何故か飛ばされなかったプロキオンが彼に近づくと、トゥルスの髪が全て黒くなり、青い光を身に纏っていた。
彼の体から放たれた青い光はトゥルスの上に集まり、青い半透明の生き物の形に変化した。

「あれは…牛…?」

青い生き物はまるで牛のようだったが、牛にしては大きな角を持っていた。
そして牛はトゥルスに近づくと、彼は牛の頭を撫でた。

「…ネカル、あいつを倒せ。」

牛はこく、と頷き、村長に向かって突進した。

「ぐあぁーっ!?」

村長だけ遠くに飛ばされた。
羽交い絞めしていた男は何故かその場に留まっている。

「これってまさか…星の涙の力…?」

青い光を纏い、髪の色が全て黒くなるのは、星の涙の力によるものだ。
師匠の研究レポートにそう書かれていたのをプロキオンは思い出した。
思い出したのも束の間、青い牛はトゥルスの元に帰ってきた。

「ありがとな、ネカル。」

牛の頭を撫でると、牛は満足そうに鳴き、青い光となってトゥルスのペンダントの中へ入っていった。
その後青いオーラが無くなり、トゥルスの髪の色が元に戻り、彼はその場に跪いてしまった。

「ぐっ…。」
「トゥルスっ!」

慌ててその場に駆け寄るプロキオン。
星の涙の力を使うと体力を大幅に消費してしまうこともレポートに書いてあったからだ。

「大丈夫?」
「ん、ああ、何とか大丈夫だ。体がすごく怠いけどな。」
「無理しないで、僕の肩に掴まって。」
「ありがとう。」

トゥルスはプロキオンの肩を借りて立ち上がる。
今はトゥルスを休ませることが先決だ、と考えたプロキオンはトゥルスと共に宿屋に向かって歩き出した。
集まっていた村人達も自分の家に戻ることにした。

磔にされていたリゲルは、後にやってきたカシオペアのメンバーにより救出された。

全ての元凶である村長は吹っ飛ばされたことにより気絶し、カシオペアのメンバーが村長をアジトの牢屋に閉じ込めたそうだ。


部屋についた途端、トゥルスはベッドの上に倒れ、そのまま眠ってしまった。
初めて星の涙の力を使ったから、相当体力を消耗してしまったのだろう。
プロキオンは眠っている彼に毛布をかけ、傍にいることにした。

トゥルスが眠りについている間、プロキオンは部屋にやってきたカシオペアのメンバーと会話をしていた。
リゲルを助けてくれたお礼を言うと同時に、住民からのたくさんのお礼の品をプロキオンに渡した。

リゲルはアジトで眠っていて、他のメンバーが心配そうに見守っているという。
一方村長がいなくなったハインツェル村の住民らは、富裕層が貧困層に宝を返すことで和解の道を歩み始めたらしい。
するとカシオペアはもう義賊団でいる必要も無くなる。
カシオペアはこれからは「何でも屋」として働くことにメンバー達全員が賛同し、リゲルが目覚めたらそのことを伝えるつもりだ。



数時間後。

「ふわぁ…よく寝たな。」
「おはようトゥルス。体は大丈夫?」
「あぁ、もう大丈夫だ。準備が出来たらここを出発しよう。」
「うん!」

あれだけ村で騒ぎを起こしてしまったのだ、長居は無用だろう。
そう考えた二人はなるべく急いで準備を整えた。

宿屋の店主には「もっとゆっくりしていけばいいのに」と言われてしまったが、二人は申し訳なさそうに宿屋を出た。

村の入口では住民達が出迎えてくれた。
富裕層も貧困層も一緒にいるという、数日前では有り得なかった光景。
この村は安泰だ、と二人は思った。
「また来てくださいね」と言う住民達に手を振ってお別れした。

入口に生えている大きな木からガサガサと音が聞こえ、その直後二人の前にある人物が現れた。

「うわぁっ!びっくりしたぁ!…あれ、リゲル?」
「ちょっと!あたしに挨拶もしないで出ていくつもり!?」
「えぇっ!?」

元気になったリゲルがそこに立っていた。
村長に捕まったときに抵抗したであろう痣が腕や足にあったが、彼女にとっては大したことではないだろう。

「それはすまなかったな。とにかく、リゲルが無事で良かった。」
「じゃあまた…」
「あたしも連れて行きなさい!」
「…えっ?」

プロキオンが別れの言葉を言おうとしたところを遮られ、リゲルはトゥルス達と一緒に旅をすると言ってきた。
突然のことに困惑する二人。

「あんたにはカシオペアがあるだろ。」
「それはナンバー2に任せたから大丈夫!」
「えっと…何で僕達と一緒に行きたいの?」
「助けてくれたお礼よ!それに、盗むことしか能がないあたしが今のカシオペアにいてもしょうがないし。皆には旅に出ることを反対されたけど。」
「反対されたのなら残っても良かったのに…。」
「あたしまだトゥルス達に恩返ししてないし!だからお願い!あたしも連れてって!」

リゲルは本気だった。
彼女の気持ちを無下にするなど、二人には到底できなかった。
最終的にトゥルスが出した結論は。

「分かった。俺は追われている身だから、厳しい旅になる。その覚悟があるなら一緒に来てくれ。」
「勿論よ!そこのヘタレ魔法使いよりは使えると思うわ!」
「へ、ヘタレ!?僕はヘタレ魔法使いじゃない!」
「ヘタレでしょ!咄嗟に魔法を使えないくせに。」
「ぐぬぬ…!いつか立派な大賢者になって見返してやるんだから!」


こうしてリゲルが仲間に加わり、三人による旅が始まった。

賑やかになって、厳しい旅も楽しく乗り越えられそうだ、とトゥルスは少し笑いながら思った。




to be continued.

新たに王となっていたトゥルスの親友レグルスにより、トゥルスがお尋ね者になってしまった。
今はクラビウス王国の国民しか知らないとは思うが、明日にはマギヌスにも広まるだろう。

レグルスの話が広まる前に、トゥルスとプロキオンは夜遅くにこっそり町を出て行った。
町を見回ってる兵士が数人いたが、なんとかかいくぐった。

外に出たものの、夜は凶暴化する魔物もいるため遠くまでは行けなかった。
町からさほど遠くない場所で野宿をすることにした。
プロキオンが魔法でテントを張り、その中で一晩過ごした。

テント内のランプに灯りをともし、地図を広げて次の目的地を探した。

「うーん、何処に行けばいいかなぁ…。クラビウス王国は論外だし…。」
「…ここはどうだ?ハインツェルって書いてあるところだ。」
「ハインツェル村かー。確かにそこならまだトゥルスのことは皆知らないだろうし、良いと思うよ!」
「距離もそんなに遠くないしな。1日くらい泊まっても大丈夫だろ。」
「決まりだね!それじゃあ明日に備えてもう寝るよ。おやすみー。」
「ああ、おやすみ。」

ランプの灯りを消して数分後、プロキオンの寝息が聞こえた。
ずっと魔法を使っていたから疲れてしまったのだろう。
トゥルスは彼の寝息を聞きながら、上で揺れるランプを見ていた。

(レグルスは俺達を捕まえろとか言う奴じゃない。誰かに操られてるのか?それか星の涙を受けておかしくなったとかか?
いずれにせよ、あいつは俺が目を覚まさせるしかない。…それよりスピカのことだ。クラビウス王国にもスピカはいなかった。スピカ、一体何処へ…。)

考えてるうちに、トゥルスは深い眠りについていた。






翌朝。
軽く食事を済ませた二人は、テントを片付けて次の目的地であるハインツェルに向かって歩き出した。
途中魔物に何回か襲われたが、トゥルスの剣技とプロキオンの魔法で魔物を倒していった。


そして歩くこと約1時間、遂に目的地であるハインツェルに到着した。
入口からハインツェルの様子を眺めると、二人は首を傾げた。

「…なぁ、プロキオン。あんた昨日ハインツェル"村"って言ったよな。」
「…うん、言ったよ。村…だったはずなんだけど…。」

村の中、と言うか最早町だった。
レンガで出来た家が殆どで、施設などはコンクリートで出来ている。
村と言えば木製の家を想像するが、そんなものは一切見当たらない。

ハインツェルの入口で立ち止まっていると、二人の間を何かが横切った。

「うわっ!?何!?」
「あ、ごめんなさい!それじゃ!」

速すぎてはっきり見えなかったが、黄緑色の髪をしていた。
声からして恐らく幼い女の子だろう。

「びっくりしたぁ…。もう、気を付けて欲しいよね!」
「あぁ、そうだな。…?」
「トゥルス、どうしたの?えっ…あーっ!」

二人は違和感に気づいた。
トゥルスは首に下げていた橙色のクリスタルのペンダント、プロキオンは腰に下げていた魔導書が無いのだ。
ハインツェルの入口に着いたときにはまだあったのに、何故なのか。

答えは盗んだ本人が教えてくれた。

「ふーん。なかなか高そうなの持ってんじゃん!」

入口に生えている高い木の上に、先程横切った少女がいた。
少女の手にはトゥルスのペンダントとプロキオンの魔導書があった。

「ちょっとー!それは僕の大切な魔導書なんだよー!返して!」
「そのペンダントは俺の大切な物だ。すぐ返せば許してやる。さぁ降りてこい。」
「分かったわよ!返すってば!でも今すぐにとは言ってないわ!」
「え…?」

木を降りるどころか、どんどん上に登っていく少女。
そして二人のことを見下ろしながら叫ぶ。

「あたしを見つけたら返してあげる!じゃーねー!」

そう言って少女は去っていった。
追いかけてみるものの、あっという間に見失ってしまった。

「どうしよう…。あの魔導書は師匠から譲り受けた大切な魔導書なのに…。」
「…とりあえず、あいつのことをここの村長に報告するか?」
「うん、そうするしかないよね…。」

とぼとぼ歩く二人。
しかし中に入ると本当に村なのか疑いたくなる。
クラビウス王国ほどではないが、全体的に煌びやかだ。

幸い、まだこの村にトゥルスのことは広まっていないようだ。


村で一番立派な建物に辿り着いた。
中に入ると、村長らしき男性と側近二人がいた。
男性はトゥルス達を見て笑顔で歓迎した。

「ようこそハインツェルへ。旅の方ですかな?」
「そうです。あの、村長にご相談がありまして。」
「何でしょう?」
「入口で黄緑色の髪の少女に俺達の大切な物を盗まれたんです。」
「彼のペンダントと、僕の魔導書です!」
「ああ、またあいつらがやったんですな。その盗人は『盗賊団カシオペア』のリーダーのリゲルと言う奴です。」
「『盗賊団カシオペア』…!?」

プロキオンが驚いてるが、トゥルスは一度も聞いたことが無かった。
プロキオン曰く『盗賊団カシオペア』は盗む能力がダントツに高い者を集めた集団だと言う。
「彼らに盗めない物はない」と噂される程だ。

「そのリーダーをあの幼い少女がやってるのか…。」

村長の話では、カシオペアはハインツェルの民や村長から物を盗むのが主だが、最近は観光客や旅人の物にまで手を出しているらしい。

「我々もあいつらを何とかしようとはしているのですが、逃げ足が速く捕まえるのが困難でしてな。あなた方を巻き込んで申し訳ない。」

村長はそのお詫びに、宿屋の料金を負担してくれると言う。
二人はお言葉に甘えて宿屋を使わせていただくことにした。

その夜、二人は宿屋の寝床で話し合っていた。

「明日どうしよっか。本当は1泊だけの予定だったけど、2泊しそうだね…。」
「俺達の大切な物を取り返すまではここから出るわけにもいかないからな。」
「うん。明日はこのハインツェルを探索してみよう。そしてリゲルを見つけて、ペンダントと魔導書を返してもらおう!」
「ああ。必ずリゲルを見つけるぞ。」

二人はペンダントと魔導書奪還を目標にし、眠りについた。



翌日。
宿屋を出た二人は村の探索を開始した。
町のような村だか、所々村の面影が残っている。

村の奥には森があった。
森の中は日が昇っている時間帯でも暗く、灯りがなければ通るのは難しいだろう。
トゥルスはその森の前に人影があることに気づき、隣にいたプロキオンを抑えつけた。

「わっ!?トゥルスどうしたの!?」
「しっ…静かにしろ。誰か来る。」
「え?…あ、あの人達って…。」

近くにあった植木の陰に身をひそめる二人。
森の前に二人の男が現れた。
胸元にカシオペア座のマークがある。
トゥルス達はそれを見て盗賊団カシオペアの奴らだと確信した。
カシオペアの二人は先程まで村にいたのか、大きな袋を背負っている。

「へへへ。今日はいつもより多めに奪えたな。」
「これなら姉貴も喜んでくれるだろうな。」
「追っ手は…俺達を完全に見失ったようだな。見つかる前にずらかるぞ!」

二人は大荷物を抱えて森の中へ消えて行った。
トゥルス達は植木の陰から出て森へ向かった。

「あいつらの後を追うぞ。この森の先にカシオペアのアジトがあるはずだ。」
「でも、暗くて怖いよぉ…。」
「大丈夫だ。プロキオンは魔法で明るく照らしてくれ。モンスターが出たら俺が倒す。」
「うん、分かった…。」

二人は恐る恐る森の中に入っていった。
森の中は夜のように暗い。
周りからカサカサと音がする。
二人の前に小さなモンスターが立ちはだかるが、トゥルスはそれを軽々と倒していった。

森の木々の至る所に刃物で付けたような傷がある。
カシオペアの奴らが付けた目印だろう。
目印を探しながら進むと、日の光が見えてきた。

トゥルス達は森を抜け出すことに成功した。
しかし、森を抜け出した先で見た光景に衝撃を受けた。

「え…?」
「何だこれは…?」

ボロボロの家にボロボロの服を着た村人達。
テントを家にしている村人もいる。
ボロボロの服を着た子供達が走り回って遊んでいる。

これは幻なのか。
二人は目を擦ってみたが、これは現実だった。
あの立派なハインツェルと同じ場所だとは思えなかった。

トゥルス達に気づいた子供達が走って近づいてくる。

「わー!おきゃくさんだー!」
「おにーちゃんたち、どこからきたのー?」
「え、えっと…。」

戸惑うトゥルスとプロキオン。
そこへ女性が現れ、子供達を連れ戻す。

「こらっ!知らない人に話しかけてはいけません!早くこっちに来なさい!」

女性は子供達と共にテントの中に入った。
その様子を見ていた周りの村人達がざわざわし始める。

「ひぃっ、お、お前ら、どうやってあの森を抜けたんだ!」
「よそ者!どうせお前らもあいつらの仲間なんだろ!?」
「もうお前らにやるものは何もねぇ!さっさと出ていけ!」

村人達がトゥルス達を責め立てる。
この状況はまずいと察し、森へ引き返そうとしたがもう遅かった。

後ろを向くと目の前に男達が立ちはだかる。
周りを見ても男達がいる。
二人は男達に囲まれてしまった。
胸元にカシオペア座のマークがある男達、盗賊団カシオペアの奴らだ。

「騒ぎを起こしたのはお前達か。」
「お前達を姉貴の所へ連れて行く。」

「ど、どうしようトゥルス…。
「ここは大人しくついて行くしかないな。」

抵抗するとさらに面倒なことになると思った二人は、カシオペアの奴らに同行することにした。

しばらく歩くと、洞窟のような場所に着いた。
ここがカシオペアのアジトなのか。
広々とした場所の周りにいくつか部屋のような穴があり、そこには村から盗んだ物がたくさん置いてある。
そのうち一つだけ入口の横に松明が置かれている穴がある。
この穴の奥に二人は案内された。

奥には立派な椅子があり、そこに座っているのは二人が捜していた人物だった。

(リゲル…!?)

盗賊団カシオペアのリーダー、リゲルだ。

「姉貴、森を抜けここに侵入してきた者を連れてきました。」
「ありがと。あんたは下がってて。それと例の物を持ってきて。」
「畏まりました、姉貴。」

二人を案内したメンバー、盗賊団のナンバー2であろう男はリゲルの言う通りに部屋から出て行った。
彼女はどうやらメンバーから「姉貴」と呼ばれ慕われているようだ。
リゲルは二人を見ながら話し始めた。

「ようこそカシオペアのアジトへ。あんた達を待っていたわ!」
「リゲル!君を見つけたんだから早く僕の魔導書を返して!」
「ちょっと待ちなさい!ちゃんと後で返すからその前にあたしの話を聞いてよ!」
「プロキオン、落ち着け。リゲルの話くらい聞いてやれ。」
「うっ、分かったよトゥルス…。」
「トゥルスにプロキオンね。覚えたわ。あんた達に聞いてほしい話があるの。」

真剣な顔で二人を見るリゲル。
そんなリゲルを見て二人も真面目に話を聞こうと思った。

「まぁ見れば分かったと思うけど、ここハインツェルはあの森を境に富裕層と貧困層に分けられてるの。」
「確かにそうだな。森の向こうは豪華な家や建物が多かった。」
「でも昔は普通の村だったはず…。それがどうしてこんなことに?」
「プロキオンの言う通り、ハインツェルは元々一つの平凡な村だった。でもあの村長がこの村を変えたのよ!」
「えっ!?」

トゥルス達が出会った村長。
あの優しそうな村長がこの村を分断したという。
リゲルは話を続ける。

「あいつは村人を富裕層と貧困層に分けて、『このハインツェルを立派な町にする!』って言い出したの。
そしてあたし達貧困層からお金や宝を巻き上げて町の資金にしたのよ!」
「そんな…!ひどい!」
「あの村長、俺達を手厚くしたのはそういう事実を隠すためだったんだな。」
「だからあたし達は奪われた宝を富裕層から取り返すために盗賊団カシオペアを結成したのよ。」
「それじゃあ、カシオペアって盗賊団じゃなくて…。」
「『義賊団』って言った方が正しいわね。」
「だったら、どうして村人と無関係な俺達の物まで盗んだんだ?」
「それは、他所から来た人にこの事実を伝えたかったからよ。でも誰も取り返しに来なかった。あんた達が初めてよ。」

三人が話しているところに、先程案内してくれたナンバー2の男が現れた。
トゥルスのペンダントとプロキオンの魔導書を持ってきたのだ。
それらを二人に渡した。

「ほら、約束通り返すわ。」
「あー良かった!この魔導書が無いと僕一生初級魔導士のままだったよ!」
「村と無関係なあんた達を巻き込んだのは確かに良くなかったわ。今後は観光客と村人の物は盗まないことにする。」
「リゲル…。」
「話聞いてくれてありがと。…森の外まで案内してあげて。」
「はい、ではこちらへ。」

ナンバー2の男に連れられた二人。
リゲルの顔は何だか悲しそうに見えた。


森の外に来た。
気づけばもうすぐ夜だ。
貧困層の村にしばらくいたからか、富裕層の村が眩しく見える。

「ではお気をつけて。」

そう言ってナンバー2の男は森の奥へ消えて行った。
二人はとりあえず宿屋に戻り、部屋で今日あったことを思い出していた。

「あの村長、そのうち貧困層の村を滅ぼす気だろうな。」
「このままじゃリゲル達が可哀想だよ!何とかできないかな?」
「…希望は薄いが、明日村長のところへ行って話をしてみるか。」
「何もしないよりかはマシだよね!そうしよっか!」

これで貧困層の村を助けられるかもしれない。
そう思った二人は疲れていたからか、すぐに眠りについた。


一方、夜遅いのにも関わらず村長の家には未だに灯りがついていた。
家の中には村人や側近が数十人集まっていた。
村長は村人達に向かって話し始める。

「ついに見つけたぞ。奴らのアジトを!」
「やりましたね村長!」
「ああ。明日の朝、アジトに突撃する。盗賊団カシオペアを潰すぞ!」
「おー!」

村人達は結束力を固めた。
そして各々準備に取り掛かった。
村長は顔をニヤリとして呟いた。


「リゲルよ、首を洗って待っているがいい。」




to be continued.

 

・前置き

主人公(あなた)の性別は特に決めていません。自身に当てはめて読んでいただければ幸いです。
アロエヨーグリーナは同名飲料のオリジナル擬人化です。



2月14日。
この日に行われるイベントと言えばバレンタインだろう。
好きな人にチョコレートを渡すのが恒例になっている。
最近は男女関係なくチョコレートを贈り合う日になりつつある。

そんな日に自分のスマホに1通のメールが入る。

『君に渡したいものがあるから、ボクの家に来てね!絶対だよ!(*´ω`)』

送り主はアロエヨーグリーナ。通称アロエ。
緑色の髪をツインテールにしている人物だ。
見た目は可憐な美少女のようで、自分の周りの男子達を虜にしている。
正直自分もその可愛らしい見た目のアロエの虜になっていると思う。
だが、アロエにはとんでもない秘密があった。

それは、アロエが"男"ということだ。

所謂"男の娘"というもので、女の子の格好をした男だ。
自分が知ったときはとても驚いたのを覚えている。
本人をまじまじと見ても、どこからどう見ても可愛い女の子にしか見えなかったからだ。
アロエ曰く、本当の性別を隠しているわけではないらしいが、本当の性別を明かしたのは自分にだけらしい。
つまり、他の男子達はまだアロエのことを女の子だと思って惚れているようだ。
アロエが本当は男だと知ったらどうなるだろうか。

話が逸れてしまったが、ここから本題だ。
そんなアロエから誘いの連絡が来た。
アロエの家の場所は知っているが、家の中に入ったことはない。
既に緊張してスマホを持つ手が震えているが、スマホを服のポケットにしまい、彼の家に向かった。

家の前までやってきた。
見た目は普通の一軒家だ。
彼の家族構成は、兄が二人いるということしか知らない。
扉の前で深呼吸をし、チャイムを鳴らしてみた。

ピンポーン

数秒後に扉が開く。
出てきたのは部屋着のアロエ。
ベージュのタートルネックに白いズボンを履いている。

「いらっしゃーい!待ってたよ!外寒いでしょ?早く中入って!」

言われるがままに家の中に入る。
お邪魔します、と言ってみたが、アロエ以外の声は聞こえてこない。

「ヨー兄とベリ兄は出かけちゃったから、今はボク一人しかいないよ。」

そうだったのか。
ヨー兄は長男のヨーグリーナ、ベリ兄は次男のブルーベリーヨーグリーナのことだ。
よく兄の話をしていたから覚えてしまった。
とても仲良しな3兄弟だ。

「準備してくるから、座って待ってて!」

リビングに入り、椅子に座る。
しかしとても綺麗で広々としたリビングだ。
男3人で住んでいる家とは思えない。

しばらく待っていると、アロエが何かを持って出てきた。

「おまたせ!ボク特製のチョコレートケーキだよ!」

目の前に出されたのは、長方形のチョコレートケーキ。
ケーキの上にはチョコホイップとチョコスプレーが乗っている。
とても美味しそうだ。
フォークを手に取り、一口食べてみる。

「どう?美味しい?」

チョコホイップは甘く、ケーキの中に入ってるチョコはビターを使っていてバランスが良い。
自分好みの味だった。
美味しい、と告げると、アロエは喜んだ。

「やったー!嬉しー!」

しかし本当に美味しいチョコレートケーキだ。
さっきからフォークが止まらない。

あっという間に完食してしまった。
ごちそうさまでした、と言うとアロエが皿とフォークを台所に持って行った。

ふぅ、と一息つくと、自分の身体に異変が起きた。
何だか顔が熱い。いや、身体全体が熱いのかもしれない。
部屋にはエアコンがあるので暖かいのは確かだが、熱い。
台所から戻ってきたアロエが自分の顔を見て驚く。

「どうしたの?顔真っ赤だよ!大丈夫?」

大丈夫、と返したが、正直大丈夫ではない。
立ち上がってみたが、ふらついてしまう。
その様子を見てアロエが慌てる。

「あわわ、どうしよう…あ、ボクの部屋のベッドで横になったら?そしたら治るかも!」

アロエに誘導され、ふらつきながら彼の部屋に入った。
そしてベッドに横になる。

「ちょっと待ってて!水持ってくる!」

躊躇なく彼の部屋に入ってしまった。
彼の事だからすごく可愛い部屋かと思っていたが、案外シンプルな部屋で驚いた。
ベッドの枕元に可愛いぬいぐるみが数体置かれており、壁には彼がよく着ているであろう女性用の服が掛かっている。
あとはタンスや本棚、机が置かれているくらいだ。

ところで何故急に身体が熱くなってしまったのだろうか。
あのチョコケーキを食べてからだ。
そういえばチョコ系のお菓子にはお酒が入っていることがある。
まさかそれで酔ってしまったのか…?
しかしアロエはお酒が入ってるとは一言も言っていなかったはずだ。

そんなことを考えながら部屋を見渡していると、水が入ったコップを持ってきたアロエが部屋に入ってきた。
扉を閉めて、机の上に水入りのコップを置いた。
ありがとう、と言ってコップに手を伸ばそうとしたとき、

ドサッ

…?

「…どうやら効いてきたみたいだね。」

アロエに肩を掴まれ、そのままベッドに押し倒された。
目の前にアロエの綺麗な顔がある。
何だか怪しい笑顔を浮かべている。
距離が近すぎて、心臓の鼓動が聞こえそうだ。

それに"効いてきた"とは何だ。
まさか何か混ぜたのか?

「実はね、あのケーキに惚れ薬を混ぜてみたんだー!意外と即効性だったんだね、これ。」

そういうことだったのか。
全く気付かなかった。
そんな怪しいものをどこで手に入れたのか。
何故自分に対してそんなことをしたのか。
色々訊きたいことが山積みだが、訊ける状況ではない。
頬を撫でられてビクッとしてしまった。

「ふふっ、君って本当に可愛いね。食べてしまいたいくらい。」

どうしてこうなった。
もうダメだ。
薬のせいか、身体が動かない。
彼に触れられてビクビクするしか出来ない。
そしてアロエは耳元で囁いた。

「ねぇ、君のこと、食べていい?」

アロエに食べられる、と思ったその時。

「アロエ!何してるんですか!」
「おー、何か大胆なことしてんなー!」
「兄さん!そんなこと言ってる場合じゃないです!早くアロエを引き剥がすの手伝ってください!」

扉がバーンと開かれ、彼の2人の兄が割り込んできた。
助かった。ありがとうお兄さん達。
アロエはとても不満そうな顔をしていたが。

帰り際、ブルーベリーヨーグリーナに何回も頭を下げられた。
そしてお詫びにジュースを貰った。

家に向かってる間、頭の中はさっきの出来事でいっぱいだった。
自分に惚れ薬を入れたということは、まさかアロエは自分のことが好き…?

そう考えたら、また火照ってきてしまった。
外は寒いのに。


結局、今日は一日中アロエのことが頭から離れなかった。


終わり