【6-2】月宮の系譜・外伝2~bi-eye(片青眼) 第6章 亭国皇宮 no.2 | yuz的 益者三楽

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亭国の宮殿によく似た寝殿の中で一人佇む秦玉風(引凰華)の目の前に 一人の美しい人がいた。彼女は赤子を抱き涙を流しながら、嘆く。

その声は天に届くかのように哀しみに満ち、人を引き付ける。

 

秦玉風(引凰華)はその女人が余りにも哀れで、そっと近寄り訪ねる。「あなたはどうして泣いているのですか?」

 

女人はその美しい顔を上げて涙で濡れた黒い瞳で秦玉風(引凰華)を見つめる。

秦玉風(引凰華)は彼女の嘆く姿を哀れに思い、更に言葉を継ぐ。「どうすれば、あなたの哀しみを慰める事が出来るのですか?」

 

女人はその胸に抱(いだ)く赤子に視線を落とし、一声嘆いて言う。「この子は睚眦(がいし)として生まれ、龍となれぬ定め。それ故、父に慈しまれぬ定めを嘆いております。」

 

睚眦(がいし)‥‥?

確か、龍となれなかった龍の子の一人ではなかったかしら‥‥?

秦玉風(引凰華)は昔 母妃(秦香霧)より聞いた”竜生九子不成竜”の伝承を思い出す。

 

竜生九子不成竜とは龍となれなかった9人の龍の子供たちを示す言葉。

睚眦(がいし)とは異形の龍の子にして、9人の龍の子たちの中で最強の戦士である。父龍は生まれ出でたその姿が龍ではなく異形であったため、これを殺そうとする。辛くも命を長らえた睚眦(がいし)は尚も自分を認めようとはしない父龍を一睨みし、故郷の地を後にし放浪したという。

 

ヒューン

不意に風を切るような弓矢があの女人を射る。

一瞬の出来事に秦玉風(引凰華)は驚き、あの女人へと視線を移すと、彼女の身体からは幾十幾百の血が流れ始める。

ピチャン、ピチャン、ピチャン、ピチャン

血は止めどなく流れはじめ、辺りを血の海に変えていく。

 

紅色の鮮血は次第にその幅を広げ、少しずつ秦玉風(引凰華)に向かって広がっていく。

 

イヤ!

秦玉風(引凰華)は恐怖の余り、一歩後ずさる。

 

秦玉風(引凰華)はこれまで武術訓練は行ってきたが、それはあくまでも護身のためでこのような血生臭い場面をこれまで見たことはない。

生々しいまでの血生臭い光景に秦玉風(引凰華)の身体は強張り、血の匂いが辺りに立ち込める頃には眩暈を起こしそうで、今すぐにでもこの場を立ち去りたかった。

 

だが、傷を負った女人を見捨てる事も出来ず、勇気を振り絞って女人に近づき彼女の腕をとってこの場から共に逃れようとする。「早く逃げましょう。このままここにいれば死んでしまいます!早くこちらへ!」

 

女人は弱々しく秦玉風(引凰華)にその腕に抱いている赤子を差し出して言う。「…‥私はもうだめです。どうか、この子をお願いします。」

白皙の美しい腕は血に染まり、赤子を包む白い布を赤く染めていく。

 

そして薬師である秦玉風(引凰華)は気が付く。

この女人の傷は彼女の命を奪うほどの重傷で、彼女が決して助からないことを

 

秦玉風(引凰華)は恐怖と哀しみをその胸に抱き、女人から赤子を受け取って走り出す。

周りの景色は木々が生い茂る林から次第に広々とした草原へと変わり、秦玉風(引凰華)は必死に走り抜けていく。

長い間走った後、秦玉風(引凰華)は疲れて草の上に膝をつく。

 

ハァハァハァ

息を切らして草の上に膝をついた秦玉風(引凰華)はその腕に赤子を抱いていないことに気が付く。

!?

子供は?赤子は何処?

秦玉風(引凰華)が急いで辺りを探し始めた時、一つの長身な影が彼女を覆う。

玉風(引凰華)がゆっくりと顔を上げると長身な一人の男が彼女を見下ろしていた。

 

秀麗なその人は彼女を優しく見下ろし、手を差し伸べる。

秦玉風(引凰華)はそのよく見知っている人の顔をみて驚きの表情を浮かべる。‥‥”龍殿(周 天佑)”あなたなの?

 

 

不意に視界は明るくなりはじめ、秦玉風(引凰華)の意識は現実に引き戻される。

 

秦玉風(引凰華)が目覚めた時、辺りは既に薄暗くなっていた。

遠くでキョキョキョキョと鳴くヨダカの声が聞こえ、時刻は既に夕刻を過ぎ白い月が地平線の端から登ってくるのが見える。

 

秦玉風(引凰華)はゆっくりとベッドから身体を起こし、辺りを見回す。

どの位時間が経ったの?

あの夢は一体何だったの?

様々な思いが脳裏を過っていく。

 

秦玉風(引凰華)は自らの身体が汗でびっしょりと濡れているのに気が付き、額と首筋の汗を拭う。

 

 

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※睚眦(がいし)

  ヤマイヌの首をもち、気性が激しく荒く、争いや殺す事を好む。 9龍の中で最強の戦士

  生まれ出でた時その姿は龍の姿ではなく異形の為、父 嗔はこれを捨てようとしたが、母が哀願してそれを押し留め、命を長らえる事が出来た。 10年の内に成長したが、父龍は外見(龍の姿をしていない)を重視し彼を認めようとしなかった。彼は睨み、故郷の地を後にし放浪する事となる。