八大龍王伝説

 

 

【531 第五童子烏倶婆伽(一) ~失敗の顛末(前)~】

 

 

〔本編〕

「跋難陀(バツナンダ)! 何故お前の狙撃が失敗したか分かるか?!」

第五童子の烏倶婆伽(ウグバガ)は、第二龍王の跋難陀(ばつなんだ)にそう問いかけた。

ここは天界の城塞都市モンバリートの南の地であり、そこに今、ウグバガ童子とバツナンダ龍王の二神が対峙している。

「それは、マナシの計略が見破られていたということだな?! ただ、マナシは霊体の身。どのようにして存在が見つかったかが、皆目見当がつかない!」

「成程! そうか。狙撃はマナシの計略で、マナシからの報告に合わせて実行されたということか? それは全く気がつかなかった! それであれば、あの偶然が、我らリーダーのコンガラを救ったことになるのか? お前たちは運にまで見放されていたわけだ……」

ウグバガのこの語りに、バツナンダは要領を得なかった。

「マナシの計略も存在も気づかれていなかった? ならば何故?! マナシからの報告では三人の神(童子)が、モンバリートに向かって疾走をしており、一番後ろがコンガラとのことであったが……。それが誤り? ……いや、マナシがそんな間違いをするはずがない!

 それに、私の矢を弾いたのは、……ウグバガ。お前だが……! お前は疾走している三人とは別の四人目の隠れた存在であった。マナシが、四人を三人と間違えるはずもない! ……まさか! マナシの最後の報告後に、一人増えた?!」

「正解だ! マナシが何故、お前にその追加報告をしなかったかは、俺には分かりかねるが、要は運が無かったということだ。偶然の産物に足をすくわれたのだからな!」

ウグバガがニヤリと笑い、語り続けた。

「既にコンガラがモンバリートに辿り着いたことで、勝敗は決した。バツナンダ! お前に、この顛末を語り聞かそう。冥土の土産でもすると良い!」

「……」

バツナンダの今の立場からすれば、狙撃が失敗し、コンガラ他二名の者がモンバリートのシャカラのもとに辿り着いた以上、少しでも早く、援軍としてシャカラの元に赴きたかった。

しかしそれは今、目の前にいるウグバガ童子を何とかしてという前提の上である。

むろん、侮れる相手ではない。

むしろ八大龍王のうち第五龍王にあたる徳叉迦(とくしゃか)龍王は『最強の龍王』という異名を持ち、それと同程度の能力を有する第五童子ウグバガであれば、間違いなく『最強の童子』ということになろう。

相手を除く以前に自分が敗れる可能性の方が高い。

そうなると、自分がシャカラの援軍に辿り着くどころか、自分が倒され、この最強の童子であるウグバガがシャカラの元にたどり着いてしまう。

何らかの攻略方を導き出し、勝たなければいけない。

「……分かった! その当たりの事の成り行きが分からなければ、戦っている間も常にそれが気になる。話してもらおうか!」

 

いずれにせよ、ウグバガ攻略を考える時間も必要であるし、何より今はウグバガをこの場に足止めすることが一番の上策であろう。

そう考えた末のバツナンダの発言であった。

「よし、話して聞かそう!」

そう言うとウグバガ童子は、落ち着いた様子でゆっくりと話始めた。

ウグバガからすれば、コンガラとアノクタツそして一人の天界人の三人が、モンバリートに到着したのであるから、勝敗は決したと考えてよいはずである。

第五童子のシトクが、アハトコプフヒドラを守護しており、ヒドラもコンガラ側である。

シャカラは天界人とヒドラを数から除いたとしても、神を三人同時に相手にする戦況に置かれている。

まさか、シトクの愚かすぎる発言によって、シトク自身がヒドラによって瀕死とさせられ、ヒドラが心情的にはシャカラ側になったとは、さすがに事情を知らないウグバガが、うかがい知ることは不可能である。

そのため、ウグバガには、コンガラをモンバリートに到着させたことで、全てが決まった思い、急いでバツナンダと決着をつける理由はないのである。

さらに、相手がバツナンダであれば、狙撃といった奇襲戦法でも用いられない限り、負けるとは心底思っていない。

冥土の土産と称して、バツナンダに顛末を語り聞かせようというウグバガの心情は、こういった余裕から来る遊び心のようなものであったと思われる。

 

「先ず、偶然の産物と称したように、シャカラのモンバリート襲撃の一報を聞いた時のコンガラの驚き様は、かなりのものであり、動揺を隠しきれない様子であった。なにしろ、ラオグラフィナにいる者の中で、アハトコプフヒドラがモンバリートに居ることを聞かされていたのは、第六童子のアノクタツだけだったらしいからな。

いずれにせよ、瞬間移動の術などを、マナシ側による結界によって封じられた以上、疾走や滑空という物理的移動手段以外の移動が出来なくなり、ことは一刻を争う事態に陥った。

結局、一切に魔法に頼らず時速千キロメートルの速度で地上を疾走できるものは、神である八大童子だけであり、結局、コンガラとアノクタツと俺の三人で、急きょモンバリートに向かうこととなった。

マナシの霊が目にしたのは、その三人のモンバリートへ疾走する姿だったと思われるが、間違いはなさそうだな!」

「ああ。マナシの報告はそれだ!」

バツナンダも、同意するように一言そう口をはさんだ。

「三人の走る順は、自然と一番前がアノクタツ、次がこの俺、そして一番後ろがコンガラとなった。我らの疾走を阻むとなれば、前方だから、遠距離攻撃に特化しているアノクタツが、最も遠くまで見通せるために一番前。

次に前方からの攻撃が、仮にアノクタツを突破した場合を想定して二番目が、あらゆる攻撃に対処できる俺。そして三人のうち、守るべき存在であるコンガラが最後尾となったのは自然の形と言える。

時速千キロメートルで疾走する以上、背後からの攻撃を考慮する必要はないし、側面からの攻撃においても、先ず考える必要はなかった。

あの時は、コンガラだけでなく、皆がモンバリートにすこしでも早く到着することしか考えていなかった。そのせいでもあるが、まさか、モンバリートに狙撃手が潜んでいたとは……。

いささかこちらが楽観視し過ぎたせいでもあるが、コンガラが一本とられた形となった。むろん、狙撃が成功していたのであればだが……」

ウグバガは終始、笑顔で語った。

 
 
 

〔参考 用語集〕

(八大龍王名)

 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王とその継承神の総称)

沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)

徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王とその継承神の総称)

摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王とその継承神の総称)

 

(八大童子名)

 八大童子(ウバツラ龍王の秘密の側近。実はウバツラ自身の八つの神格達の総称)

 指徳(シトク)童子(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第四童子)

 烏倶婆伽(ウグバガ)童子(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第五童子)

 阿耨達(アノクタツ)童子(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第六童子)

 矜羯羅(コンガラ)童子(八大童子のうちの第八童子である筆頭童子。八大龍王の優鉢羅龍王と同一神)

 

(神名・人名等)

 アハトコプフヒドラ(第八龍王ウバツラの守護龍。八つの頭を持つ多頭龍。八(や)の頭(かしら)の多頭龍とも言う)

 

(地名)

 モンバリート(天界の城塞都市の一つ)

 ラオグラフィナ(八大龍王の住む天界で最も堅固な城塞都市)