…え、今、なんて言った?

婚約してた…いや、婚約してるって…言ったよな…

えっ…どういうこと?


宝生さんの突然の告白に、俺は頭の中が真っ白で。どうしたらいいかわからなくて。


咄嗟に俺の正面にいる菊池を見ると、宝生さんの方を向いて、口をパクパクさせているし。視線をどうにか宝生さんに向けると、宝生さんは何故か俺を見つめて微笑んでるし、相葉さんに向けると、相葉さんはそんな宝生さんをまっすぐ見つめていて。


ダメだ…落ち着いて、この状況をどうにかしないと…


息をすうっと吸って、何でもいいから声に出そうとした時


「婚約してる、じゃなくて、してた、ですよね。宝生さん」


相葉さんが静かにそう言って。相葉さんの顔を見ると、いつもの優しい顔ではなく、静かに怒りを抑えているようなそんな表情で。


「確かに、私たちは婚約していました。私の祖父とあなたのお祖父様との口約束でね。でも、ずいぶん前に、私の父からお断りさせていただいた筈ですが」


「ふふ、そうだったかしら。でも相葉さん。あなたはこちらで結婚相手を探してらして、私と再会した。これって、運命だと思いません?」


宝生さんの問いかけに相葉さんは何も答えない。表情も変えずに宝生さんを見つめている。

 

「ふふ。まぁいいわ。ねぇ、あなた…櫻井さんだったかしら」


「あ、はい。櫻井です」


「自己紹介が終わったことだし、この後、2人きりでお話をしたいのだけど。席を外していただける?」


「えっと…」


このまま2人きりにしていいものか。もし相葉さんに何かあったら…


そう思えて返事ができずにいると


「櫻井くん、この部屋は何時まで使えるのかな」


「え、あの、16時までなら…」


「じゃあ、16時までということで。それでいいですね、宝生さん」