2019夏の会津2 大黒屋~会津田島 | 楢丁(YOUTEI) 旅の話

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趣味で書きためた旅日記が、膨大な量になりました。2020秋に脳出血、2023には食道癌を発症と、様々なことが起こりますが、克服してまた旅に出たいという気持ちは変わりません。
お付き合い頂けたらありがたいです。どうぞよろしく。

8/13つづき

 

 さて、足湯から上がり、車でさらに奥へと向かう。トンネルをいくつか越えると、「甲子温泉大黒屋」の看板が、阿武隈渓谷に架かる大きな橋の手前にあった。これに従い左手の急坂を下りていく。この道、今だから難なく通ることが出来るが、冬の積雪の時期だと、四駆にスタッドレスか、チェーンでも着けなければ上り下りは不可能と思う。目的は、当時白河藩主だった松平定信の別邸を見に行く、というものだったが、大黒屋の奥にあるこの建物は、宿の延長という趣で、どうも新しいもののような感じを受ける。木造の黒を基調とした温泉宿自体はシックでいい感じだ。

 

                          松平定信の別邸という


 ここから急坂の歩道を下りると阿武隈川源流、坂を上がってくる人たちに出会ったが、この先の山に登ってきた帰りという。かなり疲れている印象だったが、これを聞いて納得した。なるほど、橋を渡った先に登山道入り口の看板が立っていた。橋まで行ってみるが上流には大きな堰堤が立ちはだかり、はなはだ面白くない景観。下流対岸には小屋が見えるが、あれが温泉か。

 

                     これは味気ない堰堤。ちょっとがっかり


 大黒屋は日帰り入浴を3時までなら受け付けてくれ、4時まで入れるということなので、浸かっていくことにした。時刻は既にリミットの3時に近い。今は内風呂には入れず、別棟にある洗い場のない温泉のみの利用、混浴と女性専用があります、という説明だが、まあそれは仕方がない。¥700払って、さっき橋から下手に見えた小屋まで長い通路を下がっていく。階段をずいぶん下りるから、足が弱い人にはつらいはずだ。建物から出ると橋が架かり、下の流れには放した魚だろう、大ぶりの魚影が7つ8つ見える。多分ニジマスだ。


 小屋がけの温泉は、なかなかの風情、古くからの湯治場といった雰囲気を残している。「排水はそのまま川に流すため、石けんやシャンプーの使用はご遠慮ください」という注意書きはもっともなものと言える。5~60人は十分入れそうな広い浴槽は石造り、ただこんこんと湯が湧いているだけの源泉掛け流しで、深さは胸くらいまである。薄暗い明かりが好ましく、それこそ「秘湯」というにふさわしい。湯は無色透明で泉温はちょっと熱め、アルカリ泉なのか、肌が幾分つるつるする感触がある。「子宝の石」が湯の中にあるといい、これに触れると子宝に恵まれると書かれてあったが、どれがそうなのか分からずじまい。自分には関係ないという気持ちも働いて、あまり真剣に探そうという気も起きなかった。客は5~6人、混浴といっても脱衣場からして身を隠すような工夫はなく、これで入ってくる女性はいなかろう。

 

                    大黒屋の大岩風呂(大黒屋HPより転載)


 女性専用の方は檜風呂、中にはやはり子宝の石という、手のひらくらいの黒く丸い石が敷き詰められていて、水深は浅く50センチ程度、8人入れば一杯というほどの広さ、と章湖がメモしていた。

 

                    女性専用の櫻の湯(大黒屋HPより転載)


 ロビーにソファのある一画があり、入浴客向けに水と麦茶が用意してあるあたり、なかなかによい宿、という感じを受ける。結局、ここで4時になる寸前までゆっくり過ごした。


 本線に戻ってさらにトンネルを越える。抜けた先は下郷町だ。「道の駅下郷」は集落まで下りる坂道の途中にあった。こんなところにあることを考え合わせると、冬季閉鎖は既になくなったのかも知れない。ここは結構賑わってもいたし、並べられた品物も食べ物や土産物などたくさんある。特に何も買わなかったが、外に水道があるのを幸い、ネクタリンを洗って食べ、ポリタンクを満タンにしておいた。

 


 ここから阿賀川づたいに南下するが、このあたりの川沿いにはテン場になりそうなところがない。昔、会津田島でテントを張ったのはこの川の上流のほとり、公園の端の開けたところ、という記憶がある。暗くなってから川で行水もした憶えがあるが、今回、出来ればあそこは避けたい。


 街の中心部に入る手前で橋を越すが、右手に阿賀川の河川敷にあると思われる公園の遊具が見える。しかしそこへ至る道はナビには示されず、用水路沿いの心許ない道を行くと、公園の駐車場に出た。公園はあまり人が来ない様子で、すでに芝生というより草むらに近い状態だが、テン場としてはむしろ好適。遊具は設置されているがほとんど使われている形跡は見られず、朝の散歩に来る人はいるだろうが、人家も遠い。心配だったのが、川に近いと、この時期に発生するアブだが、幸いそれほどのこともない。これでテン場が確保出来、一安心。


 河原へ出る小道が、斜面に生える背の高い草むらを分けて付けられ、小石の河原を歩いて川縁に出た。川を眺めていると、流れの中にきらっと光る魚が見える。アユだろう。あちこちでその光る姿が確認できるから、魚影はかなりのものだ。

 

                      テン場候補地から河原へ降りてみた


 さて、既に夕食の買い出しは済ませてあるが、採ったキノコを干すために網が欲しい。百円ショップを探しに街へ入っていくと、スーパー「リオン・ドール」が近くに2店舗もあるではないか。この規模の街だろう、こんな近くに2店舗も展開して果たして大丈夫なのかと訝るが、線路を越してすぐに現れた店には客がたくさんいた。おあつらえ向きに、隣には百円ショップのセリアがある。ここで洗濯用の網を物色、なるべく目の粗いものを選んだ。


 念のため、スーパーの品揃えを覗きに行くと、総菜や肉などの生鮮品に割引のシールを貼り始めたタイミングだ。章湖は「ニシンの山椒漬」に注目、試してみたいという。内陸の地方には海産物を保存して食べる伝統があるから、これもその一つと思う。


 面白いのが、「食品ではない」と、但し書きのある「かけそうめん」なるものがどこのスーパーにも置いてあったことだ。お盆の風習として、この地方では供え物に使うものと思われた。

 

かけそうめんの解説

http://machieki-minamiaidu.seesaa.net/article/371480728.html

 

 馬刺しを食べる文化のあるところだけにこっちも充実、これに軒並み割引にシールを貼り付けている最中で、これだけ数があれば簡単には売り切れやしないだろう、後でまた来てもいい、と思ったのが間違いだった。


 まだ陽は高い。どこか神社仏閣でも訪ねてみようと車で街中を南下、かつて行ったことのある城址公園を左手にみて、少し行くともう街外れになってしまう。


 章湖が気になるカフェがあったというので戻ってみる。店の隣にある駐車スペースに車を入れ、降りてみると向かいが「國権」の蔵元だ。かつて試飲して酒を一本買ったことのある店で、なるほどここか、と思ったが、くだんのカフェ「ジーママ」はもう“CLOSE”の看板が出ている。中にはまだ客がいるようだが、5:30をわずかに過ぎているから、ギリギリアウト、というタイミングだったのかもしれない。すると、店先にたたずむ我々をよそに、かまわずドアを押して入っていく中高年の男女4人組が。あのくらいの歳になると図々しくなるんだな、などと思いつつ我々も店を覗いてみると、6時まででよければどうぞ、と入れてもらうことが出来た。店は満席に近く、手作りの雑貨も置いてある、落ち着いた雰囲気の素敵なカフェ、人気のほどがうかがえる。事実居心地はよく、コーヒーと冷たいチャイを注文、一番奥の席に陣取って日記を書く。約束どおり6時までということで我々は席を立ったが、他の客に動く気配は一切見られなかった。

 

 


 「馬刺し」の幟を掲げる、中心部の小さなスーパーは、街中を紹介するパンフに載る「スーパーまるゆ」。大手スーパーの陰で大丈夫なのかと思うが、その馬刺し目当てで入ってみた。この店には常連さんがいるようだったが、やはり客は少なく、惣菜類もない。馬刺しはブロックで売っているから我々の用途には合わず、結局、何も買わずに出る羽目になった。


 せっかくだからと、さっきのとは別のリオン・ドールに行ってみる。直線距離でなら300メートルと離れていない所にもう1店舗、これは常識では考えられない出店形態だ。こちらはホームセンター「ダイユー8」とタイアップしたモール展開、店に入ってみると、特にワインやウイスキーの品揃えなどがさっきの店とまるで違い、同じチェーンの店とは思えないが、そうでなければ、2店舗併存させる意味もないだろう。こちらはこの時刻になっても馬刺しの割引もなく、ニシンの山椒漬けも置いていない。やっぱりさっきの店に戻ることにした。


 するとどうだ、あれほどあった馬刺しの大きなパックがすっかり売り切れ。小さいのが残っていたのでそれをかごに入れたが、これには少々驚いた。


 陽が落ちてしばらくして、ようやく気温が下がってきた。テン場は快適、ふかふかの草むらにテントを張り、宴会はアスファルトの駐車場で。白河のイオンで買ってきた冷凍の味付け焼き肉は、肉が固く、これは失敗。赤白のワインにしたが、これにニシンの山椒漬けとはまたミスマッチング。しかし、これ自体は大変おいしく頂いた。馬刺しはまあ、それなり。記憶を辿ると、5年前の夏、下関のスーパーでブロック売りのをスライスしてもらった馬刺しが絶品、あんまり旨かったので二晩続けて150グラムほど買ったが、ああいうのと比べてしまうと、一格落ちるのは致し方ない。しかし、あれも確か、同じカナダ産だったはず。

 

            このあたりでは馬刺しに辛味噌をつける。右上がニシンの山椒漬け


 月はもう少しで満月、十三夜、あるいは十四夜かも知れないが、皓々とあたりを照らしていた。


 

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