着物は後ろに着る | 結月美妃の“あれアレこれコレ”

着物は後ろに着る

 結月でございます。

 サッカーのワールドカップって始まってたんだ… ぜんぜん知らなかった。と、サッカーにはまるで興味がないわたし。

 でも、一時期の熱狂もないだろうから、興味がないひとも珍しくないのではないでしょうか。

 さて、着物のお話をすると、着物っていうのはね、後ろに着るものなんですよ。わかりやすく言えば、後ろへ向かって着る。

 着物は後ろに衣紋を抜くから後ろに着ないときれいにならない。

 これは極意みたいなもので、着物を着た後も着物の動作としては後ろに向かって動くのがいいです。ああ、これ、女性の話で、男物の着物は知りません。

 わたしは着物を教えるときも、着付けるときも基本的には衣紋抜きは使わないんですよ。どうしてかというと、あたかも紐で引っ張られた感じが出て不自然ですから。時代劇なんかの着付けは無理やり後ろに引っ張っているから、わたしなんかが見れば不自然に見えます。

 上手に自然に着こなせれば、衣紋抜きなんてものはなくてもナチュラルに後ろに抜けてくれます。それにあれを使うと素人っぽくて嫌なんだけどね。

 あと、衣紋抜きで引っ張ると着心地が悪いです。ツッパリ感があってね。

 さて、とにかく着物は後ろに着るってことを言いたいんだけれど、これが皆さんできません。

 わたしの教え方が悪いのかもしれないけど、うちに生徒でもナチュラルに着物を後ろに着る極意をマスターしているひとはひとりもいません。こういうのって技術以前の「感覚」だから教えようと思っても伝えにくいんですよ。

 皆さんね、着物を前に着ちゃうんです。でも、前に着るっていうのは、洋服です。

 ブラウスだってジャケットだって前でボタンを留めるから、前に向かって服を引っ張るでしょう? だから、洋服は前ですね。

 そうした洋服チックな動きが染み込んでいるから、後へ着るという感覚がわからないわけです。

 ですから、自分で着物を着ても衣紋が抜けないし、それでいて衿元がきれいにならない。それもそのはず。着物は背中のほうへ、後ろへ着て衣紋を抜いて、後ろへのベクトルで衿元を決めるんだから。

 でも、みんな、洋服のように衿元から着ようとする。

 わたしの着付けはナチュラルで、苦しくなくて、ふんわりと柔らかいけど崩れない。それでも着付けてあげて、ちょっと崩れるひとがいます。

 それはいくら崩れないような着付けをしてあげても、動作が悪すぎていくらなんでもそれじゃもたないよっていう状態なんですね。

 総じて姿勢が悪いです。猫背で前かがみだと当然衿元は開きます。背筋が真っ直ぐ伸びていて、つまり後ろへちゃんとベクトルが向いていたら絶対に崩れません。どういう動作をするときもこれは意識するべきです。

 着物の衿元が開かない動作がこそが美しい動作であって、例えば歌舞伎の女形など見てもその動作は背筋にピンと一本通っていて踊ってもその軸はブレず、そして決して猫背になることはありません。

 ちなみに洋服と和服の差と同じように、つまり根本的に西洋と日本では動作が異なっています。例えば西洋のバレエは上に向かって跳躍します。しかし、日本の能楽や歌舞伎の舞は下に向かって跳躍します。

 下に向かって跳躍するというのは矛盾したように聞こえますが、でも事実そうやっています。下に向かって飛ぶのです。なので、西洋人の肉体と日本人のそれとの違いは、重心の位置です。日本人は重心が下にあります。

 これは推測ですが、日本の農耕民族で腸が長いので、やはり腸の短い西洋人より重心が下にあったほうがいいはずです。

 ところが中途半端な西洋化で、また本来の日本の動きも中途半端に捨ててしまっているから、日本人の肉体はおかしなことになっているわけです。その典型的な例が歩き方ですが。

 そして最も大事なのが姿勢。

 姿勢が悪いひとは歩き方も当然悪いです。だから裾も崩れやすい。姿勢が悪ければ、どうやっても着物は美しく着ることはできません。

 今までたくさんのひとに着付けを教えてきて、体の形は十人十色で同一ということは一度もなかったけれど、統計的にほぼ間違いないのは猫背で姿勢が悪いひとはおっぱいが下に下がっています。そして乳房の上の部分が地すべりを起こしたようになっていて肺がある胸のところがおっぱいがない分、ペチャンコになります。

 これは積年の姿勢の悪さがもたらしたもので、一度こうなったらおっぱいが上に昇ってくることはないから、やっぱり姿勢は大切です。

 ただ地すべりした山のようになっても、今からでも姿勢を直せばおっぱいは上には来ないけれど、背中や肩、そうったところは良くなります。あと、姿勢がいいほうが下腹部に贅肉がつきにくいです。

 ですから、着物の効用として、それをきれいに着こなせる姿勢をしていれば変な太り方はしません。洋服はすごくだらしのない太り方をします。

 ともかく、普段は洋服でいいのですが、着物で姿勢なり身のこなしを正したひとは洋服を着ても綺麗に見えるものです。

 今は誰もが洋服のルーズな動きが体の芯まで染み込んでいるから、これを追い出すのは大変な作業ですが、それをやれば綺麗になります。

 体のルーズな動きがなくなっていくと、実は運気も上がります。なぜなら、見た目がよくなって、スッキリとした印象を周囲に与えるからです。そして、血行も良くなり、肌艶も良くなるからです。

 運気が悪いひと、運気が悪い状態というのは、総じて肌艶が悪いものです。

 そういう意味でも、すごくお肌は大事です。

 さて、話は変わって、ちょうど今日、夏物の帯揚げと帯締めがまた京都から届きました。たくさんではありませんが、とてもきれいなものがあります。

 写真を撮る時間はなかったのですが、結美堂に来てくださっている方はレッスンついでにご覧ください。

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