2012山陰45 花ノ井・夜の遊園地 | 楢丁(YOUTEI) 旅の話

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趣味で書きためた旅日記が、膨大な量になりました。2020秋に脳出血、2023には食道癌を発症と、様々なことが起こりますが、克服してまた旅に出たいという気持ちは変わりません。
お付き合い頂けたらありがたいです。どうぞよろしく。

 

8/20(火)
 浜名湖を北から回って、舘山寺温泉の道標を頼りに走る。舘山寺総合公園までいくと、ここに動物園があるのに初めて気づいた。ホテルはそこからいくらも離れていない。


 何年か前に「星野リゾート」が手を入れた、という「花ノ井」だが、随所にもてなしの工夫が看て取れる。チェックインのウェルカムドリンクは「薄茶糖」、これは静岡で知らぬものはいない飲み物のようだが、関東では、そう知られているというわけではない。大学の後輩で静岡の、あいつは、確か榛原あたりの出身者がいた。癖のある男で、もう一つ性が合わなかったが、俺が、薄茶糖なんて知らない、といった時の、仰天した顔を思い出した。もう30年も昔の話だが。

 

 

こっちはかなり詳しい

 

 それはともかく、実際に口にしてみると、甘さが過剰なのに閉口した。しかし中高生世代の若い子供らには受けがいいのかも知れない。いずれにせよ、茶の消費を伸ばす工夫を、我が狭山茶の産地でも何とかしないと、需要は落ち込むばかりだろう。


 ロビーでは部屋で淹れるお茶を選べるようになっていて、まず、容器を白い陶器製のものにした。これに入れる茶葉も、天竜、川根、本山などと静岡の名産地の中から数種類そろえてある。


 はっきり意識してはいなかったが、ロビーから外の景色は見えず、部屋に入って初めて浜名湖が目の前に広がる、という演出だった。接客係がそれを説明してくれたが、それがどうした、という気持ちになるか、わぁー、凄いと思うかは、こちらのそのときの気分によるところが大きい。実はロビーのカウンターで延々と文句を並べている客がいて、あたりの雰囲気は決していいとはいえない状況、出だしで躓いた感じだったのだ。そんなことまでひっくるめて、客の満足度を上げなければならないホテル経営というものは、だから難しい事業だということは想像できる。

 

部屋の窓からは浜名湖が一望の下


 ともかく宿でゆっくりする、というのが今日の目的、何を置いてもまずは温泉。前回、この宿に泊まったとき、唯一気になったのは、露天風呂に生える雑草だった。背の高いのが2筋ほど、これは鮮明に脳裏にある。今回、そこはきちんと処理されていたが、循環殺菌の温泉が塩素くさく、体についてなかなか取れなかった。


 もう一つ、最近は、大人でも公衆浴場のマナーを知らない奴らが増えて、苦々しい思いをすることが多い。脱衣場へ、全く体を拭かずに上がる輩が多いのだ。自分のうちの風呂ならいざ知らず、大勢が利用する施設だという想像力がどうして湧かないのだろう。銭湯の文化が絶えて久しいのが決定的な要因と思うが、何とかならないだろうか。昔は、大抵、銭湯に怖いおやじがいて怒られたものだが、今はよその大人に叱られた経験を持つ子供なんて、どれだけいることだろう。

 

夕暮れの浜名湖。パルパルの観覧車が見える


 食事が8時からなので、宿にあったトワイライトの無料招待券で、遊園地「パルパル」に出かけることにした。宿から歩いてせいぜい3分というこの遊園地、さして規模が大きいわけではないが、観覧車やジェットコースターをはじめ、ひととおりの装置は整い、夜というのに、家族連れやカップルで賑わっている。正直を言えば、行ってみたはいいが、ガラ空きだった、なんてことになってやしないかという、一抹の不安はあった。


 夜の遊園地、悪くない。イルミネーション、というほどではないにせよ、あちこちで光の演出があって、気分が上がる。

 

デジカメの夜景モードで上手く写ったためしがない


 せっかくだから、ジェットコースターに乗ろうよ、とはどっちが言い出したのだろう。行ってみると、やっぱり凄い人気を集めていて、コースターは満席で出発、後ろから2番目の席だった。章子は、どうせこんなところのジェットコースターなんて、と半分馬鹿にしていたようだが、いざ出発すると叫びっぱなし、十分堪能したようだった。「中途半端な高さはかえって怖いのかも」と、半分言い訳のような本人のメモが残っている。


 季節ものの無料施設に入ったりしたあと、最後に乗った「ワイルドストーム」とかいうアトラクションで、ぐるぐる回され、俺はちょっと気分が悪くなった。昔から車酔いするたちで、どうもこういうのに弱い。 


 8時から上がった花火を部屋から見て、夕食会場に赴いた。チェックインの時もそうだったが、子連れの家族が多い。しつけのいい子供なら何の問題もないが、超音波のような叫び声を頻繁に上げる子がいたのには、正直、辟易した。隣には、たまらずそこから逃げてきた老夫婦もいて、章子がメモに「犬よりやっかい」と残しているほど。子供を排除せよ、といったら問題になりそうだが、せっかくの高級ホテルなのだから、客層によって時間帯をずらすなどの工夫を、是非お願いしたいものだ。


 前回、この宿が素晴らしくよかったと感じたのは、食事の内容はもちろんだが、係についた女性との会話が、大変に楽しかったのが一番の要因だった。こちらからの問いかけに答える知識の豊富さに加え、我々の会話を引き出すすべを、この人はしっかり持っていて、大変に楽しい時間を過ごせたような記憶が残る。


 今回、そこが期待したほどではなかったようだ。しかし、これは個人の力量によるのだから、仕方がないことではある。ただ、それを含めて宿の実力、ということになるのだろう。有用な人材の確保がいかに大事か、ということだ。


 この宿については、ずいぶんとアラ探しのようなことを書いた。しかし、水準からしてサービスの質は十分に高く、子供の叫び声はともかくとして、食事の内容も、凄いご馳走、と表現するのに何の躊躇もいらない。刺身の伊勢エビは甘みがあり、塩と醤油で試したら、やっぱり醤油が味を引き立てた。焼き物はウナギと牛肉、揚げ物もちょうどいい量で、十分満足した。

 

花の井の食事はよかった


 しかし、夕食時に頼む酒が高いのは何とかならないだろうか。市価が大体割れているだけにすぐ分かるが、、倍どころではない額がつけられているのが普通、つまりはこの常識そのものが壁なのだろう。サービスにかかる費用があるにせよ、ここの場合、定価の3倍以上の値がつけられていたはずだ。それが分かっていても注文してしまうのは、悲しい性、とでもいうべきか。


 夕食後にもうひとっ風呂、風呂上がりにかき氷のサービスは、気がきいている。黒糖ときなこのトッピングは「葛」をイメージさせ、なかなかに乙なもの。


 エアコンの効いた広い部屋で、手足を伸ばして寝られるとは、何と幸せなことだろう。章子は「今日はテン場を探すことも、風呂を見つけるのも、夕食を考えることもなく楽ちん、これに感激するために10日間耐えてきたようなものだ」、とメモを残していた。

 

 

※「花ノ井」は現在、「星野リゾート  界 遠州」と名を変えている。ちょっと調べてみたら、すでに我々が泊まれるような宿ではなくなっているようだ。

 

 

2012夏 山陰の旅第2弾 46につづく