あらすじ

 暴風雨は止まず、怪夢も続いた。紫の上の使者が来て、京も

荒天が続き、政務に支障をきたすほどだという。ついに源氏の

屋敷に落雷し、一部を焼いた。その夜の夢に、亡き父帝が現れ

て、早く船出して住吉の神の導きに従って、須磨の浦を立ち去

るように告げた。

 翌朝、夢のお告げに従ったと言って、明石の入道が船を用意

して源氏を迎えにきた。夢の内容が不思議に一致するので、源

氏は意を決して船に乗ると、たちまち順風が吹き、一行を明石

に導いた。

 明石では入道一家が大歓迎した。入道は、源氏を娘婿にとい

う悲願を打ち明ける。

 

 

本文

 終日にいりもみつる神の騒ぎに、さこそ言へ、いたう困じ給

ひにければ、心にもあらずうちまどろみ給ふ。かたじけなき御

座所なれば、ただ寄りゐ給へるに、

 故院ただおはしまししさまながら、立ち給ひて、「などかく

怪しき所にはものするぞ」とて、御手を取りて引き立て給ふ。

「住吉の神の導き給ふままに、はや船出してこの浦を去りね」

と宣はす。

 

現代語訳

  一日中激しく吹き荒れた雷雨の中で、主らしく指図していた

源氏だが、すっかり疲労困憊してしまい、思わずうたたねをし

た。雷火を避けて移った部屋は、あまりにもお粗末なので、横

にもならず、ただ物に寄り掛かっていたのだ。

 すると、故桐壺院が生前のままの姿で現れて、「どうしてこ

んな田舎にいるのか」と、源氏の手を取って引き起こした。故

院は「住吉の神の導きに従って、一刻も早く船を出してこの浦

を立ち去れ」と言う。

 

         角川ソフィア文庫ビギナーズクラシックス

                 日本の古典源氏物語より