方丈記 鴨長明
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに
浮ぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまるためしな
し。世の中にある人と栖と、またかくの如し。
玉敷の都の中に、棟を並べ甍を争へる、高き賤しき人の住居は、
世々を経て、尽きせぬものなれど、これをまことかと尋ぬれば、昔
ありし家は稀なり。或は去年焼けて今年は作れり、或は大家亡びて
小家となる。住む人もこれに同じ。
所も変らず、人も多かれど、いにしへ見し人は、二三十人が中に、
僅に一人二人なり。朝に死に、夕に生るるならひ、ただ水の泡にぞ
似たりける。
知らず、生れ死ぬる人、何方より来りて、何方へか去る。また知ら
ず、仮の宿り、誰がためにか心をなやまし、何によりてか目を喜ば
しむる。その主人と栖と無常を争ふさま、いはば朝顔の露に異なら
ず。
