✡デートのつもりではありません⑤ | pkmn夢小説

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剣盾のキバナ様が推しで、
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 ✡10✡デートのつもりではありません⑤



 ✡✡✡



 公園で昼食を食べた後、寄りたいお店があるんだ、と菫が言ってきた。
 俺様達が乗る予定になってる電車の時刻まで、後3時間あるし、
 時間潰しには丁度いいか、と思い、徒歩でアーケード街へと戻ることに。

「うーん……こっちのお箸が使いやすいと私は思うんだけど……」

 実際に使うのは、キバナ君だから、と
 菫に選んで貰った箸を渡された俺様は一応右手で持ってみると、
 何の違和感もないし、持ちやすい。

「確かに……、俺様もこっちの方がいいな」

「お箸はそれで決まりだね。
 後は……自分専用のマグカップとかいるよね?」

「別に家にあるものでいいぜ? 俺様は」

「でも、朝起きたら、コーヒー飲むでしょ?」

「そりゃそうだけど……」

 実はというと、俺様は紅茶よりコーヒーを好む。
 前に一度、スポンサーからオススメされた紅茶を飲んだことがあってさ。
 ポケモントレーナーになってから、一度も飲んだことがなかったし、
 ほんの興味本位で口にしたら、その紅茶がクソ不味かったと言う
 誰にも言えない苦い思い出がある。
 だけど、お偉いさんの前で何も言えなかったからな。
 その時はジムリに就任したばっかりだったし、
 得意のヌメラスマイルで誤魔化したけど。
 もうそれ以来、コーヒーばっかり。
 向こうにいた頃は毎朝欠かさず口にしてたし、
 大事な試合でダンデに負けた時とか、
 山積みとなった書類が全然片付かなくて、
 苛々してる時でも、何杯も飲んでたな。
 勿論、こっちに来てからでも、葵さんが淹れてくれた、と言っても、
 スーパーに売ってあるスティックコーヒーなんだけど、
 それがめちゃ美味くて、毎朝飲むのが、俺様の日課になってる。

「よし、次はキバナ君専用のマグカップ探しーっ! レッツゴーっ!」

 早く行こっ! と小さな手に引っ張られた。

「え? あ、おい!」

 菫の天真爛漫に振り回される度に、俺様はこのように調子が狂う。
 ──だけど。

「キバナ君、早く早く!」

 太陽みたいな眩しい笑顔を目にすると、
 心の奥が温かくなって、自然と笑みが零れ落ちた。

「……ったく、分かったから……そんなに引っ張んなって」

「えへへ」

 好きって自覚した時から、
 菫に振り回されるのが楽しいと思う俺様自身がいるんだよな。
 そうじゃなかったら、こんな風に笑ってねぇよ。
 その後、イーブイやピカチュウ、
 ポッチャマが描かれたマグカップを見つけたんだけど、
 サイズ的にも丁度良かったし、
 ただ、男の俺様が買うのはちょっとな、と躊躇ってたら、

「じゃあ、私が買ってくるっ!」

 見兼ねた菫がそのマグカップを手に取って、
 さっさと会計を済ませやがったもんな。
 勿論ちゃんとお礼は言ったけどさ。
 デートとは程遠いけど、こんな感じで菫との買い物を楽しみ、
 ある程度済ませると、
 今何時か? とパーカーのポケットからスマホを取り出して、
 ロック画面に表示されてる時計を見る。

「まだ2時間近くあるな……菫、どうする?」

「そうだなぁ……バスに乗って帰ってもいいけど」

「バスって……あ、もしかして、これのことか?」

 丁度歩道側を歩いてた俺様の右側、つまり、道路を走ってた赤のバスが
 少し歩いた先にあるバス停に止まって。
 後に続くように、赤のバスより一回りデカい白のバスが停留してきた。
 何とか経由の何とか行きってアナウンスが流れてるけど、
 なんか、難しい言葉を使ってるみたいで、
 幾ら、日本語を勉強中の俺様ですら、さっぱり分かんねぇ。

「そうだよ。でも、白のバスは島原方面行き。
 赤のバスはニュータウン経由だから、
 私達はこのバスには乗れないの」

 何だそれ? ただ、バスに乗るだけだって言うのに。
 アナウンスと表示されてる文字を見て、
 判断しねぇといけないなんて。

「……ややこしくねぇか?」

「うーん……初めて乗る人にとって、困惑するかもね。
 乗り慣れたら、簡単だろうだけど……」

 その言い方だと、普段からバスに乗り慣れてるってことだよな?

「菫は何歳の時から乗ってたんだよ? バスに」

「えっとね、初めてバスに乗ったのは、
 私が幼稚園の時だから……4歳の時かな?お母さんと一緒だったけど。
 本格的に一人でバスに乗れるようになったのは、小1……7歳だね」

「へぇー……凄えなぁ……」

 菫が7歳だったら、俺様は5歳……。
 ガキの頃の記憶とか、あんま覚えてねぇな。

「あ、こっちに来たのがキバナ君で良かったかも」

 なんで? と訊くと、

「ダンデさんだったら、色んなバスに乗りそうだし、
 最後には道に迷ったとか言うんじゃないのかな?」

「はははっ、そいつは間違いなく言うぜ」

 あのダンデのことだ。絶対に興味本位で乗りそうだな。
 それで、気になった場所を見つけて、バスから降りてはその繰り返し。
 挙げ句の果てに特性の方向オンチを発動させて、
 此処は何処だ? と首を傾げる、と言う光景が
 俺様の頭の中に浮かんできた。
 そんなダンデを俺様が探して、迎えに行くのかと思うと、
 先が思いやられるぜ。

「バスに乗ってみたいなら、今度教えるね」

 デートの約束じゃねぇけど、
 次も菫と出かける口実が出来たことが嬉しくて、思わず、頷いた。

「駅の中にあるゲーセンで時間潰そっか?」

「ゲーセン、か……。
 今思えば、俺様あんまり遊んだことなかったな……」

 そう言うと、ほえっ!? と驚きの声が上がった。

「もしかして、一度も遊んだことないの?」

「んー……ま、仕事ばっかりしてたから」

 偶にだけど、休みの日はワイルドエリアに行って、
 フライゴン達とキャンプしてたぐらいだぜ、と教えると、
 いいなぁ〜、とめちゃ羨ましそうにしてた。

(それに……溜まりに溜まったストレスを発散しようと、
 一夜限りの女と……、なんて、菫に言える筈がねぇよな)

 すると、何かを企んでた菫は
 黒曜石の瞳をキラキラと輝かせて俺様の方を見るなり、

「じゃあ……!」

「“目一杯、ゲーセンで遊ぼう”って、言うつもりだったんだろ?」

「むぅ~、先読みしないで〜っ!」

「……やっぱり、な。
 お前のことだから、絶対にそう言うって思ってたんだよ」

 何もかも全部お見通しだ、とわしゃわしゃと頭を掻き回した。


 ✡✡✡


 ──時刻は夕方。
 プラットホームに電車が来たことを告げる鐘の音が鳴り響いた。

「……っ、ギリギリセーフ……だな……
 こんなに、全力で走ったのって……っ、久し振り、だぜ…………っ」

 迷子魔のダンデを捜しに行ったのはいいけど、
 何故か、ポケモンバトルする羽目となって、大事な会議に遅刻した以来。
 ま、その後にローズ委員長の秘書であるオリーブさんに
 こっ酷く怒られたけどな。
 一先ず、荒くなった呼吸を落ち着かせようと息を整えてたら、
 隣から申し訳なさそうに謝る菫の声が聞こえてきた。

「はぅ〜……御免なさい……。
 私がゲーセンで夢中になって、遊んでたせいで……」

 今の菫をポケモンに例えるなら、
 困り果てた表情を見せて、触角が垂れ下がったヌメラか?
 今にも、ヌメ〜って鳴き声が聴こえそうだな。

「あー、はいはい。もう気にしないの。
 ちゃんと間に合ったから、な?」

「……うん」

 しょんぼり顔を見せる菫の頭をぽんぽんと撫でた。
 俺様もクレーンゲームで景品を取るのに夢中になってたから、
 今更菫に文句が言える立場じゃねぇし……。
 取り合えず、電車に乗り込み、一番前の車両まで足を動かしていくと、
 丁度空いてる席を見つけたので、そこに座ることにした。
 勿論、菫をレディファーストすることを忘れずに。

「有難う」

「どう致しまして」

 それにしても、と周りを見回す。
 この時間帯って、スクール帰りの女子生徒や仕事帰りの女が多いせいか、
 さっきから、俺様を見つめる熱い視線がある。
 いつもはファンサするけど、
 こっちにいる以上、俺様はただの“キバナ”なんだ。
 それに、今は菫だけしか興味ねぇからな。
 女子達の視線を軽く流し、菫の隣に、通路側の席に腰を落とすと、
 クレーンゲームで取った“もっちりまんまるマスコット”を
 紙袋から取り出した。

「菫、ヌメラ好きって言ってたよな? ゲーセンでこれがあったから」

 お前にやるよ、と小さな手の平の上に乗せた。

「可愛い……簪もマスコットもだけど……、
 私ばっかり、こんなに貰ってもいいのかな?」

「そりゃ、俺様の買い物に付き合ってくれた訳だし……。
 だからさ、それもお礼だと思って、受け取って?」

 そう言うと、菫は嬉しそうに笑みを零してくれた。
 余りの可愛さに、ドキッと胸が高鳴った俺様は
 赤くなった顔が見られねぇように手で覆い隠した。

(……マジでヤバいな……)

 なんで、誰も気づかなかったんだよ? 菫の魅力に。
 たださえ、こんなに可愛いって言うのにさ。
 菫は天然無自覚な上に男に対する警戒心も全くのゼロだもんな。
 知らねぇうちに言い寄って来る男に喰われるのが、目に見えて……
 嫌々、それだと流石に困る。
 俺様だって、早く振り向いて欲しくて、こんなにアピールしてんのに。

(周りから見ても、好意があるって
 分かりやすいようにしてたんだけどな…………)

 経験がねぇせいもあるけど、
 恋愛に関しては、かなりって言うより、超が付く程の鈍感だもんな。

(やっぱり、あれか?
  俺様がそれ以上にアタックしていくしか……。もっと、積極的に)

 これでも、アピってるつもりと言いたい所。
 ま、菫を好きになって、まだ2日目だし、
 葵さんに藤哉と言う外堀を埋めつつ、早く口説き落とそうと思ってる。
 勿論逃がすつもりなんて毛頭ねぇし、
 俺様なしでは生きられねぇようにしてやるからな。
 一度狙った獲物は、絶対に手に入れる。──それが俺様のやり方だ。

(キバナ様にたっぷり愛される覚悟、今のうちにしとけよ? 菫)

「うーん、何処につけよう…… 
 やっぱり、バッグかな? ヌメちゃんのマスコット」

 そんな決意を抱いたことを知らねぇのか、
 菫の奴、俺様があげたプレゼントに夢中になってるみたいだ。
 無邪気に喜ぶ菫を隣で眺めつつ、電車に揺れること約8分。
 漸く最寄り駅に着いたようで、
 荷物を持って、菫と一緒に席を立ち上がった俺様は
 運転席にいた駅員に2枚の切符を渡し、
 電車から降りようとしたら、地面との段差があることに気づき、
 すぐさま、菫に向けて左手を差し出す。

「菫、ほら」

 この意味が分かったのか、
 頬っぺたを朱色に染めつつ、おずおずと小さな手が重なってきた。
 その手を取ると、足元気をつけろよ、と一言伝えてから、
 一緒に電車を降りる。
 そして、菫が歩きやすいようにエスコートした。

「……ホント、菫の手って小さいよな」

「それを言うなら、キバナ君の手がおっきいの」

 改めて握る菫の手が余りにも小さくて、力加減が中々難しい。
 もっと、強く握ったら、
 華奢な体躯に悲鳴を上げるのでは、と考えただけでも怖いし、
 やっぱり、女性は大切な宝物みたいに、慎重に扱わねぇとな。

「重くねぇか? そっちの荷物」

「平気だよ。職場だと、もっと重たいものを持ってるから」

「おいおい……普通さ、男が持ってあげるべきだろ?」

 まさかとは言わねぇけど、
 男の従業員がいないって言うんじゃねぇだろうな?

「ちゃんといるよ。男性従業員。
 えっとね、店長、副店長でしょ。ナイトマネジャーが二人いて、
 後は各部門の主任かな? それ以外は全部女性ばっかり」

「年齢って、皆バラバラ?」

「うん」

 そういう所は向こうと違うんだな。
 俺様がジムリに就任した時には
 もう既に俺様と年が変わらないリョウタ達がサポートしてくれたから、
 そこまで苦じゃなかったけど……。
 すると、俺様がそういうことを訊いてきたからなのか、
 菫は今勤めてる仕事のことを色々と教えてくれた。

「私だって、最初の方はキツかったよ。
 あんなお豆腐とか牛乳パックが入った重たいもの持つの。
 そのせいで、足腰とか痛めたことあるし」

「うわぁ……マジかよ……」

 たださえ、身体が軽いって言うのにな。
 そんな重たいものを持って、
 よろよろとする菫の姿が頭の中に思い浮かんできた。
 なんか、危なっかしくて見えて、逆にそわそわするぜ。

「でもね、こういうお仕事をしてると、
 色んなお客様とお話が出来るし……、
 やりがいがあって、とても楽しいのっ!」

「…………」

 実は俺様が抱いた菫の第一印象が男に対する警戒心もなく、
 一見か弱くて、お子様みたいで変わった女、と。
 実際、同じ屋根の下で暮らしていくうちに、
 菫の天真爛漫な人柄と思いやる心を持つ
 優しい女であることに気づいた俺様は次第に目で追うようになって……
 ま、一番の決め手はあの笑顔だったんだけどな。
 今も眩しい笑顔を、見せてくれてるし。
 これは俺様だけの特権だと思えば、得した気分だ。

「……やっぱ、凄えな。菫は」

「ほえ? なんか、言った?」

「別に。ただ、仕事頑張ってる菫ちゃんは偉いなって思っただけ」

「むぅ~っ、またお子ちゃま扱いしてるっ!」

「はははっ、御免御免」

 ぽんぽんと頭を撫でてやる。
 家に帰ったら、葵さんに詳しく訊いてみるか。
 葵さんもよく菫が務めるスーパーに買い物に行くって言ってたからな。
 今度行く機会があったら、働く菫の姿を是非この目で見てみたい。

「でもな……か弱いレディに荷物持たせたくねぇから」

 菫の荷物を奪い取ろうと右手を伸ばしたが、
 俺様の行動を先読みした菫にいとも簡単に躱されてしまう。

「だーかーらーっ! 私はキバナ君が思ってるような
 か弱い女じゃありませんよーだっ!」

 べぇーっ! と小さい舌を出して、強く否定してきた。
 前々から思ってたけどさ、
 頑固って言うより、変な意地を張ってるよな? 菫って。
 ま、そこが可愛いけどさ。

「分かった分かった……。
 じゃあさ、キツくなったら、ちゃんと言って?
 俺様が代わりに持つよ」

「はーい」

 その後も菫と沢山色んな話をした俺様は
 これを期に、お互いの距離が縮まったような気がして、
 穏やかな気持ちで家路に就くのであった。