潤の「家に来ない?」っていう言葉を、理解できなかったみたいで
「…え…あの…」
彼は、大きな瞳を見開いて、困ったように俺の顔と潤の顔を見ている。
そんな彼の様子を見かねて、岡田が彼に説明をしてくれた。
「急にそんな事を言われても困っちゃうよな。君の今の状態は、入院が必要な状態ではないんだ。だから、君は退院しなくちゃいけない」
「はい…」
「君は、たぶん未成年だから、本当だったら親御さんに連絡して、身元を引き受けてもらわないといけないんだ。でも、君は自分の名前も何もかも思い出せないだろ?だから俺はこの2人に相談したんだよ。君のことを頼めないかって。俺と智とは幼馴染でね、潤は智のパートナーだし。俺はこいつらの事を信頼している。何より、こいつらが君を見つけてくれたことに、俺は縁を感じてるんだ」
「…でも…ご迷惑じゃ…ないですか?」
「俺も潤も、岡田から話を聞いた時は驚いた。名前も何もかも思い出せないなんて、ドラマの中の出来事だと思っていたからな」
「うん。でもね、岡田くんから話を聞いて、君のことを助けたいって思ったんだ。君の記憶が戻るように、俺も智も協力するよ。だから、それまで家で暮らそうよ」
「本当に…いいんですか?」
俺も潤も、彼にしっかりと頷いてみせる。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
頭を下げた後、彼は少しだけ笑顔を見せてくれた。
「よし。そうと決まれば、俺は退院の手続きをしてくるわ」
「岡田くん、じゃ、俺も一緒に行って会計済ませるよ。智は彼にこれを食べてもらっておいて」
俺は潤から小さな保冷バッグを受け取って、その中からおにぎりを取り出して彼の手に持たせて
「これ、ここにくる時に作って持ってきたんだ。お昼ご飯食べてないんだろ?良かったら食べて」
彼はしばらくおにぎりを見つめた後
「いただきます」
ゆっくりとおにぎりを食べ始めた。