八大龍王伝説



【360 クルックス討伐戦(十五) ~人和十二傑~】


〔本編〕

「確かに、難陀(ナンダ)龍王の攻めを受けられる人間はどこにも存在しないだろう。それは兎も角、ムーズ様が『守りの戦い』を得意としているのは初耳であった。性格からいって攻めが大好きだと考えていたが……」

「いいえ。ドンク様……」

ゼンイの話が続く。

「ブルムス様、グラフ様、ムーズ様のお三人方――聖王国の三将軍の特徴を考えますと、グラフ様が『攻め』を信条として、ムーズ様が『守り』を信条としていました。そして当時の天時将軍であられましたブルムス様は『攻め』と『守り』の両方を得意としていた将軍でございます」

「確かにそういわれれば、『谷の城』といわれたカムイ城を半年間(龍王暦一〇五〇年三月から九月の半年間)守ったという実績がそれを証明しているともいえるかも……」

ドンクは一人合点していたのである。

「その守りを具現化したのが、『人和十二傑』でありましたが、人和十二傑は十二人であって、実は十二人だけではないのです」

「……?」

「さすがのドンク様もお分かりにはなりませんか……」

ドンクが首をひねっている姿をどことなく楽しんでいるゼンイであった。

「先程、人和十二傑はムーズ様の守りの戦いを具現化した組織の一部と申し上げましたが、組織という以上、十二人ではなくもっと多くの者が人和十二傑でありました。正確に申し上げますと人和十二傑候補と申し上げればよろしいでしょうか……。

人和十二傑の十二人がその代表のようなもので、その候補として百人程度の者がムーズ様の直接の指導の元に『守りの戦い』のノウハウを会得していたのであります。確かにトータル的な能力は人和十二傑の十二人が最も優れていると申せましょう。しかし、人和十二傑が倒されたバクラの戦いより既に五年が経過しました。

その頃、十二傑候補として未熟だった者も今では十分にお役に立てるでしょう。――いや十二傑以上に育ったものも多いはず――。実際に(龍王暦)一〇五〇年当時に、防御能力のみに関しては十二傑を上回る者も数名おりました。そのような者達が今、この本陣とメイラン様達をお守りしているのでございます」

ゼンイはここまで一気に語った。

「守りに長けているということは、その者達は兵種でいうとメタルナイトということになるのか?」

「いえ……」

ドンクの問いにゼンイは首を横に振った。

「正面からの突破に対応するのであれば、横に組織的に並べたメタルナイトが最も防御としては有効かもしれません。しかし、単独で単独の敵を防御するのであれば、軽装である槍兵の方が有効なのです」

「それはつまり……」

「はい。ドンク様。究極の軽装槍兵であるマーシャルでございます」

「サブロウ! 考えている暇はない!! 行くぞ!!」

風のシロウが叫んだ。

風のシロウの言うとおりであった。

『風の走人』の最大の武器はその走力であった。

走力がずば抜けているため、突破力も倍化し、突破した敵を遠く後方へ置き去りにすることも可能なのである。

今、敵の槍兵によって前を封じられては、今まで置き去りにしてきた後方の敵兵に追いつかれてしまう。

そうなっては風の走人といえども多勢に無勢で、捕らえられるか、殺されてしまうであろう。既に前方以外の七方から、多くの聖王国の銀狼軍が殺到してくる。

「よし! ツヴァイ・ライエ・パラレーレ!!」

サブロウが大声でそう叫ぶと、五人の走人が再び、五人の軽装備の敵の槍兵に向かって走り始めた。

そのゼロコンマゼロ一秒後、サブロウ、シロウを含む四人の走人が五人の走人の後を追うように走り始めた。

ちょうど二列(ツヴァイライエ)の平行線(パラレーレ)のようであった。

さて、一列目の五人の走人が五人の敵の槍兵に迫る。五人の槍兵は先程と同じ場所から一歩も動かず、長さ一メートル程度の槍を繰り出す。

しかし、先程のような単純な頭部を狙う一突きではなく、高速で三から四の突きを繰り出した。

一種の達人の域に達した槍術である。

これでは五人の走人はその場に止まって三から四の突きを、手に持った短剣で弾かなければならない。

しかし、これは風の走人側でも想定内のことであった。止まった一列目の五人の走人の背中から肩、そして肩から頭を踏み越えて、二列目の四人の走人が空高く跳ぶ。

サブロウ、シロウを含む四人の風の走人は、敵の槍兵の頭上を飛び越えた。

むろん元人和将軍ムーズの元で訓練を受けた人和十二傑の候補となっていた槍兵たちである。

すぐにその頭上を飛び越えた走人たちの行動を察し、手に持った槍を自身の頭上に繰り出そうとする。

空中を舞っている走人たちは無防備そのものであるので、このままでは四人全て槍の餌食になってしまう。

しかし、そこは地上を走っている一列目の風の走人たちが、苛烈に槍兵に攻撃を加え、頭上に槍を繰り出す機会を与えない。

空中に舞った四人の走人は、そのまま敵の槍兵の背後に降り立ち、そのまま目の前にメイランの乗っている戦車の眼前に迫った。

“後数十メートル!”

風のサブロウの心の叫び。

「グハッ!」

その時、サブロウの横にいた二人の走人が一人は前のめりに、そして一人は後方に仰向けに倒れた。

「何?!」

見ると二人の走人の身体を槍が貫いていたのである。

一瞬、どこから槍が降って沸いたか理解不能だったサブロウだが、次の瞬間、自分の背中に迫ってきた槍を、直感によって体を捻ってかわした後、合点がいった。

「投げ槍か!!」

まさにその通りであった。

人和十二傑に属していた五人の槍兵たちは、自分達の頭上を越えて背後に降り立った四人の走人目がけて、肩越しに後方に槍を投げたのであった。

それは、自分達の前にいる走人たちの動きを阻んでいる一メートル程度の長さの槍とは違い、長さ五十センチメートル程度の投擲用の短槍であった。

長槍を両手で扱っている一瞬、片手だけを長槍から離し、腰の辺りにでも装備していたであろう短槍を引き抜き、後方に投げたのあろう。

さすが最終段階(トップランク)のマーシャルならではの技量の高さであろう。頭上を跳んだ軌跡から落下地点を予測したと思える。

「シロウ! 大丈夫か!!」

その場に蹲(うずくま)っているシロウに対して、風のサブロウが声をかける。

「大丈夫だ! すこし脛(すね)にかすり傷を受けたが……。 すぐに追いつく! サブロウ! お前は先に行け!!」「分かった!!」

そう言うと風のサブロウは一人メイランに向かって突進していったのである。




〔参考一 用語集〕

(龍王名)

 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)


(神名・人名等)

 風の八衆(風の旅人に仕える八人の幹部衆。イチタロウ、ジロー、サブロウ、シロウ、ゴロウ、ムツミ、ナナミ、ハチヤの八人)

 グラフ(ソルトルムンク聖王国の近衛大将軍。当時は地利将軍)

 ゼンイ(ムーズ将軍の親友であり部下であった老将)

 ドンク(ソルトルムンク聖王国の銀狼将軍)

 ブルムス(ソルトルムンク聖王国の元天時将軍。故人)

 ムーズ(ソルトルムンク聖王国の元人和将軍。故人)

 メイラン(シェーレウィヒトライン三精女の一人)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)

クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)


(地名)

 カムイ城(ツイン城を守る城。通称『谷の城』)


(兵種名)

 メタルナイト(最終段階の重装備の槍兵。金剛槍兵(こんごうそうへい)とも言う)

 マーシャル(最終段階の軽装備の槍兵。攻撃に特化した槍兵)


(付帯能力名)


(竜名)


(武器名)


(その他)

 風の走人(共和の四主の風の軍に所属する特殊部隊)

 銀狼軍(ソルトルムンク聖王国六聖軍の一つ。ドンクが将軍)

 三将軍(ソルトルムンク聖王国の軍事部門の最高幹部。天時将軍、地利将軍、人和将軍の三人)

 人和十二傑(ムーズ将軍の育て上げた精鋭部隊)

 バクラの戦い(龍王暦一〇五〇年三月のバルナート帝國連合とソルトルムンク聖王国連合の戦い。帝國側が勝利)

〔参考二 大陸全図〕


全図347