「翔ちゃん、まだ帰らないの?」


「うん…相葉さんに連絡しないといけないから」


「…あぁ、宝生さんだっけ?相葉さんと会いたいって」


「うん。菊池に頼まれたからね。なるだけ早く会いたいらしいから…」


「…そっか。じゃあ、ワタシはお先に帰るね」


「うん。お疲れ様」


今日は夜の面談予定がいつも程入っていなくて。事務所の中には俺のほかに数人が残っているだけで。


俺は、相葉さんに電話をして、会いたいと入っている方がいると伝えた。

相葉さんは、初めのうちは戸惑っていたようだったけど、『宝生さん』の名前を告げると、少し考えた後、会うことを了承してくれた。

日時と場所を伝えると、その場で相葉さんはスケジュールを調整してくれて。相葉さんと宝生さんの初顔合わせの日が決定した。


「宝生さま…いったいどんな方なんだろう…」


菊池に相葉さんから了承を得たことを報告した後、菊池が宝生さんから聞き取った、プロフィールのファイルを書類庫から取り出して。

デスクで広げてみたけど、名前や生年月日などの基本的なことしか記入してなくて。


「年齢は、相葉さんの一つ下か。顔写真も貼ってないし…たぶん、相葉さんとは知り合いなんだろうけど…これだけじゃわかんないなぁ」


菊池にもう一度電話をして、もっと具体的なことを聞いておけよと文句を言ってやろうかと思ったけど


「文句を言ったところで、何も解決にはならないもんな…」


パタンとファイルを閉じて書類庫に片付けて。残業中の同僚に声をかけて、事務所を後にした。