「所長、おはようございます。何かご用でしたか?」
「翔くんおはよう。田中さん成立したそうだね」
「翔くんって…職場では名前で呼ばないでって言ってるじゃない」
「いいじゃん、今は2人だけなんだし」
「もう、智くんには敵わないや」
実をいうと、所長の智くんとは従兄弟同士で。
それを内緒にしているわけではないけれど、職場ではきっちりとしたい俺の気持ちを汲んで他の所員と同じように接してもらっている。
でも、2人きりになると途端に名前を呼んでくるから、俺もつい、くだけた話し方になってしまうんだ。
智くんに促されて、向かい合うようにソファに腰をおろす。ソファの間のテーブルにはファイルが1つ置いてあって。
「この人を翔くんに担当してもらいたくてね」
智くんからファイルを受け取り、ファイルを開いて会員さんの名前を確認する。
「相葉…雅紀さん…」
「この方もなかなかいいご縁に繋がらないんだよ。菊池がずっと担当していたんだけどね、上手くコミュニケーションが取れなかったみたいでさ、担当を変えてみたらいい結果が出るんじゃないかと思って。それで翔くんに来てもらったんだ」