宝生さんが帰った後、事務所に戻った俺は所長室へ行った。それは、今回の報告と今後の対応を所長である智君に相談するためで。

俺の報告を聞いた智君は、腕を組んで大きなため息をついて


「翔くん、報告ありがとう。宝生さん、相葉さんに対する思いがかなり強いみたいだね」


「うん。それで、今後のことなんだけど…」


「そうだね…とりあえず、宝生さんがまたいらした時は、オレも一緒に対応するよ。それと、相葉さんには申し訳ないけど、しばらくここに来るのは遠慮していただいた方がいいね」


「僕もそう思います。相葉さんに何かあったら大変だもの」 


「翔くんに何かあっても大変なんだからね。だから翔くん、決して1人で宝生さんに会ったりしないようにね」

 



次の日から宝生さんは何度も俺を訪ねてきた。その度に俺と智君とで誠心誠意対応して。俺たちの対応に納得していただいたのか、10日ほど経つと宝生さんは事務所に姿を見せなくなった。


そんなある日、仕事を終えて家に戻る途中。自宅最寄りの駅を出てアパートまでの道を歩いていると、いきなり後ろから誰かに腕を掴まれて。振り向くと能面の様な顔の宝生さんが俺の腕を掴んでいた。


「え…宝生さん。どうしてここに…」


俺は宝生さんに自宅の住所はもちろん、最寄りの駅も教えてはいない。


「あなたのこと、待ってたの。だってあそこじゃ所長さんがいつも一緒なんですもの。ねぇ櫻井さん。どうして相葉さんに会わせてくれないの?」


宝生さんに待ち伏せされていたのが怖くて。掴まれた腕を振りほどこうとしても全然できなくて。

宝生さんは相葉さんに会わせて欲しいと何度も何度も繰り返している。

パニックになった俺は、どうしたらいいのか全くわからなくて、ただ立ちすくんでいた。


「翔、こんなところで何やってんだよ」


突然、肩を抱かれて身体がビクッと動いて。誰?と思いながら目をやると


「俺、ずっと待ってたのにお前全然こないんだもん。あちこち探し回ったんだぞ」


俺の肩を抱いていたのは俊介さんだったんだ。