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娘よ (Dukhtar) 2014年 93分
主演 サミア・ムムターズ & サーレハ・アーレフ & モヒブ・ミルザー
監督/製作/脚本/編集 アフィア・ナサニエル
"遥かなるカラコルム山脈の麓ー"
"婚礼の当日 花嫁となる10歳の娘を守るために"
"命を賭けた母と娘の脱出が始まった!"

 

 

 細かな光彩を放つ川面を、白い服の女性を乗せた赤い船が進む。
 川を囲むのは荒涼とした大地と、葉のない木々と、ぼんやりと見えてくる対岸…
 アッララキは、そこで目を覚ました。

 

 パキスタン北部、カラコルム山脈の麓の村に住むアッララキには、10才の娘ザイナブと、最近近隣部族と争う夫ドーラット・ハーンと言う家族がいる。彼女の毎日は、老いた夫を支える家事の連続と、英語を教えてくれる娘の成長を見守ること。
 ある日、ドーラットは敵対部族の族長トール・グルと、復讐の連鎖である部族紛争の解決策を話し合う事に。そしてその解決策とは…お互いの部族が1つにまとまるために、老族長トール・グルとドーラットの娘が結婚するしかないと言う!! それは、かつて15才で結婚したアッララキが最も恐れること…10才にして最愛の娘の人生が、自分のように終わってしまうことを意味していた。
 その結婚式当日、トール・グルを迎えたドーラットは女性部屋からなかなか出て来ない母娘を呼び出しに行くと…2人の姿は、すでに家のどこにもいなくなっていたのだ!

 


以下、多少ネタバレを含みますのでご注意ください。

 

 

 


ニコニコ パキスタンはクエッタ出身のアフィア・ナサニエル監督の、長編映画デビュー作。10才の女の子とその母との因習的価値観から来る幼児婚との対立・逃走劇を描くパキスタン&アメリカ&ノルウェー合作映画。
 英題は「Daughter」。劇中でも、原題のアルファベット表記「Dukhtar」のあとに、重なるように英題が浮かび上がってくる表現がある(やっぱインド=ヨーロッパ語族だけあって、なんとなく似てる…ね?)。

 

 2014年のトロント国際映画祭にて初上映されて大きな評判を呼び、パキスタン本国その他世界中で上映・公開された作品。2014年度米国アカデミー賞の外国映画部門パキスタン映画選考作として出品されたものの、ノミネートまでは行かなかったそう。
 日本では2016年にあいち国際女性映画祭にて、監督来日の上で「Daughter」のタイトルで初上映。翌17年に一般公開される。日本国内では、一般公開される初のパキスタン映画となった(映画祭上映などでは日本にもパキスタン映画は入っていたけど)。

 

 監督自身が衝撃を受けたと言う、パキスタンで実際に起こった事件を元に、10年の構想期間をおいて製作された映画で、一般のパキスタン娯楽映画とは一線を画する製作手法で作られた作品だそうな。
 そのため、製作資金・スタッフの確保やロケーション確保・撮影陣の身の安全などなど、企画始動後も数々の困難に見舞われながらの製作となったそうで、その制作環境だけでもパキスタン映画としてもインディペンデント系映画としても画期的な作品になっているよう。

 

 いやはやスゴい映画でありました。
 黄土色の支配する荒涼とした自然の中で、そこに順応しつつその社会の掟にあらがう母娘の逃亡劇を、色彩豊かな母娘の生活衣裳や彼女らに手を貸すソハイルの豪奢な長距離トラックが染めあげていくかのよう。
 名誉がすべてに優先して影響力を持つ部族社会の地域で、いとも簡単に奪われる命のやりとりを覚悟して、娘の人生のために逃亡を選ぶ母。その母の人生を投影されながらも無邪気に新たな人生へと歩み出す娘。その母娘に最初こそ翻弄されながらも、複雑な過去を背負うが故に手を貸す男。三者三様の逃亡劇は、静かながらも濃いいシークエンスの連続・効果的な映像編集処理でこちらの感情を揺さぶってくるし、広大なカラコルム山脈の景色の美しさと、その衣裳風俗の雅びさ、鮮やかな画面レイアウトの数々に惹き付けられっぱなし。
 冒頭や映画の各所で、時々挿入される幻想的な夢シーンに見える多重な記号性。登場人物それぞれにかわされる自然な会話劇に潜む物語的伏線やそれぞれに浮かび上がる人生模様。自然の掟や社会の掟に翻弄される人々を見下ろすかのようにそびえる巨大な山脈。雄弁なレイアウトによる画面構成・映像構成の緻密さ。監督デビュー作にして…監督デビュー作であるからこそ…1つ1つのシーンに積み上げられた象徴性が軽快に転がっていく物語は、重いテーマを抱えな がらも語り口は軽く、奥深く、最後まで目が離せない興味深さを持っている。

 

 ラスト近辺、ラホールのお祭りの中で1つの食べ物を食べさせ合う3人の幸福な絵面は、疑似家族としての「家族のありかた」を見るようでもあり、それがためのああ言う最後の決着のさせ方なのだろうかとも思えるようでもある。都市部と辺境部でも生活スタイルが違うパキスタン社会の風景において、その家族観の変化は確実に迫って来ているようにも見えながら、まだまだ霞んだ対岸くらいの遠さでもあるものか。

 

 ハイテンポな展開とスローテンポな展開の畳み掛け、冒頭とラストに見える幻想の河の色彩的美しさ(つい三途の川的なものを想像してしまいそうになるけど、 パキスタン的な意味付けはと言うと…?)、厳しい人生模様を演じきる役者たちの演技力、強固な作劇の力がこちら側へと雄弁に語りかけてくる重く、美しく、 素晴らしき一作。

 

 


受賞歴
2014 印 ベンガルール国際映画祭 NETPAC審査員特別賞
2015 仏 クレテイユ国際女性映画祭 観客賞
2015 加 モジアク南アジア国際映画祭 特別賞
2015 米 ソノマ国際映画祭 最優秀作品賞
2015 米 南アジア国際映画祭 最優秀監督賞・観客賞
2015 Lux Style Awards 主演女優賞(サレーハー・アリフ / サミヤー・ムムターズもノミネート)
英 国際女性映画&TVショーケース 審査員賞

 

 

(。・ω・)ノ゙ 娘よ を一言で斬る!
「できれば、挿入歌にも日本語字幕をつけてほしかった…」


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