ブルペンへ向かう途中、小堅井護は一度だけグラウンドを振り返った。
八回表を終え、一対一。
南陽高校の攻撃はこれからだった。ベンチの前では、田松がバットを握り直し、宇都宮がヘルメットをかぶっている。山元も少し離れたところで素振りを始めていた。
その次は、卓二の打順だ。
捕手の卓二は、ブルペンには来ない。来られない。
自分が投げるなら、誰かが受ける。
その当たり前のことが、今になって妙に重く感じられた。
「小堅井」
前を歩く龍が短く呼ぶ。
「はい」
「まずは軽くでいい。力むな」
「はい」
ブルペンの前には、すでに三年の塩谷康太が立っていた。
控え投手の先輩だ。龍の実力には遠く及ばないと自分でも認めているが、いつも真面目に練習している人だと護は聞いていた。
「俺でいいのか」
塩谷が少し頼りなさそうに言った。
「頼む」
龍は短く答えた。
「軽くでいい。無理はするな」
「わかった」
塩谷はミットをはめ、少し緊張した顔でブルペンに入った。
「小堅井、まずは軽くでいいからな」
「はい」
護はボールを握った。
最初の一球は、少し高かった。
塩谷がミットを上げて受ける。音は鋭い。だが、護の中では少し違った。
「高いですね」
「ああ。でも、悪くはない」
塩谷はそう言って、左手を軽く振った。
「……軽く、で今のか」
「はい」
「そうか」
塩谷は少しだけ困ったように笑った。
護は首を傾げた。
「何かおかしかったでしょうか」
「いや、おかしくはない。すごいだけだ」
「そうでしょうか」
「そうだよ。少なくとも、俺はそんな球投げられない」
その声には、悔しさよりも素直な感心があった。
護は少し戸惑う。
自分より年上の投手に、そう言われるとは思わなかった。
「もう一球いきます」
「ああ。受ける」
塩谷はミットを構え直した。
次は低めを狙った。
ボールはミットの下へ沈みかける。塩谷が膝を落として止めた。
「すみません」
「謝るな。今のは止められた」
「はい」
「でも、受ける方は大変だな」
塩谷は小さく息を吐いた。
護には、まだその意味がよくわからない。自分ではただ投げているだけだ。
ただ、塩谷のミットが音を立てるたびに、周囲の空気が少しずつ変わっていくのはわかった。
龍は何も言わず、少し離れたところで見ていた。
護は三球目を投げる。
今度は、塩谷の構えた胸元へまっすぐ吸い込まれた。
乾いた音が響く。
「今の」
塩谷が少し目を見開いた。
「今の、いいな」
「そうですか」
「ああ。今のでいい」
護は左手を見た。
どこへ投げるか。
それを決める。
ただ強く投げるのではない。ミットを見る。そこに投げる。
それだけで、少しだけ世界が狭くなる。余計な音が遠くなる。
ベンチから歓声が上がった。
八回裏、南陽の攻撃は走者を一人出したらしい。だが、すぐに東陽の内野が締まり、次の打球をきっちり処理した。
「ほんま崩れんなあ」
遠くで健太郎の声が聞こえた。
「そういうところが嫌なんです」
弘田のぼやくような声も続く。
塩谷はミットを構えたまま、少しだけグラウンドへ目をやった。
「東陽は、やっぱり東陽だな」
「強いのですか」
「強い。派手じゃないけど、崩れない」
護はうなずいた。
その言葉の意味は、今日一日で少しだけわかるようになっていた。
一球。
二球。
三球。
少しずつ、ミットの位置へ近づいていく。
三塁側の東陽ベンチでも、南陽のブルペンへ視線を向ける者がいた。
上岡が一度だけ目を細める。
福岡は腕を組んだまま、面白そうに口元を緩めた。
だが、誰も声には出さない。
試合はまだ続いている。
八回裏も、南陽は得点できなかった。
一対一のまま、九回表へ向かう。
塩谷がミットを外し、左手を軽く振った。
「大丈夫だと思う」
「そうですか」
「ああ。ただ、本番で受ける卓二は大変だな」
塩谷は少し苦笑した。
守備へ向かう準備を終えた卓二が、ベンチ前でマスクを手にしていた。
護とは目が合った。
卓二は何も言わず、小さくうなずいた。
ブルペンでは一球も受けていない。
それでも、逃げるような顔ではなかった。
九回表。
龍はそのままマウンドへ上がった。
護はブルペンの横で待つ。まだ呼ばれていない。だが、すぐに動けるようにボールを握ったまま、マウンドを見ていた。
東陽の先頭打者は、龍の外角の球を打ち、二塁ゴロに倒れた。
弘田が前へ出て、丁寧にさばく。送球は乱れない。
一死。
次の打者は粘った。ファウルを二つ打ち、ボールを見極める。龍は顔色を変えない。だが、護には球数が少しずつ増えているのがわかった。
最後はショートゴロ。
宇都宮が半歩深い位置で捕り、一塁へ送った。
二死。
ベンチから小さな息が漏れる。
あと一人。
その時だった。
友田史子が、静かに立ち上がった。
「小堅井君」
護は顔を上げる。
「はい」
「行きなさい」
その声は大きくなかった。だが、はっきり聞こえた。
龍がマウンドからこちらを見る。
護はボールを握り直し、ブルペンから出た。
グラウンドへ足を踏み入れた瞬間、空気の向きが変わった気がした。
南陽ベンチが静かになる。東陽ベンチもわずかにざわつく。
「一年か?」
どこかでそんな声がした。
東陽の三塁側ベンチでは、上岡がこちらを見ていた。柔らかい表情のままだが、目だけは真剣だった。
福岡は腕を組んでいる。さっきまでの不機嫌そうな顔ではなく、少し面白がっているようにも見えた。
打席に入ったのは、東陽の上級生だった。
ここまで大きな当たりこそないが、龍の球に何度も食らいついていた打者である。打席での構えにも、練習試合とはいえ簡単には終われないという意地が見えた。
その選手が、護を見て少しだけ眉をひそめた。
初見の一年左腕。
しかも大柄。
だが、だからといって怯むような相手ではない。
護はマウンドへ向かう途中、龍とすれ違った。
「思い切りでいい」
龍が言う。
「はい」
「一人だ」
「はい」
龍はそれ以上言わず、マウンドを譲った。
護は初めて試合のマウンドに立った。
ブルペンとは違う。
同じ土のはずなのに、広く感じる。打者がいる。捕手がいる。内野手がいる。ベンチがある。相手の視線がある。
全員が、自分を見ている。
卓二がマスクの奥からミットを構えた。
低めではない。まずは真ん中寄り。受けやすいところ。
ブルペンで受けていないぶん、卓二も探っているのだろう。
それでも、構えは逃げていなかった。
護は息を吸った。
どこへ投げるか。
ミットを見る。
そこへ投げる。
一球目。
左腕から放たれた白球が、一直線に走った。
打者は振らなかった。
いや、振れなかったのかもしれない。
卓二のミットに、重い音が響いた。
「ストライク!」
審判の声が遅れて聞こえた。
その瞬間、東陽のベンチが小さくざわついた。
「今の……」
「一年、やんな?」
誰かの声が短く漏れる。
大きな騒ぎではない。
だが、確かに空気が揺れた。
上岡がわずかに目を細める。
福岡は腕を組んだまま、口元だけを少し上げた。
「何や、あれ」
その声は低かったが、はっきりと驚きを含んでいた。
護には、自分の投げた球がどう見えたのかはわからない。ただ、卓二のミットがほとんど動かなかったことだけは見えた。
打者が一度だけバットを握り直す。
二球目。
今度は打者が動いた。
タイミングを取ろうとしている。足を上げ、バットが出る。
だが、白球はその下を通り抜けた。
空振り。
ミットの音がまた響く。
卓二がほんの少しだけ左手を振った。衝撃を逃がすような動きだった。
南陽ベンチから声が上がりかける。だが、まだ誰も大きく叫ばない。
二球で追い込んだ。
護はマウンドの土を踏みしめる。
この場面の意味は、まだ全部はわからない。
だが、今だけはわかる。
もう一球、同じように投げればいい。
卓二のミットが構えられる。
護はうなずいた。
三球目。
白球が空気を裂いた。
打者のバットが出る。
だが、遅れた。
何にも触れないまま、バットは空を切る。
ミットが鳴る。
「ストライク、バッターアウト!」
空振り三振。
その瞬間、南陽ベンチが一気に沸いた。
「うおっ、何や今の!」
健太郎が思わず叫ぶ。
清は声を出すのも忘れたように、目を見開いていた。
波多野は眼鏡の奥で瞬きをしている。
弘田は口を開きかけて、結局何も言わなかった。ただ、小さく息を吐いた。
悟は三塁から護を見ていた。表情はほとんど変わらない。だが、目だけが少しだけ鋭くなっていた。
東陽ベンチは、騒がなかった。
ただ、静かに護を見ていた。
上岡は口元に柔らかな笑みを残したまま、目だけで護を追っている。
福岡ははっきり笑っていた。
「おもろいやん」
三振に倒れた打者は、しばらく何も言わなかった。バットを持つ手を見て、それから護を見た。
悔しそうではある。
だが、それ以上に、何かを覚えた顔だった。
護はマウンドを降りる。
足が少しだけ熱い。
だが、頭の中は妙に静かだった。
一人だけ。
たった一人だけ。
それでも、試合の打席で、自分の球は通じた。
ベンチへ戻ると、卓二がマスクを外して言った。
「すごかった」
「そうでしょうか」
「今のは、すごかった」
卓二の声は、少しだけ震えていた。
龍も戻ってくる。
「よかった」
「……はい」
「今ので十分だ」
それだけだった。
だが護には、その言葉が思っていた以上に深く入った。
九回裏。
南陽にも最後の攻撃があった。
東陽は崩れなかった。福岡はまだ荒さを残しながらも、最後は力で押した。南陽も粘ったが、決定打は出ない。
最後の打球は、セカンド正面だった。
竹島が無駄のない動きで捕り、一塁へ送る。
試合終了。
一対一。
最初の練習試合は、引き分けに終わった。
整列の時、護は東陽の選手たちの視線を少しだけ感じた。
試合に勝ったわけではない。
長いイニングを投げたわけでもない。
たった一人、打者一人を打ち取っただけだ。
それでも、何かが残った。
上岡が龍と握手を交わす。
「最後の一年、すごいね」
「まだ何も知らない」
龍が答える。
「だから怖いんじゃないかな」
上岡は柔らかく笑った。
そのやり取りは、少し離れたところにいた護の耳にも届いていた。
まだ何も知らない。
龍の言葉は、その通りだと思った。
だが、上岡の返した「だから怖い」という言葉の意味は、すぐには飲み込めなかった。
福岡は少し離れたところから護を見ていた。
「次は打席で見たいな」
誰に言うでもなく、そう言った。
護はどう返せばいいかわからず、軽く頭を下げた。
清が横で小さく笑う。
「護くん」
「はい」
「見られたね」
「……はい」
その言葉の意味は、わかった。
今まで自分は、野球部を見る側だった。
東陽学園という相手を、よくわからないまま眺めていた。
けれど今は、少しだけ違う。
自分も見られた。
自分の球が、相手の記憶に残った。
それが良いことなのか、怖いことなのか、まだ護には判断がつかなかった。
ただ、白球がミットを打った音だけが、いつまでも耳の奥に残っていた。
昨日のブログで、「 近いうちにそのネタも披露したい 」と書いておりました。
生成AIの進化はすごいと言いますか、以前は絵にコメントを入れる作業が苦手に思えていたのですが、それも克服したようです。
というわけで、私は漫画が大好きですので、自分のイメージする漫画を描いてもらいたいと思ったのですが、候補は2つ。
愛犬を可愛く描いてもらうほのぼの系4コマ漫画
私の日常をエッセイ漫画的に描いてもらう漫画
どちらにしようかなと思いましたが、ほのぼのと愛犬をネタにした漫画を描いてもらおうかなと思った次第です。
このあたり、もう↓の世界が近づいていますね。
というわけで、毎週月曜の新連載をスタートします。
愛犬ゆうすけを題材にしたほのぼの4コマです。
終わりには土日の予想を振り返る一言コメントも添えていく予定なので、週の始まりにゆうすけで癒されたい方、私のちょっとした感想を見たい方は、是非お楽しみください。
なお、一口愛馬の出走があって振り返り記事を書く週はお休みします。
というわけで、記念すべき最初のゆうすけの4コマは↓のとおりです。
なお、生成AIへの指示は「このコーギーを主人公にして漫画を描いて。名前はゆうすけ」として、いくつかのゆうすけの画像を添付しておいて、「この画像を参考に1話描いて」
として、↓の写真を添付しただけです。
昨日のブログで権利云々という話を書いていましたが、私の中での線引きは今回の漫画くらいです。
自分の愛犬の写真と、自分の思い出をもとに、個人ブログの中で楽しむ。
私の中では、ひとまずこのあたりが安心して楽しめる範囲かなと思っています。
絵は写真のゆうすけを上手に描いたものですが、写真を参考にしてもらえば、こういう絵になるのかなあと。
競馬の振り返りも少ししておきます。
天皇賞・春はアドマイヤテラは一枚足りませんでしたねえ。
序盤に好位を取れなくて、クロワデュノールをマークという作戦に切り替えたのでしょうが、完全な力負けという印象です。
ヴェルテンベルクは見えていなかったので、馬券的に完敗ですね。
なんか写真判定でどうこういう話がありますが、普通にクロワ前だよねと思います。
さすがにそこまで疑うのは無理があるかなと思います。
JRAには何の得もないので。(というかお役所の公平性、公正性を守ろうとする建前を甘く見ちゃいけない)
あと、ここでは書いていないですし、Twitterでも後出しの格好になったのですが、
ケンタッキーダービーの馬券取りました。
そのヒントとなったのは↓のツイートでしたが、これは来年も覚えておきたいですね。
#ケンタッキーダービー
— チャリオット (@chariot0001) 2024年5月2日
とにかくこのレースはSmart Strikeの血を持つ馬を狙うべし
過去成績
メイジ 4番人気1着
リッチストライク 19番人気1着
カントリーハウス 14番人気1着
グッドマジック 6番人気2着
ルッキンアットリー 13番人気2着
バトルオブミッドウェー 15番人気3着
というかこのツイート流れてきてくれてほんと良かった。
ケンタッキーダービーはスマートストライク持ちを狙え
来年の自分に伝えたいところです。
最後に久しぶりのお勧めというか、最近ハマっている漫画をご紹介。
実はラブコメが大好きです。
このお話はもうキュンキュンしちゃいますね(鏡見て物言えというツッコミは甘受します)
こういう学生生活を送りたかったなあ……
我が友人曰く、「おまえを漫画化すると男塾くらい女っ気ないよな」という学生生活でした。(号泣)
さて、最近のブログを読んでくださっている方は、最近の私が生成AIにどっぷりハマっていることはご承知いただけているかと思います。
ただ、SNSとかを見ていると生成AIに否定的な声も少なくありません。
現時点で向き不向きはあると思います。
現に私も競馬予想にAIを使おうとしたこともありましたが、これは労多く実りなかったので、自然とやらなくなりました。(このあたり上手にやっている方もいると思います)
それ以上に問題だと思うのが権利関係の問題です。
絵を描く人がAI生成画像に不安を覚えるのはわかります。
私は絵を描かないので、単純にキャラクターの設定伝えて出来上がる画像を見て、「これすごくいい」で終わるんですが、もし絵を描く人で自分の絵柄に似ていたりしたら複雑だと思います。
あと、デザイナーの方などは死活問題に感じる方もいるでしょうね。
広告風の絵とか上等なクオリティで仕上がりますので。
(しかも、何度でもリテイクかけることができる)
なので、絵で稼いでる人が生成AIに嫌悪感を持つのは仕方ないとは思います。
ただ、この流れは止まらないはずです。
車をわざわざ遅くしたりしないように、進化する流れは止めようがないでしょう。
どのあたりまで法的整備が進むのかという課題を抱えながら、しばらく現状は続くと思います。
ただ、全部が全部を規制しろというのは違うと思います。
このあたりのグレーな感じは例えると同人界隈に近いかなあと。
一部の作品を除けば、二次創作もオフィシャルに聞けば個人に許可する例はないと思いますので。
良識の範囲内で楽しんでくださいというやつです。
少し違うかもしれませんが、AIとの付き合い方は将棋界が参考になるんじゃないかと思っています。
正直、現在のトッププロよりAIの方が棋力は高いですが、それでもプロ棋士の将棋はファンが楽しんでいますし、アマチュアでも指す人は今でも指してます。(私も指してます。笑)
私がAIに抵抗がないのは、将棋を愛好しているからかもしれないですね。
この流れは文章などでもすでに来ていると思います。
報道では、第13回の日経『星新一賞』一般部門の受賞4作品のうち3作品が、創作過程でAIを活用したものだったとされています。
一部ではAIの書いた物は読みたくないとまでする意見もあるようですが、そこまで言うのは個人的には違うかな?と思います。
↓は星新一賞の確認をするのに検索したら出てきた記事です。いい内容でしたので紹介しておきます。
しかし、星新一賞でAI小説が受賞というのは、なかなか皮肉の効いた展開というか、それこそ星新一の書く話でありそうです。
先の記事で、AIを使った場合は作り手に説明責任があるとありますが、これはそのとおりだと思います。
私もAIを使って書き物をしていますが、私がAIに書き物を任せているのは、「(毎週水曜連載中の野球小説)堅物サウスポー」だけです。
とはいえ、完全に任せっきりにはしておらず、キャラクターの設定を伝え、矛盾のある描写はないかとか、意外と細かくチェックしております。(意外と次の打者がベンチで話してたりするんですよ。苦笑)
なので、結構、自分のイメージに近づけることはできていると思っています。
ライフワークとして書いているファンタジーは遅々として自力で書きながら、明らかにおかしな点などをAIに見てもらっています。
優しい編集者がついたらこんな感じなのかなと思っています。
創作活動が楽しくなって書けるようになっているのは本当に嬉しいことです。
実は書きたいネタというのは、たくさんありまして、その中の一つに漫画というものもあります。
近いうちにそのネタも披露したいなと思っていますので、このブログを愛読してくださっている方はぜひ楽しみにしていただければと思います。
それなりに長くなってしまったので、そろそろ今日の予想へ
天皇賞・春
◎ミステリーウェイ
○アドマイヤテラ
▲クロワデュノール
△ホーエリート
△ヘデントール
△タガノデュード
迷アクアヴァーナル
本命はミステリーウェイです。
久しぶりに春天の逃げ切り大波乱というのを考えれば、なくはないかと。
松本騎手は若いですが、いい騎手だと思いますよ。
対抗はアドマイヤテラです。
もちろん、レイデオロ産駒の応援というのがありますし、武豊の長距離は神がかっていますからね。
前走のような競馬をもう一丁なら、レイデオロ産駒悲願のGⅠ制覇も夢ではないと思います。
クロワデュノールは、地力なら一番でしょう。
ヒモ候補は長距離で実績のホーエリートとどこまで復調しているかですが、昨年覇者のヘデントール。
最後、穴と思っていたタガノデュードはレーン騎手への乗り替わりなら、人気してしまうかもなあ……
迷ったのはアクアヴァーナル。アドマイヤテラが勝ち切る流れならヒモがあると思いますが、この人気だと買い難いです。
馬券は◎1頭軸の3連単マルチ印相手を買っておいて
○頭の3連単印相手と◎→印全部の馬単、馬連を押さえます
セラフィックコールは天栄での調整。
全体的に線が細く見えるとのことで、これから回復させていく感じでしょうか。
レース間隔を詰めると良くなさそうなセラフィックコールには天栄の調整は合いそうなので期待したいです。
ミダースは右前の歩様が乱れたとのことで心配です。
懸念されている膝まわりに負担という記載もあり、少しでも軽くあって欲しいですが……
バースライトはしがらきで15秒も乗っているとのこと。
本数を重ねて次走を検討とありますので、もう少し時間はかかるでしょう。
というか、小倉に同条件があるのでそこかな?と思っています。
サラスヴァティーは天栄で14〜15秒の調整。
まだ次走の話などは出ていません。
個人的には夏のローカルで軽い相手に使って欲しいなと思っているところです。
あと、前走後の騎手のコメントなどから距離延長はどうかな?と思っているところです。
ブロンザイトはしがらきで軽めの調整。
前走はかなりショックな負け方で次どれだけやれるのか……
1400となると競馬場も限られてくるだけに出られる?という問題も出てきそうです。
リコラピッドは14〜15秒の調整ですが、コメントを見る感じでは良化度合いが低そうで……
なんとか上向いて欲しいところですが……
レイジングサージは15〜17秒の調整で後脚を中心に強化していくとのこと。
両後脚は故障している箇所ですからね。
どこまでやれるかですが、なんとかデビューに辿り着いてもらいたい……
カーリーウィップは15〜17秒ペースで乗っています。
背中の感触が良くセンスを感じると嬉しい褒め言葉もありましたが、問題は気性でしょうねえ。
あと、どれだけ馬体が成長してくれるか。
牧場サイドもそのあたりは意識してくれているようですので、成長を楽しみにしたいと思います。
ラディオーサは16〜17秒ペースの調整。
少しずつ良化しているという印象。
頓挫は残念でしたが、まだ全然問題ないレベル。
カーリーウィップもですが、年内にデビューできるくらいには頑張って欲しいところです。
カトマンズゴールドは引き続き浜中騎手で5月9日の牝馬限定の芝2000を使うようです。
在厩ですが、この中間、軽めの調整だけなんですよねえ。
正直、かなり不安です。
唯一、はじめての在厩続戦なので、そのあたりに期待したいところですが……
土曜日の朝、南陽高校のグラウンドには、いつもより少し早い時間から独特の緊張が漂っていた。
大声が飛び交っているわけではない。むしろ逆で、普段より声の数が少ないせいで、スパイクが土を踏む音や、ベンチを整える小さな音ばかりが妙に耳についた。
練習試合。
その四文字を、護はまだ自分の中でうまく飲み込めていなかった。だが、ただの練習とは違うのだということだけは、この朝の空気ではっきりわかった。
ユニフォーム姿の部員たちの中で、護は一度だけ自分の胸元を見下ろした。まだ着慣れない。布の感触も、胸の校名も、どこか借り物のように感じる。
「似合ってるよ」
清がすぐ横で言った。
「そうでしょうか」
「うん」
「判断が早いですね」
「だって昨日も見たし」
「そのような理由で」
「そのような理由で」
清は真似をして笑った。
護は少しだけ息を吐く。
こうして話していると、余計な力が抜けるのはありがたかった。
「緊張してる?」
「少し」
「うん。してない方がおかしい」
「清さんは」
「私も少し」
「少し、ですか」
「今日は東陽だからね」
その名前が出ると、昨日の空気を思い出す。
護はそれ以上、何も言わなかった。
東陽学園のバスがグラウンド脇へ入ってきたのは、その少しあとだった。
選手たちが次々と降りてくる。
どこか似ているようで、南陽とは空気が違う。
騒がしくはない。
だが暗くもない。
必要なことだけを、当たり前のようにやる集団だった。
「来たな」
卓二が小さく言う。
護も目を向けた。
まず目についたのは、大柄な左腕だった。
肩幅が広く、筋肉のついた体がユニフォームの上からでもわかる。歩き方にまで力がある。あれが福岡雅だろうと、護にも何となくわかった。
その少し後ろに、内野手用のグラブを持った選手がいる。今風の髪型で、一見すると少し軽そうにも見えた。だが、周囲を見る目は落ち着いている。
「あれが上岡先輩」
清が小さく言った。
「そうですか」
「うん」
「軽そうには見えます」
「護くん、わりと正直だよね」
「見たままを言っただけです」
「でも中身は全然違うからね」
清の声は少しだけ真面目だった。
東陽の選手たちは、到着してからの動きにも無駄がなかった。荷物を運ぶ者、ベンチを整える者、アップへ向かう者。そのどれもが静かで速い。
「嫌やなあ」
弘田がぽつりと言う。
「もう来た瞬間から嫌です」
「まだ何も始まってへんやん」
健太郎が言う。
「始まってへんのに嫌なんが、余計嫌なんですよ」
「面白いやん」
「池野君はそう言うててください」
「何でやねん」
健太郎は笑ったままだが、その視線は東陽の二遊間を見ていた。軽口とは別に、ちゃんと相手を見ている顔だった。
龍は挨拶のために前へ出た。
上岡も東陽の先頭から歩いてくる。
二人は向かい合い、軽く会釈を交わした。
「久しぶりだな」
龍が言う。
「そうだね」
上岡は柔らかく笑った。
「秋は負けたけど、今日は勝たせてもらうよ」
「そう簡単にはいかない」
龍は静かに言った。
「今日はよろしく」
「こちらこそ」
どちらも穏やかだった。
だが、その短いやり取りには、きれいに隠された火があった。
「本当に知り合いなんですね」
護が小さく言うと、卓二がうなずく。
「中学の頃からだって」
「ライバル、ですか」
「うん。そういう感じ」
「仲は悪くなさそうです」
「悪くないよ」
清が答える。
「だから余計に、変な感じ」
「変な感じ」
「うん。ちゃんと知ってる相手とやる方が、緊張することもあるから」
試合前のシートノックが始まる前、友田史子がベンチ前に部員を集めた。
「オーダー確認するわよ」
護も少し後ろから耳を澄ませる。
「一番、センター、池野君」
「はい!」
健太郎の返事はやけに大きかった。
「二番、セカンド、弘田君」
「はい」
「三番、サード、竹山君」
「はい」
「四番、ピッチャー、平井君」
「はい」
「五番、ファースト、東村一志君」
「はい」
「六番、ライト、田松君」
「はいっ」
「七番、ショート、宇都宮君」
「はい」
「八番、レフト、山元君」
「はい」
「九番、キャッチャー、東村卓二君」
「はい」
護は、そこで少しだけ目を上げた。
宇都宮が遊撃。
山元が外野。
そして卓二が先発捕手。
昨日まで名前と顔が少しずつ結びついてきたところだったが、こうして並べられると、今の南陽がどこで踏ん張っているのかが、少しだけ見える気がした。
「宇都宮先輩、今日はショートかあ」
田松が小さく言う。
「まあ、今はそうなるやろ」
健太郎が答える。
「本藤君と岡部君がおったら、また全然違うんですけどね」
弘田が肩をすくめた。
「……岡部さんは聞いたことがありますが、本藤さん、とは」
護がそう尋ねると、卓二が少しだけ表情を引き締めた。
「うちのショート。今はいないけど、本当はすごい人」
「今日はそのぶん、宇都宮先輩がショートに回ってる」
「そういう形で聞くと、余計に嫌やな」
田松が苦笑する。
「事実ですやん」
弘田は淡々と言う。
「今の形でやるしかないんですから、なおさらちゃんとせなあきません」
護には、まだその重みまではわからない。
だが今の南陽が、本来の形ではないらしいことだけはわかった。
史子は最後に卓二を見た。
「卓二君」
「はい」
「今日は思い切ってやりなさい」
「……はい」
「今できることをやればいいから」
卓二は、ほんの少しだけ緊張した顔でうなずいた。
護には、その一言が少し意外だった。
正捕手不在の穴というより、今ここで回ってきた役目を任せる言い方だったからだ。
「卓ちゃん、緊張してるね」
清が小さく言う。
「そう見えます」
「でも、あれで肝据わっているから」
「逃げない」
「うん。だから今日もたぶん大丈夫」
試合前のシートノックが始まる。
そこで東陽学園の色は、護にもはっきり見えた。
派手なプレーはない。
飛び込むような大きな見せ場もない。
だが、打球がどこへ飛んでも処理が早い。捕ってから投げるまでの間が短い。中継も乱れない。
二塁手が少し前へ出て打球を止め、迷いなく一塁へ送る。
三塁手は強い打球にも姿勢が崩れない。
捕手は返球のコースが低くて正確だ。
「あれが竹島君やな」
一志が言う。
「二番のセカンド」
「よう見てますね、兄」
卓二が言う。
「そら見るやろ」
一志はにこにことしたままだ。
「無駄がないんよなあ、あの子」
「嫌ですねえ」
弘田が心底嫌そうに言う。
「こういうのが一番嫌です」
南陽のシートノックが始まると、今度は東陽側の視線がこちらへ集まった。
護はベンチ脇からそれを見ていた。
健太郎の守備範囲はやはり広い。
悟の三塁も鋭い。
弘田も動きに迷いが少ない。
だが東陽に比べると、どこかに熱がある。その熱は南陽の強みでもあり、雑さにもつながるのだろうと、護にも何となくわかった。
「小堅井」
呼ばれて振り向くと、龍だった。
「はい」
「今日はベンチで流れを見ていろ」
「はい」
「誰がどう動くか、何が起きてるか、ちゃんと見て」
「はい」
龍はそれだけ言った。
説明は短い。だが護には、それがただの見学ではないように思えた。
試合は、龍の先発で始まった。
捕手は卓二。
正捕手不在の今、巡ってきた出番だった。卓二の顔は硬い。だが、それ以上に「逃げたくない」という気持ちが見える顔でもあった。
東陽の先頭打者は、初球を見送った。
二球目も見た。
三球目でようやく打ちにきたが、打球は浅いライトフライに終わる。
「ふうん」
波多野が小さく言う。
「何でしょうか」
「見てますね」
「何を」
「球筋です」
護は黙った。見ているだけでもわかる。東陽は、来た球をただ振る感じではない。
二番の竹島は簡単には打ちにこなかった。ファウルで粘り、最後は逆らわずに二塁寄りへ転がす。弘田が前へ出てさばき、一塁へ送る。
「きっちりしてますね」
護が言う。
「そうなんだよ」
清が小さく答える。
「嫌でしょ」
「はい」
「まだ二人目だけどね」
三番打者は粘った末にショートゴロ。
宇都宮が無難にさばいて三者凡退。
東陽は点にならない。
だが、簡単にも終わらない。
その最初の半イニングだけで、護にもそれがわかった。
裏の南陽の攻撃。
東陽の先発、福岡雅がマウンドへ上がる。
近くで見るとさらに大きかった。左腕が振られるたび、ボールに力があるのがわかる。
「立ち上がり、ほんまに荒いな」
一志が言う。
「でも速いですね」
護が思わず言うと、波多野が小さくうなずいた。
「速いです。荒れているうちは、まだつけ入る隙がありますけど」
健太郎はその荒れ球に食らいついたが、最後はショートゴロ。
「福岡はあれでええんやろな」
健太郎が戻りながら言う。
「……思ったより、立ち上がりええかもしれませんね」
弘田が困ったように言う。
「厳しいな」
健太郎が笑う。
「あかんな。まあ、とりあえず粘ってみますわ」
弘田は小さくぼやきながら打席へ向かった。
弘田は言葉どおり粘って四球を選ぶ。
悟は右へ運ぶように打った。鋭い当たりではなかったが、きれいに一、二塁間を抜ける。
「おお」
卓二が声を漏らす。
だが弘田は三塁へ行けなかった。
ライトからの返球が速い。中継も迷いがない。無理をすれば刺される、という空気がすぐわかる送球だった。
「そこなんですよね」
ベンチで見ていた波多野が小さく言う。
「こういうところが、東陽学園はちゃんとしてるんです」
護は黙ってうなずいた。
ひとつ進めるかどうか、その判断だけでもう差が出ている気がした。
一死一、二塁。
四番は龍だった。
ベンチから見ていても、空気が変わるのがわかった。
東陽の内野がわずかに締まる。
上岡が三塁から龍を見る。
福岡は不機嫌そうなくらい真っ直ぐな顔で投げる。
二球目、龍はきれいに捉えた。
鋭い打球が一、二塁間を抜ける。スタートを切っていた弘田が三塁を蹴り、先制のホームを踏んだ。
「よし!」
清が小さく拳を握る。
健太郎がベンチの外で声を張る。
「さすが龍先輩!」
卓二も、波多野も、護も立ち上がりかけた。
だが東陽は、そのあと崩れなかった。
一志を内野フライに打ち取り、田松には強い球を見せて空振り三振。
一点で切る。
「これなんですよね」
弘田がベンチへ戻りながら言う。
「こういうとこ、ほんま嫌なんです」
試合は、そのあとも大きくは動かなかった。
龍は東陽打線に的を絞らせず、何度か走者を出しながらも粘る。
東陽も、福岡が二回以降は立ち直り、上岡の守備や竹島のつなぎで流れを切らせない。
派手な打ち合いではない。
けれど、一球ごとに少しずつ何かが削られていくような試合だった。
護はベンチからそのすべてを見ていた。
試合は、思っていたより静かだった。
歓声がないわけではない。声も飛ぶ。だが、自分が想像していた“試合”よりずっと細かく、ずっと重い。
一球外れる。
一歩遅れる。
一つ送る。
一つ進める。
その積み重ねで、空気が傾いていく。
東陽はそこが上手かった。
南陽はそこに熱が混じる。
四回、東陽は竹島がエラーで出塁し、送りバントの後、一死二塁から上岡のヒットで同点に追いついた。
真芯ではない。
だが一、二塁間の深いところをきれいに抜く打球だった。
「上手いですね」
護が言う。
「そうだよ」
清の声は少し硬かった。
福岡は打席でも荒っぽかった。
豪快に振る。
当たれば飛ぶ。
ただ、龍はそこをしっかり外して打ち取る。
試合は終盤に入っても、一対一のままだった。
南陽は何度か走者を出す。
だが東陽の守備が崩れない。
東陽も龍を打ち崩せない。
それでも、何かのはずみで一気に傾きそうな気配だけはずっとあった。
八回表の守備を終えてベンチへ戻った時、空気が少しだけ変わった。
龍がタオルで額を拭く。
息は乱れていない。だが、いつもより少しだけ目が鋭い。
友田史子が龍を見る。
龍は小さくうなずく。
それから、護の方へ視線を向けた。
「小堅井」
「はい」
「肩、作れるか」
護は一瞬だけ、自分が呼ばれた意味を理解できなかった。
「……私が、ですか」
「うん」
龍は静かに言う。
「今すぐ行けとは言わない。でも、準備だけしておいてほしい」
「……はい」
「一人かもしれない」
それだけで十分だった。
護の胸の奥が急に熱くなる。
足元が少し遠い。
だが、不思議と震えはしなかった。
卓二が護を見る。
波多野も眼鏡の奥で目を丸くしている。
清は何も言わず、ただじっと見ていた。
「護くん」
「はい」
「行ける?」
「わかりません」
護は正直に言った。
「でも、行きます」
清はそれを聞いて、小さく笑った。
不安そうな笑いではなく、妙に信じている顔だった。
東陽のベンチを見ると、上岡がこちらを見ていた。
福岡も腕を組んだまま、何かを考えるようにこちらを見ている。
まだ誰も何も言わない。
だが、南陽ベンチの小さな変化に気づいている目だった。
護はベンチの奥に置かれたボールを見た。
白くて、乾いていて、いつものようでいて、今日は少し違って見える。
試合の最後に近い場所で、自分の名前が出るかもしれない。
そのことの意味は、まだ全部はわからない。
けれど、今までとは違う重さだけは確かに伝わってきた。
「小堅井」
もう一度、龍が呼ぶ。
「はい」
「ブルペン、行こう」
護はうなずいた。
ベンチの外へ一歩踏み出す。
それだけの動きなのに、胸の鼓動が少しだけ強くなる。
グラウンドの喧騒が、少し遠くなった。
試合はまだ続いている。
だが、自分の中では、今、何かがはっきりと動き出していた。
南陽と東陽、同点のまま。
九回表を前に、護は初めてブルペンへ向かった。




