「美しい星」、見てきました!
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宣伝の段階で異彩を放っていた今作。
次第に侵食されていく日常。蠢く陰謀の影。崩れていく家族。観客を飲み込んでいってしまう、いってしまう奇妙な渦といえば良いのでしょうか。途中からこれは現実なのかそれともファンタジーなのかわからなくなっていくような、その二つの世界が交わっていく、そのギリギリの際どいラインを描くことで絶えずハラハラしっぱなしでした。
引いた目線で見れば笑えるシーンも多いけれど、いざその場にいたら不気味だなあと感じます。

原作三島由紀夫ということで、小説も読んで見たいと思わせられました。映画のホームページには小説との比較がされていて、意外な設定があったりして新しい発見になりました。
多くのメッセージが込められた今作。当事者であるという意識はこうも人を大胆に強く踏み出させてしまうのかと思うと、凄いけれど恐ろしさを感じさせます。人間の自然に対する傲慢さ、そしてそれが自らの墓穴を掘っていく滑稽な様。三島由紀夫が原作に込めたであろう強い思いが、時代を超えてスクリーンからぶつけられました。

でもそんな中にも人間っていいなって思わせられる瞬間があって特に最後の家族の愛が大好きです。変なお父さんだけど、そんなお父さんのために必死で動き回る妻と子供達。なんだかホロリと泣いてしまいました。

リリーフランキーさんのお父さん、中年のオヤジが何かに必死に取り組む姿がとても好きでした。ボロボロになりながらも自分の大切なもののために頑張る。ラスト地球を離れながら、家族を見つめる彼の目が印象的でした。変なポーズもクスッとしてしまいます。
亀梨和也さんは誠実さと不誠実さを共に抱えて生きるフリーター。物語の核心に迫る大事な役です。この作品は彼が自分の信念を見つける作品ともいえます。対立する二つの信念に翻弄される様が良かったです。
中嶋朋子さん演じる母は一番の常識人でありながら、彼女もまたどこか狂った道を進んでいってしまいます。でもそれも結局家族のズレのしわ寄せが彼女にきてしまっていて。最後に見せる妻としての願い、母としての願いに心打たれました。
娘を演じる橋本愛さんは美しく寡黙でつかみどころのない学生。まさにぴったり。UFO呼び出しのポーズも真面目にやってしまう危うさが見事に表現されました。病室での父親とのシーン、むき出しで傷ついてしまう心と、だからこそ気づく家族の愛に泣きました。
そして佐々木蔵之介さんの恐ろしいこと。朝ドラの「ひよっこ」で見せる温かい笑顔とは全く違う、冷徹で不気味な存在。しかしそんな中にも熱い信念が垣間見えてそれがぐっと、つかみどころのない役に親近感を与えてきました。

美しい星というタイトルは地球をさしていながら、そこに営む全ての生物や自然をしっかりと内包しています。「自然が美しいのではなく人間が自然を美しく感じる」とは作中の言葉ですが、このタイトルに三島由紀夫の、地球上に生きる人間を含めた全ての自然を美しく感じたいという思いが込められているような、そんな気がします。



優雄斗