八大龍王伝説

 

 

 

【136 ラムシェル王とマーク(序)】

 

 

〔本編〕

 遡ること龍王暦一〇五一年四月二四日。マーク一行はミケルクスド國の首都イーゲル・ファンタムに到着した。

 到着する間、何度かミケルクスド國の兵に止められたが、付き従っていたミュストンがマーク一行であることを告げると、どの兵も道をあけて、イーゲル・ファンタムへの道のりは少しの支障もなかった。

また、途中でハクビ小隊の頃の仲間である弓兵のサルルッサーとソイーズも、率いている百名程度の弓兵と共に、マーク達に合流した。

 そしてイーゲル・ファンタムに到着したマークは、用意されていた部屋に案内され、そこでしばし休息をした。

「マーク!」そこへ二人の意外な人物が訪ねてきた。

「父さん! 母さんも! ――無事でしたか! 信じられない! 奇跡だ!!」

 マークのびっくりした声である。

 訪ねてきた二人とはマークの両親であるホルムとスリサであった。

ホルムとスリサは、去年の二月にソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の戦争の際、コムクリ村から兵として出征していった。そして、ソルトルムンク聖王国がバクラの戦いで敗れて以来、二人の所在は不明になり、今日まで手がかりすら全く掴めなかったのである。

三人は言葉を詰まらせ、しばし抱き合った。

「全然手がかりがないので、もう諦めていました! 本当に信じられない!!」

「私たちも、ラムシェル王から、あなたがこのイーゲル・ファンタムに来ると聞いて、喜びでどうしてよいか分からなかったのよ! 本当に生きて出会えるなんて……」

 母親のスリサは涙を流しながら語った。

「それでマーク! レナとハクビは無事なの!」

「うん! あの二人は聖王国の軍人として立派に戦っている……」

 マークはそう言うと、去年の五月のコムクリ村の襲撃から、王城マルシャース・グールの奪回までを二人につぶさに語って聞かせた。

「……それに比べて俺は……敗れて……敵国の捕虜になってしまった……」

 マークは寂しそうにそう呟いた。

「お前はよく戦った……。そのことはラムシェル王より、お聞きしている。明日一緒に王のいらっしゃるところへ行こう。ラムシェル王のお人柄が分かるというものだ」

「分かった! 明日、ラムシェル王にお会いする」

「よし、マーク! それで今日は一緒にこの家で休んでもいいというお許しをいただいている。今夜、ゆっくり語ろう」

 その時マークは、父ホルムが右足を引き摺(ず)っていることに気付いた。

「父さん! その足は?」

「ああ……バクラの戦いで負傷した。この傷は一生治らないだろう。ラムシェル王がいらっしゃらなければ、私達はバクラの戦いで多分死んでいただろう! ラムシェル王は慈悲深いお方で、捕虜になった我々にもここの住民と同じような食べ物や家を用意して下さり、首都のイーゲル・ファンタムの中であれば自由に移動することも許されている。

 そして、ソルトルムンク聖王国との間に起こった戦が終われば、希望によっては聖王国へ帰国することも可能だと約束をされた!……しかし、聖王国の罪人となった今ではそれも叶わないが……」

「罪人? 捕虜になったということがですか?」

「そうかお前は何も知らないのだな」

 ホルムはため息をついた。

「何をですか?」

「聖王国では今回の戦いでお前がミケルクスド國に寝返ったために負けたということになっている。お前は反逆者となり、我々やレナまでその罪が及んでいるのだ。これはつい最近分かった事柄だ。ラムシェル王は情報収集の達人であるから、このような情報がすぐに入り、入ったその情報を私達捕虜にも語ってくださったのだ」

「……」その事実はマークに大きな衝撃を与えた。

 俄(にわか)には信じ難い事柄であった。

 

 翌日の二五日。マークはホルムとスリサと共に、ラムシェル王の『玉座の間』に跪(ひざまず)いていた。

「おお、よくぞ来てくれたな! マークよ、余がラムシェルだ! そちに是非にも会ってみたかった」

「ははっ!」

 マークは深く頭(こうべ)を垂れていた。

「かまわぬ! 面をあげよ!」

「はっ!」

 王の言葉にマークとホルム、スリサの親子は顔をあげ、ラムシェル王を仰ぎ見た。

 『玉座の間』の中央に玉座である高貴な椅子があり、そこに若い王が座っていた。

 玉座に座る二十代と見える若い王は茶色の髪でエメラルドグリーンの瞳をしており、白というよりは黄色がかった肌を持ち、鼻が高い均整のとれた顔立ちをしていた。マークはその緑の瞳に知性と慈悲、それと意思の強さを感じ取った。

 その男以外に一人の女と二人の男がいた。

「余の横に座っているのがユングフラ姫だ。余の妹にあたる。余の今生きている最も近い親族だ」

 ラムシェル王の玉座より少し小柄な椅子に座っている女性が王によって紹介された。王と同じく茶色の髪、エメラルドグリーンの瞳、黄色の肌を持つ、思わず息を飲むほどの美人であった。

 そして、その瞳は王と同じく意思の強さを感じ、可憐な華のイメージの美しさではなく、太陽のように全てを照らし出す、神々(こうごう)しい美しさであった。

「それと両脇の者は、余の片腕にあたるライヒターと、余の頭脳にあたるハリマだ」

 ライヒターと紹介された男は、身長百八十センチメートルで、茶色の髪の王に近い二十代ぐらいの若者であった。そしてハリマと紹介された男は、五十代ぐらいの顔が大きい異相の男であった。

「ところでマーク、そちは今年いくつだ?」

「はい! 二十七になります」

「おお~余と一緒だ! 余も今年で二十七になった」

 この時代は、生まれた瞬間を零(ゼロ)歳とし、その後は、年の初日――つまり一月一日に皆、年を一つとる。そのため、一月一日生まれの者はいきなり一歳になり、逆に一月二日生まれの者は、ほとんど一年後の一月一日に一歳になるのである。

 ラムシェル王は笑顔で続けた。

「余の國であるミケルクスド國は、第五龍王にあたる徳叉迦(とくしゃか)龍王によって建国された國だ。第五龍王の徳叉迦龍王は、そちも知っているとは思うが、『最良四龍王』と呼ばれる上位四人の龍王のうち、『最強の龍王』と呼ばれたお方だ。こと戦いに関して言えば、徳叉迦龍王に苦杯をなめさせる者は神といえども、どこにもいないと言われている。

 その『最強』と呼ばれているのは、心技体全てにおいて最高レベルであることは言うまでもないが、意外に知られていないのが、諜報能力において他を凌駕(りょうが)しているという点だ。十六種類ある付帯能力(アドバンテージスキル)のうちの『気配遮断スキル』で完全に気配を消してしまえるのは徳叉迦龍王だけなのだ。

 徳叉迦龍王はその能力を最大限生かし、敵の弱点を探り、それによって常に相手より有利な立場で戦うことが可能なのだ。余のミケルクスド國はその徳叉迦龍王のあり方を昔から國のあり方としている。その一例は――オオ! 気づくのが遅かった。マーク達に椅子を用意せよ!」

 ラムシェル王は話を中断した。

ここからマーク達にとってラムシェル王が驚愕(きょうがく)の出来事を伝えることになるが、それはマークにとって考えも及ばないことばかりであった。

 
 
 

〔参考一 用語集〕

(龍王名)

 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王)

 

(人名)

サルルッサー(ハクビ小隊の弓兵)

ソイーズ(ハクビ小隊の弓兵)

ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年。ソルトルムンク聖王国の人和将軍)

ハリマ(ラムシェル王の家臣。ラムシェルの右脳と呼ばれる人物)

ホルム、スリサ(マークとレナの両親)

マーク(ハクビの親友)

ミュストン(ハクビ小隊の騎兵。ミケルクスド國の『草』)

ユングフラ(ラムシェル王の妹。当代三佳人の一人。姫将軍の異名をもつ)

ライヒター(ラムシェル王の家臣。ラムシェルの右腕と呼ばれる人物)

ラムシェル王(ミケルクスド國の王。四賢帝の一人)

レナ(ハクビの妻。マークの妹)

 

(国名)

ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王|優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)

バルナート帝國(北の強国。第七龍王|摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)

ミケルクスド國(西の小国。第五龍王|徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)

 

(地名)

イーゲル・ファンタム(ミケルクスド國の首都であり王城)

コムクリ村(ソルトルムンク聖王国の南西部にある小さな村)

マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)

 

(付帯能力名)

付帯能力(その人物個人の特有の能力。アドバンテージスキルという。十六種類に体系化されている)

気配遮断スキル(十六の付帯能力の一つ。自らの気を鎮めることにより、気配を遮断する能力)

 

(その他)

バクラの戦い(バルナート帝國連合とソルトルムンク聖王国連合の戦い。帝國側が勝利)

 

 

〔参考二 大陸全図〕

八大龍王伝説-大陸全図108