さて、いよいよ「りくべつ 冬」の感想を書いていこうと思う。
最初に、初見の感想を書いておく。みんな、西田藍さんのことが好きすぎるだろう。
もうひとつ、あえて言おう。都会に疲れた若い女性が、田舎の温かな人情に触れて再び生きる力を取り戻す、などというストーリーラインは凡庸で語るべきものがない。
だが、この作品の魅力はそんなところにはない。さすが二作目と言うべきか、本作品は西田さんの表せる表現に満ちている。
僕は陸別町は訪れた事がないので、このショートムービーがどこまでその魅力を表せているか、正しく評価出来ないかもしれない。でも、西田藍さんの魅力なら、ある程度はわかる。その意味で言おう。
「りくべつ 冬」は魅力たっぷりな映像に仕上がっている。
冒頭の、コテージで書きものをする西田さんと、窓の外の陸別町のゆるキャラ、しばれくんとつららちゃんの唐突さには、少しばかり戸惑った。
そして、その次のシーンは、雪原の中で彷徨う西田さんだ。蹌踉として力尽きた西田さんを助けるのは、しばれくんとつららちゃんだ。
ゆるキャラカップルの引く橇の上で目を覚ました西田さんだか、次のシーンでは馬上の人になっている。巻かれたマフラーはつららちゃんのもの。
ここにきて、鈍い僕でもわかった。これは現実ではない。心象風景だ。
おそらく、この後のシーンでも、しばれくんとつららちゃんは、西田さん以外には見えていない。そういうメタな映像だ。
ここまでのシーンは、自らの居場所を見失い、心のある場所である陸別を目指すもののたどり着けなかった彼女に、そっと手をのべて誘う優しさ、が感じられる。
前作「りくべつ 夏」では、西田さんは旅人だった。今作では、「藍ちゃん、おかえり!」の言葉に象徴されるように、彼女は仲間として受け入れられている。
陸別に行こうとして迷った彼女を、陸別の町の方から手を引いて迎えてくれた、という構図だろう。
単に「りくべつに帰る」だけではなく。
りくべつで彼女が最初にするのが、カフェtomonoの坂井さんと塩ラーメンを食べつつ、ガールズトーク的に旧交を温めることだ。※1
ここの会話が、すごく親密さが感じられるし、ほとんど素のような西田さんの笑顔がとても良い。
「夏」の時は「りくべつの旅」という表現だったけれど、「冬」は「りくべつに生きる」という感じだ。
陸別開拓の祖である関寛斎のについて西田さんが話を聞き、記念館を訪れている。また展望台でも「数年に一度見られるというオーロラも、陸別に住めば」と語る。
決定的なのは、しばれフェスティバルの描き方だ。大会の実行委員長を登場させ、期間中は町の子どもたちとふれあい、祭りの後の撤収作業まで見守る。
イベントそのものを描いたのは、タオル回し大会ぐらいだ。視点は徹底して内側、地元の人から見たしばれフェスティバルだ。むしろ実行委員のBBQの方が、しっかり撮られている。
これはなかなかだ。観光の魅力なら祭りの楽しさを描いた方がいい。でも描いたのは、陸別の人々の暮らしなのだろう。今回、観光スポット紹介みたいなのは、ほぼ無いに等しい。
そういえば、tomonoの坂井さんも、陸別に魅力を感じて移住してきた人だった。
祭りが終わり、雪像や氷のハウスを取り壊すのを眺め、打ち上げも終わった翌日、ここを寂寥感ではなく、新しく歩き出す明るさとして表現しているのは象徴的だ。
「祭りが終わり、また私の人生が始まる」
この視点が「りくべつ 冬」のらしさ、なのだろう。凡庸なストーリーラインなどと失礼な事を書いたが、力をくれるものの表現はありふれたものではないと思った。安易な感傷ではない、厳しい自然の中に生きる人の強さか。
実はそここそが、陸別の魅力なのかもしれない。
ラストシーンの西田さんの見返りの笑顔。それがすごくいいのは、そこまでに街の人々の明るい強さを下地に描いたからだろう。
おまけ
今作での西田さんの読書シーンは、氷の家で『パーマー・エルドリッジと三つの聖痕』、湯上がりで『愛の生活 森のメリュジーヌ』を読むところだけだけど、冒頭のコテージのシーンでは三冊の本が本が積んである。※2
その一冊はカポーティ『ティファニーで朝食を』。西田さんのフェイバリットだ。※3
この本と映像については色々書きたいこともあるし、あかえぞ文藝社で紹介されていた高田郁『あい-永遠に在り-』も、パラパラと読んでみたら、なかなか西田さんのお好きな感じがの本だったので、改めて書きたいと思う。
※1 映像では何も言っていないが、tomonoのブログに、これが塩ラーメンである事が書かれている。
※2 それにしてもタイトル長いのが多いな。一番短いジャック・ロンドン『白い牙』は冬の北海道で読むのに良さそうな本だが、僕は未読だ。あ、でもこれkindle unlimitedで読めるのか。
※3 ちなみに小説の方。ヘップバーンの映画も僕は嫌いじゃないが、小説はまた別物だからなあ。確か、西田さんは映画の方はご覧になっていない筈。