月宮の系譜・外伝~双頭の鷹 第1章 旅立ち | yuz的 益者三楽

yuz的 益者三楽

中国ドラマ・小説の非公式ファンサイトです
アメンバーについては(2023.1.21記事)を参照してください。
以前トラブルがあり、こちらは個人の方、お約束事項ご了承の方のみ了承します(商用の方不可、無言申告不可)
又、商用利用や他サイト上への一部転記などは、NGです

第1章 旅立ち

 

父の許可を得て、二人はすぐさま行動を起こし、諸々の準備も含めて、立夏節(5月初旬)に出発する事とする。

二人の武者修行の話は半日も経たない内に宮中の噂となり、先頃皇帝陛下は直々に青釭宝剣(せいこうけん)、干将宝剣(かんしょう)の二振りの宝剣を各々に授けて、二人の武運を祈る。

「朕の師であったそなたらの祖父:楚晧月、我が息子長王の師父である漠然のように、何れそなたらも我が孫らの師父となる身。そなたらが人徳と武勇を極める事はこの亭国にとって幸ある事となろう。」

二人は皇帝の言葉に感動し、拝手の礼をして感謝を意を伝える。「陛下の御期待に沿えるよう努力いたします。」

 

宮中の様々な者たち、彼らの最初の師である罗尚も二人を励まし、今回の旅が無事に達成できるよう助言を与える。このように多くの者達から助言を受ける中、唯一人それについて不満をもつ者があった。

それは、彼らの仕えていた主であるこの国の公主。

 

公主、この亭国で公主は一人しかいない。

現皇帝である楚北捷は皇后である白娉婷を寵愛し、通常多くの后達がひしめくだろう後宮で、彼女はただ一人の妃である。周辺の諸国では競って見目麗しい女人達を皇帝の許に送り届けるが、皇帝は心を動かされることはなく、只一心に娉婷のみを寵愛する。それは婚姻して数年が過ぎた後でも変わらない。

それ故、現在彼女より生まれた子達のみが彼の血脈である。

その子らは、長子である幼名:長笑にして長じて長王となった楚永憘、蓮華公主のただ二人のみである

 

公主は二人の武者修行の事を聞き及んで、暇乞いが出来ぬよう、何かと理由をつけては二人を自らの宮から遠ざけていた。

公主の気持ちを見抜いて、長王は言う。「これまで長く仕えていたそなたらが遠くに旅立つのが、蓮華は寂しいのだ。だが、そろそろ蓮華も女子としての徳を磨かねばならぬ年頃、本来男女は6歳にして席を同じくしてはならぬもの故、これは良い機会かもしれぬ。これを機に女子としての自覚を持ってもらわねばならぬ。」

青籟と渾犼の二人も同様に思っており、傅いて同意の意を示す。「御意。」

 

数日後、長王の説得の故か、二人は武者修行の旅に出る許可を得るために公主の寝殿に赴くことが出来た。

公主は二人の話を聞き、身を乗り出さんばかりに言う。「なぜ、もっとはやく言わぬのだ?もっと早く聞いておれば、父帝に頼んで本宮も行けたかもしれぬのに‥‥本宮も行きたかったぞ。」

この発言にはさすがの二人も驚いて異口同音に言う。「公主、いけません!公主は唯一無二の方にして、皇帝陛下の手中の宝玉。この旅は危険を伴い、物見遊山ではございません。」

だが、尚も公主は食い下がって言う。「そなた達だけずるいぞ!本宮も広き世界を見たいのだ。かって母后は北漠、帰楽、雲常の全ての地に行かれた事があると聞いておる。それなのになぜ本宮はこの王都から出てはならぬのだ。」

 

いつもは公主に甘い皇帝陛下といえど流石に武者修行に随伴する事に同意するとは到底思えず、二人は必死に公主を宥めて言う。「では、こうしましょう。今は、私達二人では公主様を守り切ることが出来ませんが、この旅を終えて、力をつければ公主様をお守りし、何れの地にでも旅立ちましょうぞ。」

公主は頷いて言う。「約束だぞ。」

青籟と渾犼の二人も揃って頷いて言う。「はい。約束です。」

こうして、何とか3年の暇(いとま)を頂く。

 

次に、北漠の地に旅立つにあたり、以後三年にわたって拝礼する事が叶わぬだろう彼らの祖先である東林の先王たち,かつて代王家と呼ばれた自らの曾祖父母、祖父母、母が祭られている聖廟に向かう。

この場所は王都近郊にあり、代々の王家の者の墓が連なっていた。

先の王朝である東林の貴族達も、王の陵墓の周辺の場所に代々の陵墓を築き、さながら陵墓が連なる場所となり、、古くから代々の墓守が置かれ、周辺は数々の棟が連なる離宮となっていた。

先の王朝では行事の毎にこの地を大王や王侯貴族が訪れ、陵墓はひっきりなしの来訪者で賑わい、陵墓に続く道沿いには宿場町が点在していた。

 

だが、数十年前その姿は激変する。

東林王都が雲常の何侠の軍勢により陥落し、絢爛豪華な離宮は全て荒らされて焼け落ちた。今は、この地に眠る族譜の多くが滅び、訪れる者は疎らで、毎年の祭典以外の時期はひっそりと静まり返っていた。

 

亭国皇帝である楚北捷は天下が安定すると、すぐさまこの地に一つの聖廟を築く。それはかつての絢爛豪華な離宮ではないが、以前と同じ場所で、北に山を頂き、南に仰高門(ぎょうこうもん)を配し、宮を中心に、周囲に幾つかの棟をもつ小さな宮をつくる。

 

二人が聖廟の仰高門を通り、馬を下りるとすぐさま墓守達は集まり、整列して彼らを迎える。

墓守の長である家令は、二人に恭しく拝礼する。

「知らせを受け、お持ち申し上げておりました。どうぞ、ご案内いたします。」

 

二人は、これまでこの場所(聖廟)に入る許可を与えられておらず、今回初めて足を踏み入れる。

 

聖廟の中はひんやりと冷たい風が微かに吹き、手に持った明かりの炎が揺れる。二人は聖廟の中の長い回廊を歩いて奥へ奥へと歩みを進め、最後に故人を祭る祭壇に辿り着く。この祭壇には位牌と形見の品々が収められており、続き間の別室には各 故人達の肖像画が掲げれてていた。

ここに眠る数々の先王の遺品も先の大戦で同様に荒らされ、その金銀財宝はほぼ持ち去られたが、聖廟を守る代々の墓守達は、位牌や先王やここに眠る人々の最も大切にしていた遺品と肖像画を地中深くに隠し、何とか守り切る。

 

奥の祭壇に辿り着いた時、そこには香が焚き染められ、二人を幽玄の世界に誘う。

二人は揃って祭壇の前に拝し、出発の報告を行った後、故人の遺影と族譜を記した石碑の許に行く。

この族譜を記した系譜は代々の東林大王家とその傍系の族譜を記したもので、彼ら自身の名もそこに刻まれている。二人はそのれらを見ながらふと不思議に思う。

青籟は言う。「これが大王家の血脈で‥‥渾、ここに皇上陛下の御名があるぞ。」

渾犼は青籟が指さす場所を見て言う。「本当だ。....そうするとここから一代遡って我らの曾祖父上(煌耀)、祖父上(晧月)と祖母上(楊麗曦)、父上は真名だから晨明で母上(引萝)、青と私の名があって....あれ、おかしいぞ?なぜ、曾祖父上(煌耀)の妃の名が記されていないのだ?」

青籟も訝しそうに石碑を見つめて言う。「本当だ。曾祖母上の名がない....。」

渾犼は少し考えてから、思い出したように言う。「そういえば我らの曾祖父上(煌耀)は終生婚姻はされていないと聞いたぞ。だからないのか?....あっ、青、ここを見て!消された跡があるぞ。」

青籟が言う。「なんで消されたのだ?なんて書いてあるのかな。....婵...絹?...いや、婵娟だ。婵娟って記されているぞ。」

渾犼は言う。「婵娟....美しい月....そういえば続き間に、肖像画があったぞ。行ってみよう。」

二人は連れ立って続きの間に行く。

 

続きの間には、ここに祭られている人々の肖像画と遺品が安置されている。

青籟と渾犼はそれらを順番に見て行きながら感慨深そうに言う。

「これが高祖(東林王家の祖)で....この辺が先の王朝の六王の乱の王達....先の王朝の最後の大王(楚雨露)と皇上陛下に禅譲をされた王后娘娘(楊婉瑾)....」

「先の王朝の系譜の方々は皆、一様に皇上陛下と同じ顔立ちをされておられるな。黒い切れ長の目と高い鼻筋、高い身長、これらは全て先の王朝から脈々と続く特徴だな。それに、六王の前の王族の方々の中には我らと同じ蒼き瞳の方もいるのだな。」青籟は肖像画を指しながら言う。

渾犼も肖像画を眺めながら言う。「そうだな。聞く処によると六王の乱の前は他国の公主や美女たちが多く先の王朝の大王に嫁ぎ、多くの蒼き瞳の王族がいたと聞いた事があるぞ。その後、安寧王がこの六王の乱を収めた後からは先の王朝では純血が最も重んじられたそうだ。」

二人は暫くの間、先の東林王朝の王族たちの肖像画を眺めながら、様々な意見を交わしていく。

 

しばらくの後、渾犼は青籟の少し前を歩き、目的の肖像画を見つけて言う。「青、ここだ。ここに曾祖父上(煌耀)の肖像画があるぞ。」

青籟が、その場所に行くと楚煌耀の肖像画の隣に美しい絶世の佳人の肖像画があり、肖像画の下には婵娟の名が記されている。その同じ列には彼らの祖父母夫妻(楚晧月・楊麗曦)、母(引萝)の肖像画が連なっている。

肖像画を眺めながら、青籟が徐に言う。「こうしてみると、曾祖母上(婵娟)と祖父上(晧月)は似ておられるな。」

渾犼も言う。「ああ、祖父上(晧月)は女子のように美しいな。そういえば長王(楚長笑)殿下が言っておられが、確か....祖父上(晧月)が男児でなく、女子で生まれていたとしたら、先の王朝の最後の大王(楚雨露)の后となっていただろうと言っておられたぞ。」

「そうなれば、我らの父上(漠然)は皇上陛下(楚北捷)の堂弟(父方従弟)となっていたかもしれないな。」

「確か先の王朝の王后娘娘(楊婉瑾)と我らの祖母上(楊麗曦)は実のご兄弟だそうだ。だから今でも、我らの父上(漠然)と皇上陛下(楚北捷)は表兄弟(母方従弟)となり、近い間柄と言う事だ。」

「皇上陛下(楚北捷)が我が血族に対して絶対の信頼をおかれているのは、この様な近い血筋である事も一因かもしれぬな。」

 

二人が話していると、侍従が恭しく声をかける。「公子様方、宿坊の準備が整いました。こちらへお越しください。」

「明日は早い、早く休もう。」

「そうだな。」二人は侍従の後について、宿坊に向かう。

 

出発までの慌ただしい日々が過ぎ去り、全てが終わった後、青籟、渾犼の二人は旅支度を整え、父のつけてくれた数名の配下を連れて旅立つ。