SF映画総解説part3『トロール・ハンター』 | 高い城のCharlotteBlue

高い城のCharlotteBlue

書評家アイドル 西田藍さんの、書評を紹介してゆきます。
基本的スタンスとして、書評でとりあげている作品は読んだことがあるとしています。
ネタバレを気にする方はご注意ください。

 

SFマガジン 2018年2月号 SF映画総解説part3

『トロール・ハンター』

 

 SFマガジンは2017年10月号から三回にわたってSF映画総解説を特集してきた。正直、これは永久保存版だと思う。まあ、中には「ちょっと待て、それSFか?」という禁断の質問が口をついて出そうなものも挙げられているけれど。※1

 

 西田藍さんは、part2で『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』と『機動戦艦ナデシコ The prince of darkness』について書かれている。が、申し訳ないのだが、僕はこの両作品を観ていないのだ。どちらもTV版は、何故か学生時代に研究室で延々と流されていたので観ているのだが、劇場版はノータッチだ。※2

 よって、これについて西田さんが書かれたことについて、コメントすることができない。

 しかし、part3は違った。びっくりした。

 えっ、『トロール・ハンター』だって?


 僕はカルト映画とかB級ホラーのマニアではない、と思ってるんだが、一般人のレベルからすれば、まあまあ観ている方だろう。もっともこれはSF読みと同じで、上を見れは遥かに遠い頂きがあることを知っているからかもしれない。

 とはいえ、そうか、『トロール・ハンター』か。ああ、なんてこった。これを読んでからガルむすに行き、西田さんにあれこれ聞いてみたかった。だがガルむすはもう閉店してしまった……ん、これってもう書いたな。

 

POV方式のモキュメンタリー映画がホラージャンルを中心に流行した。悪魔や魔女など、ご当地モノが殆どではないだろうか。本作はノルウェーのご当地妖精、トロールが主役である。

 

 この『トロール・ハンター』は『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』みたいなモキュメンタリー方式のホラーなんだけど、その手の作品がだいたい肝心のモンスターをなかなか見せないのに対し、割とあっさりトロールを見せてくれる。

 その、凶暴でUMA的なトロールを狩って世間から秘匿しているトロール・ハンターのおっさんが実に良いのだ。汚くてダサくて泥臭くって、そして本当にプロフェッショナル。このおっさんの存在がリアリティを感じさせるのだ。学生たちが回すカメラの臨場感ではなく。

 トロールの皮かなにかを煮詰めて作った、トロール臭のする液体を塗りたくり、手製の鎧を身につけて、怪獣のようなトロールに敢然と立ち向かう、小汚い中年男。

 西田さんは美形好きなのだけど、こういうおっさんも嫌いじゃないらしいんだよな。『ブレードランナー2049』の老デッカードとか、『インディペンデンス・デイ』のベトナム帰りパイロットとか。

 

熊の密漁事件を追うドキュメンタリーを撮影していた大学生が出会った怪しい男。彼こそが、誰からも知られずに森を守り続けてきたトロール・ハンターだったのだ。

 

 そうそう。“誰からも知られずに森を守り続けてきた”ここ大事。

 正直、他の映画の解説はみていないせいもあるけれど、なんか情報を伝えようとする姿勢が強くて、西田さんの想いが足りないなあ、と思ってたんだが、この『トロール・ハンター』はいい。コンパクトにまとまって、無駄を削ぎ落としたかのような輪郭の強さがある。

 

トロールは大きさもさまざまなのだが、最後、まるでラスボスのように立ちはだかる姿はまるで怪獣。可愛くはないがユーモラス、ほどよい恐怖感、独特のテンション、北欧の美しい風景に、好事家以外もきっと癒されるに違いない。

 

 ここ。ここだ。この結びの素晴らしさ。

 ホラー映画のモンスターを愛で、光景に癒されるとまで言ってしまう。これは未見の人も興味をそそられるのではないだろうか。

 しかし、なんといっても「らしい」のは、「好事家以外もきっと」と書いて、自らがマニアックだと告白してしまっているところだろう。もちろん、存じ上げておりますよ。

 感性が重なった気がして嬉しい。

 ああ、もう一度観ようかな『トロール・ハンター」※3

 

 

 

 

 

※1 一般の方にはわかりにくいかも知れないけれど、その界隈では「これSFなのか?」とか「SFとしてどうなの?」という言葉で戦争が起きる。

 

※2 西田さんと僕の決定的な違いがこのあたりだ。僕はアニメをほとんど観ないのだ。でも『ネオヨキオ』とか『アーチャー』とか『ボージャック・ホースマン』とか、西田さんに教えられたアニメはどれも面白かった。

 

※3 Amazon primeにあった。