<プチネタバレあり><思い出補正あり>

 

 

 

 

「ポケットにライ麦を」は、英国アガサ・クリスティ著のミステリ小説で、マザーグースの歌詞になぞらえた連続殺人事件にミス・マープルが復讐の女神となり、事件を解決に導く。1953年の作品。

 

最近、大物の叙述トリックものばかり読み続け少しばかり疲れたので、数十年ぶりにアガサ・クリスティの小説を手に取った。
アガサ・クリスティは、中学時代にハマった。中学時代の読書といえば、私はほぼアガサ・クリスティだった。
当時は、「そして誰もいなくなった」「オリエント急行の殺人」などの有名どころを知らず、ただ、小学生時代に夢中だった「少年探偵団と怪人二十面相シリーズ」の次として読み始めたにすぎなかった。その過程で、上記2作品や「アクロイド殺し」などを素の状態で読めたことは、非常に幸運だったといえる。

私の中で印象に残るクリスティの小説の一つ、それがこの「ポケットにライ麦を」である。

本作品のミス・マープルは、田舎の小村で揺り椅子に揺られながら好きな編み物とくだらないおしゃべりに精を出しているマープルとは、少し違う。
事件に巻き込まれて、または、事件の解決を依頼されて、ではなく、自ら事件解決に乗り込んでいくミス・マープルの姿が、そこにある。
ミス・マープルは、児童養護施設の孤児を数か月預り、給仕などの作法を教える支援活動を行っているが、以前ミス・マープルが世話した子が事件に巻き込まれたのだ。
そして、くだらないおしゃべりから得た事実と研ぎ澄まされた鋭い想像力を以って、事件を解決に導く。

お決まりの事件を解説する場面が安定の面白さを出しているのだが、この話は、すべてが終わった後の最後が実に良い。
ここが好きで、思わず何度も読み返してしまう。
今回は、歳をとったせいか、少し震えてしまった。
打ち震えるようなスカッとした読後感が味わえる。

私は、アガサ・クリスティの最後の謎解き・解説のシーンを読むときは、中学生当時大好きだったとある洋楽をずっとリピートしながら読むのが好きだ。
その曲は、謎解きを最高に盛り上げてくれる。
今回も、当時のように鬼リピしながら、じっくりミス・マープルの事件の解説を読むという至福の時間を過ごすことができた。

やはり、クリスティのミステリ小説はいいな、と思った次第。

追記:
今回は、新訳版を読んでみたのだが、最初の数行が大きく違っていて驚いた。
クリスティの小説といえば、伝統的かつ厳格を重んじるヴィクトリア朝の時代をなつかしむ近代のイギリスが舞台となっており、以前の文体はその時代感と非常に合っていた。
ただし、少し表現が難しかった・・・が、逆にそこが良かった。
新訳版は、非常に読みやすい。まさに、最近の小説を読んでいるような感覚である。
どちらがよいか、というのは一概に言えないが、結果として新訳版は非常に読みやすかった。作品の雰囲気も、数か所気になったところがある以外は、特に気にならず一気に読めた。
表紙も変わったし(そういえば、昔ニュースになってたような)、今もクリスティの小説は進化を続けているんだと思った。