源氏物語第1帖(桐壺)より ★(ここには光源氏の生母桐壺の更衣が帝から

               いかに寵愛されていたかが描かれています)

 

 朝夕の宮仕へにつけても、人の心をのみ動かし、恨みを負ふつもりにやあ

りけむ、

(現代語訳)帝と過ごす夜の御殿と、自分の部屋の間の往復は、他の妃たち

の部屋の前を通らなければならないので、当然、彼女たちの神経はとがった

 

いとあつしくなりゆき、もの心細げに里がちなるを、

(現代語訳)やがて積もり積もった嫉妬のせいか、更衣は、病気がちで生気

をなくし、実家に帰ることが多くなった。

 

いよいよ飽かずあはれなるものにおぼほして、人のそしりをもえ憚らせ給は

ず、世の例にもなりぬべき御もてなしなり。

(現代語訳)そうなればなるで、帝は、いよいよ愛着をつのらせ、周りの忠

告も耳に入らない。後世に悪例を残しそうな特別待遇を続けた。

 

上達部、上人なども、あいなく目をそばめつつ、いとまばゆき人の御おぼえ

なり。

(現代語訳)妃たちだけでなく、側近の高官たちでさえ、苦々しげに顔をそ

むけるほどの寵愛ぶりだった。

 

    出典 角川ソフィア文庫

         ビギナーズ クラシックス 日本の古典 源氏物語より