奥日光で車中泊! | 結月美妃の“あれアレこれコレ”

奥日光で車中泊!

 結月でございます。

 

 結月サロンでやろうと思うプロジェクトがいくつか上がっていて、その話をちょうどこの間の土曜日、中国料理を食べながら話していた。

 

 しかし、こうした馬鹿話みたいなことでも、自分にはなかったアイデアが他人からは出てくるからおもしろい。

 

 わたしがこんなことを考えてるんだけど、みたいな話をしたら、こんなのどうですか?とそのひとならではのアイデアが出てくる。

 

 わたしもかなりいろいろ自分では考えているほうだと思うけれど、たぶん100年考えても出てこないアイデアがひとと話してた得ることができる。

 

 やはり、みんなそれぞれ人格があって、個性があるから、ひとりひとりがオリジナルを持ってる。それを集結させたらどんどんおもしろくなるなっていう予感。

 

 だから、どんなにくだらないって思うアイデアでも、非現実的なものだとしても、とりあえずは話してみるのがいいね。それが実現不可だとしても、そこからまた新たな発想が枝分けれする可能性は高いから、サロンの中では自己規制をしないようにするのがいい。

 

 と、そんなことを昨晩、家に帰ってから考えていたら、全然眠れなくなって、全然落ち着かない。

 

 このまま猫を抱っこして朝まで寝るのもいいけど、それには眠くないのに無理して眠ろうとしなければならないからどうも馬鹿らしく思った。

 

 そして、ふと、ずっと気になっていたこと、それはわたしの聖地である奥日光で車中泊をしたらどうだろう?っていうくだらない考え。

 

 先月、結美堂女子旅で奥日光を訪れたはいいけど、夜、雨が降ってしまって天体観測の名所になるほどの満天の星空を見ることができなかった。

 

 わたしは小学生4年生の頃、天文学にハマってしまって、将来は天文学者になりたいなんて思っていた。そのせいか今でも星や宇宙のことは好きで、暇なときにはウィキペディアで何百光年も離れた星のことを調べて読んだりしている。

 

 宇宙物理も好きで、ビッグバン以前の話だとか、宇宙の果ての話、さらには宇宙はひとつではなく、複数あるかもしれないといった学説を読んで楽しんでる。

 

 しかしながら、東京にいると星なんてオリオン座ですら見えない。

 

 昔、熊本の阿蘇で天の川銀河を見て、それはもう感動してしまった。あれ以来、たくさんの星は見ていない。

 

 よし、じゃあ、奥日光まで愛車を走らせて、車中泊で行っちゃうか! と思ったのが昨晩の21時過ぎ。

 

 どうせ家で寝たって、今日の自分と明日の自分は変わらない。しかし、満天の星空を見ると、きっと明日の自分は今日とは違う。

 

 台風はもう過ぎ去ったし、大丈夫だろう。早速、ヤフーカーナビで調べると、一般道で3時間15分ほど。夜だから渋滞がないものね。

 

 そして、わたしはお腹の上にいた猫をどかして着替えると、クローゼットから掛布団と枕を取り出した。

 

 それからペットボトルには日光の水を使ったという栃木産の日本酒を入れ、水筒に沸騰させた湯を入れた。

 

 これはやっぱ車中泊だったら、夜食はカップヌードルでしょ!と思ったから。

 

 愛車に布団やらを積み込む。空を見上げると、お月様が出ていた。

 

 V6エンジンを始動し、とりあえず近くのコンビニへ。カップヌードルは車中泊ならカレー味かなと思いつつ、汁物はクルマのなかでこぼすといやだしやめにして、ミートソースドリアを買った。そして、ポッカがだしているインスタントのリゾット。

 

 走り慣れた国道4号線を飛ばす。日曜の夜だけあって、交通量は少ない。

 

 しかし、途中で雨がパラついてくる。わたしのクルマが台風の雲に追いついてしまっているのかもしれない。

 

 いよいよ日光市に入っても雨は止まない。これではまた星空は無理かなという気になってくる。

 

 東照宮を超えたくらいかは“ゾーン”に入ってきたという感じ。だんだん霊気が帯びてくるというかね。

 

 上り坂にある公衆トイレは真下に清流が流れている。昼間はどうってことないというのに深夜は思わず身震いしてしまうほど怖い。トイレが怖いのではなく、清流が激しく岩をこする音であったり、頭上にそびえる木々が怖い。

 

 このあたりは霊気は強くても、それは自然霊であり、人霊ではない。

 

 用を足すと、再びクルマに乗り込み、さらに山を登っていく。そしていろは坂に入る。

 

 真っ暗闇のいろは坂でヘッドライトをハイビームにしてコーナリングを続ける。落ち葉で路上が埋め尽くされて、ほとんほ車線は見えない。

 

 クルマなんてわたし一台だから、イニシャルDさながらのドリフトなんてしないけど、コーナーを攻めていく。

 

 いろは坂を上りきると、華厳の滝。そして中禅寺湖。さらに男体山。

 

 しかし、暗闇でどの名所も見えない。中禅寺湖は真っ黒な床のようにかすかに見えた。

 

 さらにアクセルを踏む。落ち葉の量は相変わらずで、両岸を木々に挟まれハイビームが照らすその風景は童話の『モチモチの木』さながら。

 

 ワイパーが数秒に一度、フロントガラスの上を滑るほどの雨は降り続けている。

 

 竜頭の滝にかかる橋でクルマを止めた。パワーウィンドウを開けると、滝の音が響く。水量が多い。暗闇の中で不気味な音色に聞こえる。

 

 そして、戦場ヶ原にたどり着いた。ここで車中泊しようかと思ったけれど、駐車場からの風景は今ひとつだと思った。一度切ったエンジンをまた動かすと、戦場ヶ原を抜け、光徳牧場へ向かった。

 

 さっき以上に右、左から木々が覆うようにして襲いかかる。落ち葉で道は見えない。

 

 すると、煌びやかな肉体と一点の瞳がライトに白く照らされ輝いた。

 

 鹿が道を横切り、軽くジャンプして森へ消えた。

 

 鹿の動きと肉体は一瞬だけだったけれど、その形状はおそろしく美的だった。

 

 いよいよ駐車場に着き、そこは森の中。男体山がそばにいるはずだけれど、暗闇でまるで見えない。

 

 クルマを降りて、空を見上げた。雨が顔を濡らす。

 

 しかし、そこにはおびただしい数の星に満たされていた。雨が降っているのに雲がないようでとても不思議な感覚に襲われる。

 

 オリオン座がギラギラと輝いている。その光が力強い。

 

 それぞれの輝く星が太陽のような恒星だと考えると、意識が朦朧となる。あまりに壮大すぎて、生きているのが馬鹿らしくなる。

 

 「人間は考える葦である」

 

 そんなのは屁理屈に違いない。宇宙に比べて、あまりにも自分がちっぽけすぎる。

 

 しばらく星空を眺め、後部座席に座った。これは車中泊というものか。非日常的でとてもいい。

 

 ペットボトルに移した日本酒をそのまま飲みつつ、ドリアを食べる。クルマの天井は常に雨が叩く音がしている。

 

 台風の影響か、風が強くて、頻繁に木々がけたたましい音を立てる。クルマの室内灯を消せば暗闇になる。

 

 こういう食事もなかなかいい。味わいがある。銀座の料亭よりもときめきがあり、暗闇の恐怖がクルマのボディに、そしてガラスにへばりついているよう。

 

 しかし、なんて霊気が強いのだろう。

 

 後部座席に枕を置き、布団をかぶった。するとリアウィンドウから星空が見えた。

 

 数時間眠った。目が覚めてもまだ夜は空けておらず真っ暗闇のままだった。

 

 ちょうど今、奥日光は紅葉シーズン。暗闇でまったく見えないけれど、夜が明ければ紅葉が見られる。

 

 もうまもなく太陽が出るだろうと思いながら、エンジンをかけた。そして、まだ暗闇の戦場ヶ原を走り、中禅寺湖へ向かった。

 

 中禅寺湖の駐車場で夜が明けるのを待つ。暗闇の目の前にある中禅寺湖は天候が荒れたせいか、荒海のように波が激しく、引き込まれそうになる。そしてそばには男体山があり、その形状も黒く光っている。

 

 この中禅寺湖は怖かった。まさしく「轟く」とはこういうことで、襲われそうな感覚が訪れ、クルマの中に逃げ込む。

 

 後部座席に寝そべっていると、小一時間は眠った。

 

 するとほのかに明るくなっており窓から外を見ると、真っ黒だった男体山が紅葉に染まり、色鮮やかだった。中禅寺湖は相変わらず荒れていたが、それ囲む山々は紅葉し、色彩に満たされている。

 

 暗闇から色彩が生まれる。

 

 いろは坂を下り始めると、夜は完全に明け、陽が山を照らす。わたし以外は誰もいない。すべてが紅葉していて、朝の淡い陽の光が紅葉を照らすその景色は、あまりにも美しく、まるで死後の幽界にいるようだった。

 

 透き通ったオレンジ色で、輝いている。オーラが充満している。

 

 こんな神がかった風景はこれまで見たことがあっただろうか。

 

 そして、昨日のわたしと今日のわたしは同じではなくなった。