✡デートのつもりではありません④ | pkmn夢小説

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剣盾のキバナ様が推しで、
pkmn夢の小説を書き始めました。何卒宜しくお願いします

✡9✡デートのつもりではありません④



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 目的地である公園に着いた俺様達は
 早速昼食を取ろうとベンチに腰を落とすと、
 さっき、菫がコンビニで買ってきた丸いものや
 三角みたいなものを見て、何だ? これ、と呟いてしまった。

「いつも食べてるでしょ? 白いご飯」

 あぁ、あれか、と頷く。

「それを手で握って、丸めたり三角にしたものを
 “おにぎり”や“おむすび”って言うの。
 もしかして、ガラル地方にはなかった?」

「うん、初めて見た」

 一応、向こうにもカレー以外の料理もありはするけど……、
 これは初めて見る。
 へぇー、色んな味があるんだ、と興味津々とおむすびを見てたら、
 くすくすと面白そうに笑みを零す菫の表情が視界に入った。

「……何笑ってんのかな? 菫ちゃんは」

「御免なさい。キバナ君の反応が可愛くて、つい……」

「おいこら、可愛いって言うな」

「だって、ほんとのことだもん」

 つまり、ガキっぽいって言いたいのかよ?
 それよりも、年上の女に。
 特に好きな女に言われたことが気に食わない俺様は
 むすっとした表情を顔に浮かべると、
 不貞腐れたようにぷいっとそっぽを向いた。

(そういう菫だって……人のこと言えねぇじゃん)

 同じ屋根の下で暮らすようになって、
 菫の好物がプリンにもみじ饅頭、苺大福。
 カスタードクリーム入りのたい焼きであることを知ったんだけど……
 大好きなものが食べられて、
 幸せ一杯というオーラをめっちゃ出すもんな。
 ま、あんまりにも可愛かったから、
 藤哉に買って貰ったスマホで写真撮って、
 こっそり待受画面とロック画面にしてるなんて、俺様だけの秘密。
 因みに、スマホロトムが入ってねぇ
 スマホの待受画面はというと、俺様と菫とフライゴンだ。
 今でも、電波が届かない状態だけど、
 他の機能は普通に使えるみたいだったから、
 俺様が現実世界に来た記念に、と藤哉にお願いして撮って貰ったんだ。

「いいな〜ぁ、俺もキバナと撮りたい〜」

「菫の後でいいなら、一緒に撮ってもいいぜ」

「よっしゃラッキーっ!」

「お兄ちゃんっ! 早く撮ってよっ!」

 後ろから抱き締められるように
 俺様とくっついて、めちゃ恥ずかしいのか、菫の奴、そわそわしてる。

(うーん……やっぱ、眼鏡無しの方が……)

 シャッターを切られる前に、と菫から眼鏡を奪い取る。

「ほえっ!?」

 どれぐらいの度数なんだ、と試しにかけてみたら、
 余りのキツさにぐらりと軽い目眩を起こした。

「うわぁ……っ、これキッツ…………
 つーか、お前の視力ヤバくねーか?」

「ち、ちょっとっ! 眼鏡返してよーっ!」

 取り返そうと小さな手が伸ばされてきたけど、
 俺様との距離がめちゃ近いことに気づいた菫の顔が真っ赤に染まる。
 ふーん、そんな表情するんだ、とちょっとだけ、興味を持った。

「むぅ~」

「御免御免……。お詫びに俺様のパーカー着てもいいから」

「ほえ?」

 眼鏡を返すと身に纏ってたパーカーを脱ぎ捨て、菫に着せてやる。

「わぁーっ、思ってた以上におっきいね!
 キバナ君のパーカー」

 袖口からお手々が見えないよ、と無邪気に喜ぶのはいいけど……、
 普通さ、照れる所じゃねぇの?
 でも、ま……。これで機嫌が直るから、ある意味お子様だよな?

「藤哉、このままでいいから撮って」

「これ撮ったら、次は俺の番だからな!」

 まるで、ホントの家族みたいな感じで、
 和気藹々と写真を撮って貰った時のことを回想してた俺様は
 菫にオススメされた焼飯風のおむすびを食べてみようと、
 恐る恐る口の中に入れてみることに。

「ん……めちゃ美味いな、これ」

「ほんと?」

「うん。初めて食べたけど、俺様の好きな味だ」

「良かったね。あ……キバナ君、お弁当付いてる」

 弁当? 何だそれ、と初めて聞く言葉に、思わず、聞き返すと、

「口元にご飯粒が付いてるって言う意味だよ」

「……うわぁ、マジかよ」

 ガキみてぇでカッコ悪いじゃん、俺様。

「じゃあ、私が取ってあげるから、じっとしてて」

「は……? いや、ちょっと待てこら!」

 余りの近さで吃驚して、咄嗟に距離を置こうとしたら、

「逃げたらダメだって。ほら、大人しく……」

 菫の奴、俺様を手のかかる弟みたいな感じで接してるのか、
 お構いなしに距離を縮めてくる。
 傍から見れば、菫の方からキスを迫られてるような──。
 そんなことを想像したせいか、
 やけに心臓の音が煩く、バクバクと聴こえる。
 それに同じボディソープを使ってるとは言え、
 めちゃいい匂いがするし、それから、女特有の甘い香りもして……、

(ヤバ……っ! これ以上近づいて来られたら……っ!)

 このままだと、菫に手を出すかもしれねぇ!
 理性を保つのも、一苦労するって言うのに。
 ある意味、これは拷問だ。

「〜~っ、じ、自分で取るからっ!」

 ついに我慢出来ず、菫の行動を妨げるように、
 急いで口元に付いてる米粒を取った。

「あ、お顔真っ赤!」

「…………煩せぇ」

「やだ照れてる! 可愛い〜っ!」

 ホント、心臓に悪いよな。こういう無自覚なのも。

「……頼むから…………勘弁してくれ……」

「えへへ、さっきの仕返しですよーだっ!」

 相変わらず、菫の天真爛漫に振り回される度にドキドキする俺様だけど、
 ──そう言えば、向こうにいた頃は
 こんな風にのんびりとした時間を誰かと過ごしたことなんて、
 一度もなかったなぁ、と思い返した。
 殆ど、ジムチャレ、雑誌モデルの仕事など。
 ワイルドエリアで暴れ回る
 ダイマックスしたポケモンの暴走を止める為に鎮圧しに行ったりして。
 それで時間に追われて、溜まりに溜まった仕事の山を片付ける為に
 まともに休憩取らず、執務室に引き籠もっていたからな。
 だから、俺様にとって、久し振りに感じる、ゆったりとした時間だ。

「一応、フライゴンのお昼ご飯買ってきたんだけど……
 サンドイッチ、食べてくれるかな?」

「アレルギーとか持ってねぇから、大丈夫だぜ」

 念の為、周囲に人がいないかどうか充分に確認してから、
 パーカーのポケットに入れてたハイパーボールを取り出し、
 宙に向けて投げると、中からフライゴンが出てきた。

『フリャ?』

 此処何処? と不審そうにきょろきょろと周りを見回す。
 初めて見る景色。遠くから聞こえる車の音に戸惑って、
 怖がってるフライゴンを安心させねぇと、と思い、
 その場から立ち上がろうとしたら、
 先に菫が側に寄って、よしよしと頭を優しく撫でていた。

「御免ね、フライゴン。お家じゃなかったから、吃驚しちゃったね?」

『フリャ……』

「うん、大丈夫だよ。
 フライゴンのことは、私とキバナ君が護るから、安心して?」

『フリャっ!』

「うふふ、いい子だね。あ、そうだ。フライゴン、
 お腹空いたでしょ? サンドイッチ食べる?」

『フリャリャ〜!』

 あんなに不安がってたフライゴンを
 あっという間に安心させる菫を見た俺様は
 絶対にポケモントレーナーの素質あるよな? と心の中でそう思った。


 ✡✡✡


 初めて食べるおむすびを完食した俺様は
 菫に構って貰い、更にサンドイッチを食べさせて貰って、
 大変満足したフライゴンをボールの中に戻し、
 パーカーのポケットに入れると、

「あ……いっけねぇ。忘れる所だった!」

 左隣に置いてた紙袋に手を伸ばし、ガサゴソと中を探すと、
 ピカチュウやプリンなどと言った可愛いポケモンのイラストが描かれた
 包み紙に包まれてるプレゼントを発見した。

(良かった。ちゃんとある…………)

 そのプレゼントを見て、
 生まれて初めて、女にプレゼントすることに気がついた。
 向こうでは、そういうこと全然なかった、と言うより、
 付き合った相手のことをよく知ろうとしなかったもんな。
 第一、俺様の中ではポケモンが最優先だったし。
 こんな俺様だから、別に愛想尽かされても、おかしくねぇ。

(問題は菫が気に入ってくれるかどうか……だよな?)

 手に取って見てたから、これで間違いねぇと思う。……多分。
 此処でうじうじしても意味がねぇんだ。
 意を決した俺様はあのさ、と声をかけて、
 手に持ってたプレゼントを菫に差し出した。

「どうしたの? これ?」

「お前にやるよ」

「ほえっ!? ちょっと待って! 私、受け取れないよ!」

「あ、そんな高価なものじゃねぇから」

 仕事が休みの日は、大抵ゲームで遊んでるとか本人の口から聞いてたし。
 その貴重な時間を俺様が貰ってしまったからな。

「でも…………」

「えっと、だから…………」

 珍しくも、言葉を濁す。
 ──いつもなら、余裕な態度で紳士的に女と接するのに。
 どうやら、好きな女を前にすると緊張して、
 俺様でもこんな感じになるんだ。
 今になって、アルの気持ちが初めて分かった気がした。

「……俺様の買い物に付き合ってくれた訳だし、
 菫にお礼がしたくて、買ったんだ」

 と言っても、藤哉が出してくれた金だけどな。
 何でも、いつ出るか分からない“キバナ”のグッズを買う為に
 秘かに貯めていたものらしい。
 それを全額下ろしてきて、是非使って下さい、と言われた時は
 流石に使えません、と俺様は断った。 
 ──だけど、こっちにいる以上、
 身元不明な俺様はちゃんとした仕事が出来る訳じゃねぇし……、
 葵さんや菫に説得された結果、今度藤哉自身がYouTubeしてると言う
 剣盾ポケモンの実況を手伝うと言う条件でその話は纏まった。

「お礼なんて良かったのに……」

「俺様の気持ちでもあるから……、その、受け取って下さい」

 菫の言葉を遮るように強く言い放つ。
 そして、菫の顔を見るのが怖くて、俯かせて目を瞑った。
 これでも、受け取ってくれなかったら、マジでどうすっかな、と
 嫌な思考が頭の中に過ぎったその時、
 手に持ってた重みが消えたことに気づいた。
 恐る恐る顔を上げると、

「そ、そんなにしょんぼりヌメラされたら……、
 私がお兄ちゃんに怒られちゃうよっ!」

 どうやら、俺様のプレゼントを受け取ってくれたみたいで、
 思わず、ほっと胸を撫で下ろした。

「……開けてもいい?」

「うん」

 気に入ってくれるといいんだけど……。
 緊張というより、そわそわしながら、菫の行動を見守る。

「ほえ? これって……」

 包み紙から出てきたのは、
 青と緑色が混じった、小さなとんぼ玉がついた簪だ。

「……100円ショップで見てたよな? それ」

「うん、見てたけど……」

 こっちの世界の100円ショップに
 こういうのとか置いてあることに驚いたけど……、
 ま、菫にプレゼントするのに非常に助かった。

「こっちに来てから、お前に助けて貰ってばっかだからさ、
 出来れば、形に残るものにしたくて……」

 途中で抜け出したことを思い出したのか、
 あ、と声を零した。

「だから、あの時買いに行ったの?」

「そういうこと」

 そのままで渡すのは、ガラル紳士としてダメだよな、と思い、
 プレゼント用にラッピングしてたんだけど、
 慣れねぇ作業にめちゃ手間取って。
 そんな俺様を見兼ねた従業員の人が綺麗にラッピングしてくれたんだ。
 大分時間がロスしたし、急いで待ち合わせ場所に戻ったら、
 菫がチャラそうな野郎にナンパされてたからな。
 あれはマジで焦ったぜ。

「…………」

 すると、菫は簪を強く握り締めたまま、
 顔を俯かせて何も言わなくなってしまった。
 ヤバっ、失敗したかっ!?

「わ、悪いっ! 俺様、今まで女にプレゼント渡したことなくてっ!
 いきなり、簪とか渡されて……、迷惑だったよな?」

 いらねぇなら、と言おうとしたら、
 菫の奴、千切れんばかりに首を何度も横に振ったとか思ったら、
 今度は俺様の方を見るなり、

「キバナ君、ほんとに有難うっ! 大切にするねっ!」

 ──俺様が知ってる限り、今の笑顔がめちゃ可愛かった。
 その笑みで、またもや、見惚れてた俺様だったけど、
 喜んでくれたのなら、それでいいか、と納得し、
 菫の頭をぽんぽんと撫でたのであった。