源氏物語 第5帖 若紫より 光源氏は 病気の治療のためにおとずれていた

                北山で、敬愛する 藤壺の宮 (亡き母の面影通

                う継母) によく似た少女(後の紫の上) を見つ

                                               ける。

 

「何事ぞや、童女と腹だち給へるか」とて、尼君の見上げたるに、少しおぼえた

るところあれば、子なめりと見給ふ。

(現代語訳)「どうしたの、誰かと喧嘩でもしたの」と、立っている少女を見上

げる尼に、顔が少し似ているので、尼の子だろうと源氏は思った。

 

 

      「雀の子を犬君が逃がしつる。付籠のうちに籠めたりつるものを」

      とて、いと口惜しと思へり。

      (現代語訳)「雀の子を犬君(遊び仲間の女子)が逃がしちゃったの。

      せっかく籠をかぶせておいたのに」と、ひどくがっかりした顔だ。

 

      このゐたる大人、「例の、心なしの、かかるわざをして、さいなまる

      るこそ、いと心づきなけれ。いづ方へかまかりぬる。いとをかしうや

      うやうなりつるものを。烏などもこそ見つくれ」とて立ちて行く。

      (現代語訳)そばにいた女房(侍女)が「あのおてんばが、またそんな

      ことをして、本当に困ったこと。雀の子はどこへ行ったのかしら。だ

      んだんかわいくなってきたのに。烏なんかに見つかったらたいへんだ

      わ」と言って立ち上がり、雀を探しに行く。

 

 

 

       出典 角川ソフィア文庫

            ビギナーズ クラシックス 日本の古典 源氏物語より