六大将軍伝説

 

 

【231 第一次西部攻略戦(二十七) ~将軍の所在~】

 

 

〔本編〕

 アラウダ城、ヘリドニ城二城の城外に二千五百ずつの地方軍が陣を敷いているが、これらの軍は、アラウダ城、ヘリドニ城二城に攻めかかるモスタクバル軍の後背や側面に攻撃を仕掛けることになる。

 しかし、モスタクバル軍が両城への攻撃を止めれば、その地方軍も即座に攻撃を止めていた。

 このような動きが、むしろモスタクバルの兵からすれば、各地方軍はクーロの指示に従い、敵であるモスタクバル軍に攻めかかってはきているが、本当はそれを強制させられているだけであり、実際のところはモスタクバル軍に攻撃を仕掛けたくないというのが本音と受け取れた。

 そのような誤解から、モスタクバル軍もあまり両城を攻めるのに、普段の苛烈さが見られなかった。

 結局、アラウダ城、ヘリドニ城二城が行政府に毛が生えた程度の攻めやすい拠点であったにもかかわらず、攻略までに半日以上の時を要してしまったのであった。

 さらに両城が陥落した直後、二千五百いた地方軍はその場から即座に撤退していった。第二軍並びに第三軍の指揮官は、アラウダ地方の地方領主クラウ、そしてヘリドニ地方の地方領主アカリナの降伏を受け入れ、彼ら並びに城に籠っていた行政官など全てを赦し、そのまま引き続き城の管理を任せたのであった。

 両城が徹底抗戦していたのであれば事情は違ったが、彼らは文官の行政官であると同時に、城が攻められる以前からモスタクバル軍に降伏する意思を、書簡を通じて伝えてあったのである。

 しかしすぐに両城が降伏出来なかったのは、城外に二千五百の軍隊が陣を敷いていたからであった。この辺りもクーロからの真の指示に忠実に従い、城内の地方領主を始め行政官たちと、城外に駐屯している地方軍との意思疎通がなかなかうまくいかないという状態をあえて演じながら、モスタクバル軍の両城攻略に半日という時間を費やさせたのであった。

 もし仮にアラウダ城、ヘリドニ城二城が徹底抗戦の姿勢を示していたとすれば、二千五百の地方軍が城外に駐屯していたとはいえ、二千のモスタクバル第二軍並びに第三軍は一時間とかからずに二城を完全に落としていたであろう。

 そのぐらいモスタクバル軍とアラウダ、ヘリドニ二地方の地方軍の力には開きがあったといえる。おそらくは十倍の兵数の差であっても、モスタクバル軍が二城を落とすのではないかというぐらいの圧倒的な開きがあった。

 同様の意味合いから、モスタクバル軍第五軍二千も謀略によって広大な森の中にまんまと誘い込ませたのに、その軍に一切の攻撃を仕掛けなかったのも、そういった理由からであった。

 確かに一万のモスタクバル軍を、アラウダ、ヘリドニ二地方という広大な地に策を弄して分散させたのは、クーロの功績ではあるが、それでもアラウダ、ヘリドニ二地方の地方軍とクーロ軍五千だけでは、これらの兵を全て倒すのは不可能であった。

 各個撃破とはいえ、下手に攻め立て逆にモスタクバル軍に本来の攻撃力を出させてしまえば、全てを無に帰することにもなりかねない。

 それに今回はモスタクバル軍の兵全てを倒すのが目的ではない。一万のモスタクバル兵を相手する必要はなく、ただ一人モスタクバル将軍のみを倒せば事足りるのであったから……。

 

 さて、今回クーロが策を用いるに当たり、絶対に知らなければいけない情報が一つあった。

 モスタクバル将軍が、五つに分かれた軍のうちどこにいるかということだが、これについてはフォルを通じて諜報組織の長ジャオチュウに依頼した。

 普通に考えれば第一軍ということになるが、そもそも五軍のうち、どれが第一軍かは不明である。しかし、それはジャオチュウからの情報をまとめていく中で徐々に明らかになっていった。

 そもそもアラウダ城、ヘリドニ城二城を攻める以前の五つのモスタクバル軍は、それぞれの砦などの拠点を攻略している経緯から、どれが第一軍――いわゆる主力の軍であるかは分からなかった。

 しかしアラウダ城、ヘリドニ城二城に半日程度で達するかという時点で、五つのモスタクバル軍の動きが各拠点を攻略している時と明らかに違う動きに変化した。

 進軍方向からアラウダ城、ヘリドニ城二城に直接向かう軍が二軍存在し、それより少し先行する形で敵領内深部を進む一つの軍があった。

 その先行している軍は、アラウダ城、ヘリドニ城二城のどちらにも向かわず、その中間地点を目指して進んでいる。その軍がそのまま進めば、アラウダ城、ヘリドニ城二城の中間地点に位置する砦に到達する動きである。

 そしてその一軍から一時間程度の遅れて続く一軍があり、さらにそれより後方にもう一軍があった。

 一時間程度の遅れて続く一軍は、先行する一軍と同様のルートを通って進軍している。それに対し、さらに後ろの一軍は少し方向を変化させながら進んでいるため、動きだけではまだどの方向に向かっているのが判明しきれない。

 このような五つのモスタクバル軍の近況の動きが、ジャオチュウ経由でクーロの元に知らされた。

 クーロはここで熟考する。

“一番後方の一軍は、進軍ルートもまだ確定していないような動きから、遊撃部隊のような役割を与えられた軍なのであろう。ここにモスタクバル将軍がいる可能性はほぼ考えられないので、除外する。またアラウダ城、ヘリドニ城二城に向かっている二つの軍は、おそらく両城攻略の主力軍であろう。どちらかにモスタクバル将軍がいるとも考えられるが、こちらが二地方の民を通じて、指揮官の僕はどちらの城にも入らず、その中間地点の砦を本陣にしていると、情報を流しているので敵は当然それを知っている。そこから考えられるのは、両城の中間地点であるこの砦を目指す軍にモスタクバル将軍がいる可能性が一番高い。従って、アラウダ城、ヘリドニ城二城を攻める二つの軍にもいないと思われる”

 むろんこれらは全てクーロの推測であるので、フォルを通じてジャオチュウからの正確な追加情報を当然要請していた。

 クーロはさらに考えを進める。

“これも推測の域は出ないが、ここに先行する一軍か、それから一時間遅れて続く一軍か、どちらかにモスタクバル将軍がいる可能性が高い! しかし同じ三将軍でも知略のバッサート将軍であれば、後続の軍の方に所属している可能性も考慮する必要があるが、モスタクバル将軍は勇猛で名をはせている将軍! 九割方先行している軍の方にいるはずである。そしてそれこそが第一軍といわれている主力軍であろう”

 

 

 

〔参考 用語集〕

(人名)

 アカリナ(聖王国領ヘリドニ地方領主)

 クーロ(マデギリークの養子。大官)

 クラウ(聖王国領アラウダ地方領主)

 ジャオチュウ(パインロの友人。クーロ隊の諜報部門を担う。フォルと天耳・天声スキルが出来る間柄)

 バッサート(ミケルクスド國三将軍の一人)

 フォル(クーロ隊の一員。ジャオチュウと天耳・天声スキルが出来る間柄)

 モスタクバル(ミケルクスド國三将軍の一人)

 

(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 

(地名)

 アラウダ城(アラウダ地方の主城)

 アラウダ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 ヘリドニ城(ヘリドニ地方の主城)

 ヘリドニ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 

(その他)

 三将軍(ミケルクスド國で最も優れた三人の大将軍のこと)