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PS-Ⅱ 大いなる船出 (Ponniyin Selvan: II) 2023年 165分
主演 ヴィクラム & アイシュワリヤー・ラーイ・バッチャン & ジャヤム・ラヴィ &カールティ & トリシャー他
監督/製作/脚本 マニ・ラトナム
"歴史は、やがて神話となる"

 

 

ーかつて、孤児ナンディニは寺院で養育され、アーディタ・カリカラン王子に見初められて恋人同士となるも、宮廷に招き入れようとした妹君クンダヴァイの元を逃げ去ったことから、王宮人たちの怒りを買ってしまった。
 その後、2年間の軍隊生活から帰還したアーディタは正式にナンディニを婚約者にしたいと母ヴァーナヴァン・マーディヴィに紹介するも、クンダヴァイの計略によってナンディニは遠隔地へと捨子同然に送り出されてしまって…。
**************

 時は流れ、西暦968年。
 チョーラ朝は、パシュヴール(現タミル・ナードゥ州ペランバルール県ウダイヤパラヤムタルク郡内の地域。その領主は、一説にチョーラ朝3代目王妃を輩出した家系)候ペリヤとナンディニ夫婦による現王打倒の陰謀と、敗戦によって弱体化したパーンディヤ朝の残党たちの復讐に揺れていた。
 その中でナンディニは密かにパーンディヤの暗殺者を国内に招き入れ、一方で王統根絶を計画して、ランカ島征討に出兵中の皇太子アルンモリへの襲撃命令を出すも、嵐の海の中、アルンモリは船ごと海中に没したのだった。

 皇太子戦死疑惑に動揺するチョーラ朝の中で、カランガルのバラ族の戦士たちを味方につける現国王の甥マドゥランタカの前に、皇太子アーディタ・カリカラン軍に滅亡されながら命だけは助けられたラーシュトラクータ朝のコッティガ王の使者が助力を求めにやってる。
 一方で、アルンモリ捜索に出ていた将軍パールティバ(本名パールティベンドラン)は、ナンディニに懐柔されて彼女の伝言をアーディタ王子に伝えにくる。「王都へ赴くのは懸命ではない。王朝の内乱を防ぐため急ぎカダンブルへきてほしい」と…。
 それこそナンディニのチョーラ朝王統滅亡の布石だったのだが、同じ頃、パーンディヤ残党に捕らえられながらアルンモリの居場所を口にしないデーヴァンは、ナンディニの尋問を受けながらも不敵に笑う…。
「私も馬鹿じゃない。殿下の消息を喋れば私の利用価値がなくなって殺されてしまいます。それよりも、私は貴方の秘密を知っているのですよ。殿下を助けた貴方そっくりの白髪の女性の存在を。…その女性は、口が聞けないようでした……」
「……貴方が見たと言うその女性…どこにいるのですか?」

 

 

挿入歌 Aazhi Mazhai Kanna (おお、豊かなる雨の主よ [海へと飛び込むのをやめ、空へと飛翔ください])

 


ニコニコ 原題は、タミル語(南インド タミル・ナードゥ州の公用語。スリランカとシンガポールの公用語の1つでもある)で「ポンニの息子:2」。略称「PS-2」。

 「ポンニ」とは、舞台となるチョーラ朝の中心地を流れる河の名前(現タミル・ナードゥ州を流れるカーヴェーリ河)。劇中の台詞としては、王朝の後継者であり、後のチョーラ朝最盛期の王ラージャラージャ1世となる、アルンモリ・ヴァルマンを指す尊称として登場する(伝説では、子供の頃にポンニ河で溺れたところを救われた事からの名前だそう。原作小説でもそのシーンが書かれているものの、「バーフバリ(Baahubali)」で酷似するシーンが出てくることから本作での映像化は見送られ、語られるだけになったそうな)。

 1955年に出版されたカルキ・クリシュナムルティ著の小説「Ponniyin Selvan」の映画化作前後編の後編で、西暦9世紀~13世紀にかけて南インドに栄えたチョーラ朝の王位継承の混乱期(3代パラーンタカ1世の崩御する954年~最盛期を迎えるラージャラージャ1世即位の985年の間。短期間に4~5人の王が次々と王位に就いては死んでいった王位継承争いの時代)を描く歴史大作。
 日本では、2023年にSPACEBOXによる自主上映で英語字幕版が上陸。2024年に一般公開されている。

 前作までで、伏線的にチョーラ朝王宮内に仕込まれていた陰謀が本格的に動き出す後編は、ほぼほぼその陰謀の首謀者ナンディニを主人公的立ち位置において、シェイクスピア劇もかくやの、過去の経緯、すれ違い続ける登場人物たちの思惑を背負いながら、その哀しい人の思いの数々が悲劇を拡大させていく様を叙情的に描き出していく。
 原作からして当時の歴史考証を調べ上げた上で、実在の人物たちの物語を紡いでいく時代劇なので、その衣裳風俗、各地域・階層における生活文化の多種多様な描き分けの徹底具合たるや、まさに全カットが絢爛豪華な歴史絵巻。そのどこまでがリアルなものかはわからないにしても、過去のマニ・ラトナム監督作との共通する映像の重厚さ、湿度を含む空気の厚さが画面から伝わって来そうなくらいの密度でブン殴られる感じ。
 美しきナンディニの少女時代(演じるのは、「神様がくれた娘(Deiva Thirumagal)」で5~6才で主演デビューして大きな評判を呼んだサラ・アルジュン! …大きくなったねえ)から始まる悲恋劇の拡大は、さらなる親世代のすれ違いにまで及んで理解しえない男女・親子・国同士・部族同士にまで降りかかる悲劇を彩る歴史の渦を描き出していく。1人2役のアイシュワリヤーの美貌によって、どんどんその悲劇が加速していく説得力が増し増しになって行けば行くほど、カールティ演じるデーヴァンの快活さ、ジャヤム・ラヴィ演じるアルンモリ・ヴァルマンののほほんとしたおっとり顔の持つ物語的希望もまた抵抗の姿として毅然とした存在感を表す対立軸も素敵。王朝の都合に翻弄されて来たナンディニの悲しさや怒り、言うに言われぬ感情の渦が、王朝の各勢力各主義主張に火をつけ、混乱の中に全てを巻き込む滅びの美学へ突っ走る姿の、美しくもあり、カッコ良くもあり、滅びの美学を背負う哀しい姿の凛々しさが、この時代絵巻の中心に据えられて、格式高い映像美を見せつけてくれますわ。
 それにしても、ジャヤム・ラヴィってこうまでおっとり高貴な王子顔の似合う人だったんだなあ…とか変なことにも感心してしまいますわ。なかなかに好人物的印象を残してくれるので、今後もそっちの路線で売り出して行けばイイノニ!(売れる映画への出番が少なくなりそう? ごもっとも!)

 王朝内の対立構造も、敵味方がすんなり分かれるような単純なものになっていないのは史実の反映でもあり、インド的時代観・物語観でもあるんだろうけど、そんな中で縦横無尽に活躍する各登場人物たちに「忠義な騎士」「王統存続派の貴族」「自分に素直な戦士」など、分かりにくい対立構造の中でもある程度役割分担の決まった人物像で動かされていくのは、原作からの反映でもあろうけども物語世界観の捉え方では分かりやすくもなっている、安心設計でもある。その中で、重厚な陰謀劇の合間合間にしっかり軽快なチャンバラや、使命と感情の間で揺れる各々の人間ドラマが効果的に配置されている脚本の抜かりのなさも素晴らしい。企画当初は1本の映画で完結させるつもりだったと言うけれど、どこを詰めれば1本になりそうだったの、と言いたくなるほどに前後編全てに無駄のない濃いい濃いい映像密度ですわ。歴史のうねりの中で右往左往する群集劇だからこそ、誰に注目して映画を見るかで映画そのものの印象がその都度変わっていってしまう多面的な楽しみ方もできてしまう、往年の歴史大作の勝るとも劣らないパワフルな映像詩としても完成度は高い。

 戦国時代の様相を呈する当時のチョーラ朝の混乱の中、王統を失う事が意味するもの、王統を利用されるリスク、生活文化の違う各民族・氏族をまとめるための権力行使の方法、それぞれの人々の暮らしを支えるルールの混乱さは、日本で想像されるよりもより収拾のつかない混沌さを生み出す様も興味深いポイント。
 南インド時代劇のオリエンタルな雰囲気の中に潜む、多様な生活文化をまとめ律する支柱のありかた、その支柱がなくなろうとする時に現れる生活文化の崩壊と混乱は、南インドという大きな地域を貫く共通ルールを浮かび上がらせるとともに、家族であっても信用できない弱肉常食の明日をも見えない不安の拡大をも呼び寄せていく。10世紀における南インド社会の姿もまたその1つとして、麗しい姿を作り上げてくれた本作もまた、歴史の1部として受け継がれて行くものとなって行くのでしょか。

 で、皆様はアーディタ王子とアルンモリ王子とクンダヴァイ王女(+マドゥランタカ王子)の中だったら、誰に忠誠を尽くしたいのでしょーか? 僕はクンダヴァイ王女から「なんや、あの田舎もん」って目で見つめられたーい!(ダメ兵士発言)

 

メイキング

 


受賞歴
2024 Filmfare Awards South タミル語映画主演男優賞(ヴィクラム)・タミル語映画男性プレイバックシンガー賞(ハリチャラン / Chinnanjiru Nilave)・タミル語映画作詞賞(イランゴ・クリシュナン / Aga Naga)・タミル語映画撮影賞(ラヴィ・ヴァルマン)・タミル語映画プロダクションデザイン賞(トータ・タラーニ)

 

 

(。・ω・)ノ゙ PS-2 を一言で斬る!
「宮殿内の熊の剥製見て、インドって熊いるの? …と疑問が出てきて調べたら…いるどころか薬や魔除けに重宝されてるわ、大道芸に使うわでわりと生活に密着してるのネ」


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