手紙の内容は大体こんな感じだった。


やはり旅に出るのか…

そんなことだろうと思って、戦闘用マテリアル「サムライ」と「マジシャン」をカバンに入れておいた。

今お前らが身につけている屑マテリアルとは比べ物にならないほどの力を得る事が出来るだろう。

だがその反面、それらは今まで使っていた物とは比べ物にならないほど扱いにくい。

使い方などは裏に書いてある。

それらを使って旅をすれば、お前等の甘さもよくわかるだろう。

だが…もしそれらを上手く扱えるようになって、それでもまだ旅を続けなければならない時は戻って来い。


*マテリアルについて

丸い石。宝石のように、ネックレスや指輪などにつけて装備する。

屑マテリアルと戦闘用マテリアルの違いは、「魂」が封入されているかどうか。

戦闘用マテリアルにはある「魂」が封入されていて、その「魂」によってマテリアルの能力が決定される。

屑マテリアルは身体能力の強化のみなのに対して、戦闘用マテリアルは「スピリット」と呼ばれる人間の集中力を利用して何かを操ったり、物質を生成したり出来る。

戦闘用マテリアル使いはマテリアルの「魂」と上手く同調することも重要で、上手く同調できないとその能力が弱まるだけでなく、「スピリット」の浪費に繋がってしまう。


「それじゃ、早速…」

「じゃあ、僕も…」

アイルーサは「サムライ」を付け、カースは「マジシャン」をつけてみる。

「ねぇ、これ見てよ。石が浮くよ。」

「おい、何にも無いところから刀が出たぞ。こいつはすげぇや!」

「よーし、これならなんでもかかってこいって感じだな!早く依頼受けて金を稼がねぇとな。飯食って、早いとこ出発しよう。」

「やはり…いったか…」

朝起きてみると、リビングのテーブルの上に一枚の紙が置かれていた。

「ちょっと旅をしてくる。」

紙にはそう書かれていた。

「…死ぬなよ、アイルーサ、カース」


アイルーサ達が住んでいたサバブから東へ20km進むと、アーバイルと呼ばれる町があった。

サバブにはギルドが無いので、とりあえずアーバイルに行くことにした2人。

距離的には大した事は無いのだが、途中に巨大な山があり、思いのほか進みにくかった。

2人は2時間ほど歩いたところでで休憩することにした。

「本当によかったの?勝手に出てきちゃって…」

「まだそんなこと言ってるのか?大丈夫だって、マテリアルさえあればなんとかやっていけるだろ。」

「まったく、能天気なんだからさ。」

「な、とりあえずさ…飯にしない?パン持ってきたし。」

そう言って、アイルーサは袋の中に手を突っ込んだ。

「えーと、パン、パンと…ん?なんだこの紙?」

「…親父から?」

夜も深け、子供達が寝静まった頃トフィスは外に出て一人酒を呑んでいた。

彼はわかっていた、彼らが無断で出て行くであろう事は。

行かせたくないとは思いつつも、18年前に同じ事をした彼にはその気持ちはよくわかっていた。

「これも運命、か…」

まるで自分に語りかけるかのように、まだ凍えるような寒さの残る夜空に向かってそう呟いた。

トフィスは15年前に封印した地下室へと足を踏み入れ「あるもの」を取り出した。

そして子供達に気付かれぬよう部屋に忍び込み、そっと袋の中にその「あるもの」と1枚の紙を入れるのだった…

「親父、冒険に出たいんだ。」

カースが言い出した。

このような事はギルドが活発なこの大陸では当たり前の事。

本当に危ない時はそこら中に冒険者がいて助けてくれるため、簡単な依頼を受けて暮らしていくぶんには怪我をする事はあっても、死ぬ確率は決して高くは無い。

しかし父親、トフィスは

「ダメだ、冒険者なんてろくなもんじゃねぇ。んな事言ってる暇があったら、木でも切って来い。」

「まぁまぁ、親父、落ちつけって。」

アイルーサは話を聞こうともしない親の正面に立ち、こう言った。

「俺もついていくよ。それならいいだろ?」

「…全然よくねぇよ、このドァホ!お前がついていきたいだけだろうが。」

「おいおい、その言い方はねぇだろ。これでも俺は町一番のマテリアル使いなんだぜ?」

(…同じだな、あの時と。)

トフィスは自分が冒険に出た時の事を思い出していた。

住んでいた環境こそ違えど、あの時もこんな感じだった。「あいつ」と俺と親父のやり取りは…

そして自分たちは世界を変えた。そのお陰で人々は平穏を手にすることが出来たのだ、しかし…

だからこそ自分を親だと思っている「あいつ」と、自分の息子を冒険者にはさせたくなかった。

きっとあいつらは世界の命運を握る事になるかもしれない。それが嫌だったのだ。

(…やはり血は争えん、か。)

3大大陸の一つ、スローウィン。

大陸にはそれぞれの特徴があって、この大陸が持つ特徴は「自由」だ。

そのような特色の為か、基本的に政府の働きは悪く、治安は3大大陸の中では最悪。

だが、自由を害するモンスター達に対しては敏感で、3大大陸の中でもモンスターは一番少ない。

政府の働きが悪い為、ギルドと呼ばれる依頼請負所の活動は活発である。

そんな大陸のとある片田舎に、アイルーサという少年がいた。

アイルーサは16歳。彼にはカースという15歳の弟がいた。

現在父親との3人暮らしをしている。

物語はここから始まる…

*この物語はフィクションです。


今から数千年後、人々は科学技術を利用して平和な生活を送っていた。

-ただしそれは人間の領土の中ではあるが-

そこから一歩でも外に出ればバイオテクノロジーによって作り出され、人間のコントロールを逃れた猛獣達が蠢いている世界である。

その猛獣達は「モンスター」と呼ばれ、人間が施した遺伝子操作によって信じられないほどの力を持っていた。

人間達は特殊な壁を作り、モンスター達から身を守っていた。


サイコキネシス、透視。

人間には未だ科学では解明し尽くせない力が備わっている。

しかし研究が進められていくうちに次第に明かになっていき、それを扱うための道具「マテリアル」なる物が作り出された。


時を同じくして特に強大な力を持ったモンスターが現れる。

セイリルと呼ばれたそのモンスターは各地のモンスター達を纏め上げ、人間達に勝負を仕掛けて来た。

人間達は予想以上に力を蓄えていたモンスター達に苦戦を強いられたが、マテリアルと英雄アスリア、リリス、フィスト、ミスティの活躍によりモンスター達を殲滅する事に成功した…


それから15年後…

マテリアルは人間達の生活には欠かせない物になっていた。