次の日、事務所にかかってきた内線をとると

「櫻井さん、あの…宝生様がいらしてますけど…」


「え、宝生さんが?わかった…今行きます」


ロビーに行くと、宝生さんがカウンターの前で腕を組んで待っている。


「櫻井さん、私、やっぱり納得いかなくて。だって相葉さんからお断りされるなんておかしいですもの」


「あの…宝生さん。あちらのテーブルでゆっくりお話を伺いますね」


俺を見た途端に話し始める宝生さんの勢いに押されつつ。でもここはカウンターの前で、人の出入りもある。

ここで、こんな宝生さんの姿を人目に晒すのは、今後の宝生さんの婚活に差し支える…そう考えた俺は、ロビーの1番奥のテーブルに宝生さんを案内した。


コーヒーを2つ淹れて、宝生さんの前に置いて。宝生さんの向かいに座って。

宝生さんはコーヒーをひと口飲んで


「それでね、櫻井さん。私、やっぱり納得できないんです」


「そうなんですね。あの、昨日、菊池からお電話させていただいたのですが…」


「ええ。お電話いただきました。でも、相葉さんがお断りされるはずないんです。だって私と相葉さんは子供の頃から結婚のお約束をしていたんですから」


「たしか…お互いのお祖父様が決められたと仰っていましたね」


「そうよ。お祖父様同士がお友達でね、私はずっと相葉さんのお嫁さんになるんだって…ずっとそれだけを夢見て…」


「そうだったんですね…でも、相葉さんはお父様を通じてお断りされたと仰ってました」


「そんなの私は認めないわ。この私が一方的に断られるなんて…だって、私と相葉さんは一度もお会いしたことがなかったのよ。私と一度でも会えば、私の良さをわかってもらえる筈ですもの」


「それで相葉さんとの顔合わせをご希望されたんですね」