タクシーから降りて、俊介さんの後について店の中へ。俊介さんは、真っ暗な店の中をパチパチと電気をつけながら奥へと歩いていく。

エレベーターの隣のドアを開けて


「翔くん、ここからは俺のプライベートスペースなんだ。今夜はここで泊まっていくといいよ。ちょっと狭いけど入って」

 

「はい。失礼します」


「そこのソファに座ってて。今、飲み物を用意するから」


ゆったりとしたソファに座り、ふっと息を吐く。掴まれていた腕が痛むから、腕をさすりながら部屋の中を見渡した。

俊介さんは狭いと言ったけど、俺の部屋よりぜんぜん広くて。黒を基調とした家具がセンスよく並んでいる。


「お待たせ。ホットミルクにしたからね、ゆっくり飲んで。気持ちも落ち着くと思うよ」


「ありがとうございます。いただきます」


マグカップを両手で包み込むように持って、ホットミルクをひと口飲むと、少し甘味のある温かいホットミルクが身体に染み渡っていく。

さっきまで怖くて固くなっていた身体が、ほわっと緩んだような気がした。


「…美味しい」


「そっか…それは良かった」


「あの、さっきはありがとうございました」


「うん。今日は休みでさ、街をブラブラしてちょうど帰るところだったんだ。で、たまたまあそこを通りかかったら翔くんが絡まれていたからさ」


「はい…正直助かりました。俺、怖くてパニックになっちゃってたから…」


「あの人…宝生建設のお嬢さんだよね。相葉さんから顔合わせをして断ったって聞いたけど…え、もしかして揉めてるの?」


「あの…詳しいことはお話できないんです。助けてもらったのにごめんなさい」

 

「そうだよね、お客さんのことだもんね。でも翔くん、今夜のあの人は普通じゃなかったよ。相葉さんは、知ってるの?その…あの人の様子とかは」


「はい。お伝えはしています。あの…俊介さん。今夜のことは相葉さんには伝えないでくださいね」