瑞穂は6歳、有名私立小学校の入学試験を間近に控えていた。

 

父親、播磨和昌は祖父が興した事務機器メーカーを5年前に父親から引き継いで、株式会社ハリマテクスの社長としてBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)を手がけていた。脳と機械を信号で繋ぐことで、人間の生活を大きく改善しようとしていた。

 

入学試験の一項目である、両親の予備面接を「お教室」と呼ばれる予備校で受ける日で、順番を待っている時に祖母の千鶴子(瑞穂の母親である薫子(かおるこ)の母)から緊急の連絡が入る。

 

瑞穂がプールの事故で意識不明となった。

 

両親揃って病院へ駆けつけるが、一時、心臓が止まり、意識不明であるということだった。脳波が平坦であり、回復の見込みはないと告げられる。

 

臓器提供の説明がなされ、一旦は承諾するが、瑞穂の手を握っている両親の呼びかけに一瞬反応したように感じた。

 

「娘は生きています。臓器移植は拒否します」薫子は自分が世話をすると決意します。

 

父親である和昌は、自社の星野が自発呼吸ができない被験者に人工呼吸器なしで対応していることを知る。

 

横隔膜に電気信号を流すことにより横隔膜を動かし、呼吸することが可能になるということだ。心臓のペースメーカーに相当するようなものである。

 

共同研究している医大の協力を得て、瑞穂は人工呼吸なしで呼吸ができるようになる。その後、自宅で介護ができるように薫子と千鶴子は病院から研修を受け、自宅介護が可能になるまで安定した瑞穂を家に連れて帰る。

 

技術者である星野は、研究で行なっている、筋肉に電気信号を与えることにより手足を動かすことが、瑞穂にも応用できないかと考える。

 

車椅子に座る瑞穂の背中の部分にマットを挟み、そこから電気信号を加えると、足を上下に動かすことが可能になった。腕も肘から先を上下に動かすことができる。

 

病院での定期検診では、意識がない以外は、血圧、体温などのコントロールができていて、正常な人とほぼ変わらないと、「奇跡の子」と呼ばれていた。

 

自発呼吸(実際には電気信号でコントロールしているのだが)、筋力を保つことで統合性を保っているのではないかと、考えられるということであった。

 

3年以上が過ぎた頃、眠っていた薫子の横に瑞穂が立っている気配を感じた。

 

ママ、ありがとう。

今までありがとう。

しあわせだったよ。

 

そう言って、気配が消えた。

その後、瑞穂に繋がれている機器のバイタルサインが悪化し始めた。

 

翌日、連絡を受けて、別居していた和昌も病院に駆けつける。

 

「今朝早く、瑞穂がお別れに来てくれたの」

 

瑞穂は、生前に人の役に立つことを望んでいたことに気がつき、和昌と薫子は決断する。