亭国皇帝(楚北捷)が片手を上げると、人々は一斉に静まり返る。
引天籟はほっとして息を吐き出す。
流石は昔日の英雄は今も健在だ。
そして亭国は彼によって支えれれている。もし彼に何かあれば‥‥彼の長子 長王(楚長笑)はそれを支える事が出来るのだろうか。
まだまだ、長王(楚長笑)が帝位に登極することは先の事のようだ。
弓を射終わり、侍従が白い幕を外す。
幕が外された時、侍従は高らかに勝者を発表する。
「慕容氏、维昊国の一名ずつが的中です!」
歓声があがり、人々は驚愕の色を湛えて二人を見る。
一人は精悍な顔の男、一人は周天祐
侍従は二人以外を壇上から降ろし、次なる競技を発表する。
「次なる試合は暗射で行う、一箭双雕(いっせんそうちょう)です!」
暗射!?
一箭双雕(いっせんそうちょう)!?
人々は驚く。
一箭双雕(いっせんそうちょう)とは一矢(ひとや)で二羽の鳥を射止めること、つまりは一矢で二つの的を射る事なのか?
これは周天祐にとって不利なのではないか?
引天籟は周天祐に視線を向ける。
亭国皇帝(楚北捷)は周天祐に視線を向け、心の内で呟く。
”朕はそなたの中に揺るがぬ才を見出している。だがそれは未だ原石で、輝きを放ってはいない。その才は、数々の試練を乗り越えてこそ輝き始める事が出来る。それ故 まずは最初の試練を与えよう。ここを突破せねばこの先はないぞ。”
皆の視線が集まる中、二人は壇上に立つ。
今度も薄い白い布が掛けられ、観客の視線もいるものと同じ視界となる。
チャリンチャンチャリンチャン
鈴の音は鳴り響く。
周天祐は心を落ち着け、神経を集中させる。
チャリンチャンチャリンチャン
音のする方向は分かった。
後は迷いなく放つことだ。
仮に方向に迷いがあれば、二つの的を射抜くことは出来ず、最初の的で止まってしまう。
二人の剣士は同時に矢を放つ。
矢は鋭い音を立てながら飛んでいく。
一つの矢は的を一つのみ貫通させた処で止まり、もう一つの矢は二つ目の的を射抜いていた。
侍従が高らかに勝者を叫ぶ。「この試合の最後の勝者は维昊国です!」
歓声が上がり、人々はこれらの試合に参加している剣士たちを称賛する。
引天籟は胸をなでおろす。
だが、これは亭国と同じ壇上に立つための通過点に過ぎない。
これからが本当の勝負だ。