六大将軍伝説

 

 

【086 ドクサ地方攻略(二十二) ~竜に挑む者Ⅲ~】

 

 

〔本編〕

 ミケルクスド國の飛兵部隊は、誰の目にも明らかに敵指揮官と分かるカランパノ大隊長が味方の竜飛兵(ワイヴァーンナイト)の一撃で倒されたため、一気に勢いづいた。

 二十体程度の飛兵部隊が、呆然自失(ぼうぜんじしつ)となっている何人かのジュリス兵を蹴散らし、瞬(またた)く間(ま)に、砦に降下する。

 これで第三(トゥリトス)の砦が一気に陥落するのではと、砦を守っている兵たちが一様にそう感じたぐらいの雰囲気になりかけた。

「まだだ!!」

 その時、大きな声が砦に響き渡る。

 はっと気づいた砦の兵たちが、全員声の方を見る。

 そこには、普段は物静かなクーロが、顔を真っ赤にして声を張り上げている姿があった。

「カランパノ大隊長殿の遺志を、このクーロが引き継ぐ! ジュリス兵、聖王国兵の垣根を取っ払い、全員一丸となって一気に押し返せ!!」

 クーロのその声に、矢が数本射られ、瞬く間に降下した敵飛兵部隊のうち、十人の兵の頭部を貫いた。

 パインロとその弟子ズグラとヒルル、そしてクーロと同世代のオフクの四人による速射狙撃であった。

「降下した飛兵は、槍兵で囲んで倒せ! 弓兵は一斉に上空の飛行動物を射抜け!!」

 クーロ中隊の面々、ヨグル、フォル、ヤンムールやスーシャといった者たちの声であった。

 それに後押しされるようにジュリス王国の兵たちも、一気に戦意を取り戻し、今にも敵による降下部隊によって、砦の上が埋め尽くされるのではないかという流れを一気に変えた。

 結果、降下に成功した敵兵は全て倒され、勢いにのって降下しようとしていた飛兵たちも次々に矢に射抜かれ、慌てて上昇しようとするところを、下降してくる兵とぶつかり、その衝突によって、命を落とす兵が何人かでた。

「馬鹿な! 指揮官さえ倒れれば、一気に崩れるかと思ったのだが……、当てが外れた!」

 矢の届かない上空で見守っていたミケルクスド國王直下のワイヴァーンナイトの一人が呟く。

 そのワイヴァーンナイトの元に、先ほど一撃でカランパノ大隊長を屠ったワイヴァーンナイトが近づく。

「イェショウ!」

「ハッ!」

 カランパノ大隊長を屠ったワイヴァーンナイトが答える。

「次はあの弓兵を狙え!」

 十騎のワイヴァーンナイトのうちの隊長であろう人物が、クーロを指し示し、イェショウという名のワイヴァーンナイトにそう命じる。

「ガーリオ! エスカマ! オハと、マクラブ! お前たち四人もイェショウと共に、その者を狙え!!」

 四人は頷き、五騎のワイヴァーンナイトは、空から一気にクーロを狙って降下を始めた。

 

 イェショウという名のワイヴァーンナイトを含め、五騎のワイヴァーンナイトがクーロ目がけて降下する。

 そのスピードは凄まじく、みるみる時速二百キロメートルに届こうかとした時、クーロの近くにいる弓兵が一斉に矢を、彼ら目がけて射る。

「矢如きがワイヴァーンの皮膚に刺さるものか!」

 先頭のイェショウが、ニヤリと笑いながら呟く。

 矢は数名の速射により三十本ほど射られたが、その矢ではイェショウの呟いたとおり、ワイヴァーンの皮膚を傷つけることは出来ない。

 実際に最初に射た矢数本は、ワイヴァーンの身体に当たって、そのまま弾かれた。

「今だ! ファーモ!」

 パインロが、一人の魔兵に命じる。

 ゆったりとしたローブを纏ったクーロ中隊の魔兵ファーモは目を閉じ、呪文を口で唱える。

 ファーモが呪文を唱えた瞬間、三十本の矢の鏃(やじり)部分が大きな破裂音と共に一気に弾けた。

 さらに弾けた鏃から黒煙がもうもうと噴き出し、その場は瞬時に黒煙に覆われ、真っ暗になった。

 降下している飛竜たちは、自分たちの目の前で大きな破裂音がし、黒煙で全く視界が奪われたことによる驚きと興奮で暴れ出し、滅茶苦茶に飛び回り始めた。

「うわぁぁぁぁ~!!」

「あぁぁぁぁぁ~!!」

 五騎のワイヴァーンナイト中二人の兵が、突然のワイヴァーンの暴走に手綱をつかみ損ね、ワイヴァーンから振り落とされる。

 一人は砦の上、もう一人は砦の下まで落下し、両者とも地面に激突し即死した。

「オハ! マクラブ!」

 五騎のワイヴァーンナイトに突撃を命じたワイヴァーンナイト隊の隊長にあたるファングは、大声で落下した二人の名を叫ぶが、それ以上は何も出来なかった。

 

 イェショウ以下三騎のワイヴァーンナイトは、かろうじて、ワイヴァーンからの落下は免れたが、それでも大暴れしているワイヴァーンから振り落とされないようにするのが精一杯で、とても砦の上の敵に向かうことも、そこから離脱することのどちらもおぼつかない状態であった。

 さらに、三体のワイヴァーンが大暴れすることによって、味方の飛兵もそれに巻き込まれる。

 ワイヴァーンの長い尾に引っ叩かれたグリフォンは、その衝撃で首の骨を折り、そのまま騎乗している兵もろとも落下する。

 また、ワイヴァーンの翼の生えた前足で引っかかれたジャイアントホークは、頭部から血を流し、さらに引っかかれた衝撃で、別のジャイアントホークに激突するなど、二次被害、三次被害も起こってくる。

 さらに、黒煙に覆われた中であっても、砦の上の敵兵からの矢の攻撃は、絶え間なく続いている。

「皆! 落ち着け! 敵もこの黒煙で視界が遮られているのは同じだ! 大方、めくらめっぽうで矢を射ているのであろう! 狙って射ているのではないので、落ち着いて対処せ……!」

 飛兵部隊の指揮官の一人らしきグリフォンナイトがそう怒鳴っている最中に、喉元を矢で射抜かれ、そのまま絶命する。

「何?!」

 それが見えるほど近くにいた飛兵の驚きの声。

 どうやら何人かの弓兵は、この視界の利かない黒煙の中、はっきりと敵飛兵の姿を捉え、確実に狙って射止めているのである。

 パインロを始め数人の上位弓兵は、黒煙という視界の利かない中においても、敵をはっきり見ることが出来る目を持っている。

 また何人かは魔兵の力や、自らの魔術で視力を強化させ、敵飛兵部隊をしっかり目で捉えている。

 ワイヴァーンナイトの参戦で、敵に主導権を奪われようとしていた第三(トゥリトス)の砦の防衛部隊は、主導権をかろうじて奪われることなく反撃に転じた。

 しかしまだどちらに分があるかは決まっていない状況ではあった。

 そうこうしているうちに、三騎のワイヴァーンナイトの兵が、興奮しているワイヴァーンを徐々に制御できかけてきた。

 三騎のうちイェショウとガーリオの二騎のワイヴァーンナイトは、完全にワイヴァーンを御すことに成功し、そのまま矢が届かない上空まで上昇した。

 この二騎に遅れること数分、エスカマという名の兵もワイヴァーンを後少しで完全に制御できるという状態で、足に激痛を覚え、足の方に目をやると右足に矢が突き刺さっていた。

 それと同時にワイヴァーンの鼻先に矢が射かけられ、その矢も魔兵の魔術が注入されていたのであろう小規模ではあるが、鋭く大音声の破裂音が響き渡る。

 これで、一度は落ち着きかけたエスカマの騎乗しているワイヴァーンは、先ほど以上に暴れ出し、右足を矢で射抜かれたエスカマに、そのワイヴァーンを御することどころか、そのワイヴァーンの背に留まるための踏ん張りすらもう無理であった。

 結局エスカマも、最初に落下したオハやマクラブ同様、ワイヴァーンから振り落とされ、そのまま砦の下の地面に激突して命を落とす。

 これで、ミケルクスド國は都合三騎のワイヴァーンナイトを失った。

 しかしその頃には黒煙は、風によって散らされ、砦の上の視界は良好に戻っていた。

 

 

 

〔参考 用語集〕

(人名)

 イェショウ、ガーリオ、エスカマ、オハ、マクラブ(ミケルクスド國ワイヴァーンナイトの面々)

 カランパノ(フセグダー将軍の部下。大隊長)

 クーロ(マデギリークの養子。中隊長)

 パインロ、ズグラ、ヒルル、オフク、ヨグル、フォル、ヤンムール、スーシャ、ファーモ(クーロ中隊の面々)

 ファング(ミケルクスド國ワイヴァーンナイト隊隊長)

 

(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)

 

(地名)

 トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)

 ドクサ地方(ミケルクスド國領)

 

(兵種名)

 グリフォンナイト(第三段階の鷲獅子(グリフォン)に騎乗する飛兵。鷲獅子飛兵とも言う)

 ワイヴァーンナイト(最終段階の飛竜に騎乗する飛兵。竜飛兵とも言う)

 

(竜名)

 ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。『飛竜』とも言う)

 

(その他)

 グリフォン(鷲の頭と翼、獅子の体を持つ動物。『鷲獅子(しゅうしし)』とも言う)

 ジャイアントホーク(巨大な鷹。人を乗せて飛行できる 巨鷹(きょおう)とも言う)

 大隊長(大隊は二百五十人規模の隊で、それを率いる隊長)