第5帖 若紫
★光源氏は治療に訪れた北山で、かたときも心を離れない藤壺
によく似通った少女を発見した。
その子は山中の庵で祖母とひっそり暮らしていた。
家庭環境に恵まれない薄幸の美少女は、藤壺の代わりとなって、
やがて源氏に引き取られ、理想の妻にしこまれていく。
後の紫の上である。
面つきいとらうたげにて、眉のわたりうちけぶり、いはけなく
かいやりたる額つき、髪ざし、いみじう美し。
ねびゆかむさまゆかしき人かなと目止まり給ふ。
さるは、限りなう心を尽くしきこゆる人に、いとよう似奉れるが、
まもらるるなりけり、と思ふにも、涙ぞ落つる。
(現代語訳)面ざしがとても愛くるしく、墨描きの眉ではないので、
輪郭がぼうっとした感じで、子供っぽく搔きあげた額や髪のぐあ
いは、たまらなくかわいらしい。
大人になった姿を見たいものだと、源氏の視線は少女に貼りつい
たままだ。
それというのも、いつも心から離れない藤壺の宮によく似ている
から、こんなにひかれるのだと思うと、源氏は感傷的になって、
思わず涙をこぼしてしまうのだった。
出典 角川ソフィア文庫
ビギナーズ クラシックス 日本の古典 源氏物語より