六大将軍伝説
【288 第二次西部攻略戦(二十二) ~甘い認識~】
〔本編〕
ロボからすれば、どのような形であれ、ここで味方の歩兵大部隊と合流する心づもりでいたため、その部隊が全くいない今、彼の思案は混乱をきたし、それでもとりあえず撤退し続けている騎兵部隊に馬脚を止めるよう命を下した。
兎にも角にも、撤退するにしても進軍するにしても、追撃する十五騎の敵ホースハンターの遠隔攻撃を受け続けることとなり、どちらにしても全滅は免れ得ない。
しかしここにとどまっていても打開策は全く浮かんではこない。それでもここは広い平原であるため、ロボ軍の騎兵の動きも隘路の時のように制限されないので、クーロ軍のホースハンターたちも今は迂闊に近づくことが出来ず、指揮官リアンファはロボ軍から一定以上の距離をとって止まるよう命を下した。
広い平原で対峙すれば、ロボ軍は二百弱ではあるが、ホースハンターたちはわずかに十五騎なので、その数字の差がそのまま戦力の差となる。そのためホースハンターたちは、敵から包囲されない距離を保って待機した。
さて、ロボの思案はいつまでもまとまらず、とりあえず二百弱の騎兵をこの平原の真ん中付近で足を止めさせたわけであるが、少なくともそれで撤退中続いていたホースハンターの執拗な追撃からは一旦免れた形となった。
しかし当然のことながら、いつまでもこの平原の真ん中で足を止めているわけにはいかない。
味方の歩兵部隊が敵クーロ軍の襲撃により、この場から散り散りになって撤退したであろうと、さすがのロボも考え至っているわけであり、ここでいつまで待っても味方の歩兵部隊が戻ってくることはない。
それどころか、いつまでもここにとどまれば、そのうちロボ軍歩兵部隊を破ったクーロ軍の別動隊がここに舞い戻り、ロボ率いる騎兵部隊は圧倒的な兵力差によって全滅させられてしまう。
“ここは二百に満たない兵力ではあるが二手に分け、一手をホースハンターへの牽制としてここに残し、俺は残りの兵を率いてこの平原から脱し、シュメッター城まで戻るべきではないか”ロボはそう思案する。
“考えてみれば、狭路から撤退する際にも、五十程度の殿(しんがり)部隊を作り、その殿部隊にホースハンターの牽制をさせるべきではなかったのかと……”
しかしあの時は、少し撤退すればすぐにでも歩兵の大軍と合流できるつもりでいたので、そこは致し方のないことなのかもしれない。
ロボの立場に立てば、そういった発想に至らなかったということも少しは理解できるが、それでも全体的な現状分析の甘さと、それに伴う都度の判断の遅さが今の不利な状況に陥らせているのは間違いのないことではあった。
今も、一旦は足を止めた騎兵二百弱をすぐさま二手に分け、ロボ自身はすぐにでも撤退を始め、少なくともこの平原からどこかへ移動し、クーロ軍から大将軍である自分の位置を常に変え続けることが、ことここにおいての最善の手段であったにも関わらず、ロボはここで五分程度、二手にする際の人選や兵の配分など些末なことで悩み、貴重な時を無為に過ごしてしまったのであった。
ロボからすれば、自分の歩兵部隊を襲撃し、かつ追撃しているクーロ軍別働部隊は自分を倒すために、すぐに戻ってこないであろうという甘い認識からであったと思われる。
ロボ軍の歩兵部隊の数がシュメッター城の守城兵を含めた八千五百という大部隊であるということ。
それを追い散らし、まとまった数がここに戻るのを防ぐにはある程度、クーロ軍の別働部隊もその撤退する兵たちの追撃を続けなければいけないこと。
ロボがこの平原から狭路に進み、ここに撤退するまでの時間はそれほど長くないこと。
平原の戦場跡からロボ軍歩兵部隊が敗れてからそんなに時は経っていないこと。
これらの要素による見極めの正確さは、大将軍としては力不足のロボであっても、指揮官として何年も戦場で戦っている有能な兵士ではあるため、間違ってはいない。
つまりロボの甘い認識というのは、追撃していったクーロ軍別動部隊がここに戻るのに、まだしばらく時を要するであろうという認識が甘いということではない。むしろそれは的確な判断として正しかった。
クーロ軍のリアンファ率いる十五騎のホースハンターも、ここでロボの二百弱の騎兵を足止めさせるように距離を保って待機しているのは、味方の援軍がここに到着し、この二百弱のロボ騎兵部隊を全滅させ、ひいてはロボ大将軍の首をとる算段で待機しているのに間違いない。
しかしながら、ここに到着することを期待している援軍とは、先ほどまでここで敵と戦い、それを追撃していった味方の部隊、つまり平原の東方向から戻ってくるクーロ軍別働部隊のことではない。
ロボの甘い認識というのは、自分を最終的に狩るためにここに到着する敵がクーロ軍別動部隊と認識している点であった。
今、ロボの頭の中の敵は、目の前の十五騎のホースハンター、先ほど自分たちの進撃を阻んだ重装甲の槍兵や弓兵たち少数部隊、そして残りは自分の歩兵部隊を撤退に追い込んだクーロ軍別働部隊であった。
むろんロボが、目の前の十五騎のホースハンターを除き、自分の進軍を阻止した重装甲の槍兵と弓兵、そしてクーロ軍の別働部隊の兵数を正確に把握していたわけではないが、その総数がクーロ軍一万全軍であるとロボが認識したところが、彼の致命的に甘い認識と言わざるを得ない。
ロボが平原に留まって五分の後、ロボが認識出来ていなかった新たな敵部隊が、この平原に到着する。
その敵部隊はロボが想定していた東方向からではなく、ホースハンターの後を追うように西方向から、この平原に到着した。
クーロ将軍自らが率いる主力部隊五百であった。
〔参考 用語集〕
(人名)
クーロ(主人公。マデギリーク大将軍の養子。将軍)
リアンファ(弓兵。新生クーロ軍先制部隊の長)
ロボ(フルーメス王国五獣将の一人。狼将(ろうしょう)の別称をもつ)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)
(地名)
シュメッター城(ミュッケ地方に建っている城。フルーメス王国東部地域における重要拠点)
(兵種名)
ホースハンター(第三段階のホースに騎乗する軽装備の弓兵。騎弓兵(ききゅうへい)とも言う)
(その他)
五獣将(フルーメス王国で最も優れた五人の大将軍のこと)

