解離抑制を志向したLC溶離液条件はLC/MSには適さない | 日本一タフな質量分析屋のブログ

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日本で唯一、質量分析に関するコンサルタント、髙橋 豊のブログです。エムエス・ソリューションズ株式会社と株式会社プレッパーズの代表取締役を務めます。質量分析に関する事、趣味の事など、日々考えていることや感じたことを綴っています。

逆相分配クロマトグラフィーでイオン性化合物(酸性 or 塩基性)を分析する場合、カラムに保持させるための方法は大きく分けて以下の2つです。

 

  1. 解離抑制による方法
  2. イオン対試薬を用いる方法
 

通常のHPLCで用いられるイオン対試薬は不揮発性のものが多く、LC/MSには適しません。そのため、LC/MSに用いられる揮発性のイオン対試薬が市販されています。

 

解離抑制による方法についても、LC/MSには適しません。今回は、安息香酸の分析を例にとって説明します。安息香酸のpKa4.2です。図に示すように、溶離液のpH4.2の時に解離状態と非解離状態が1:1pH2.2以下ではほぼ100%が非解離、pH6.2以上でほぼ100%が解離状態となります。解離状態と非解離状態では、解離状態の方が高極性になるので、逆相分配クロマトグラフィーでは保持が弱くなります。つまり、保持を強くするためには、pH2.2以下にして非解離状態にすれば良い訳です。このような溶離液条件は、UV検出器などを用いる通常のHPLCでは問題なく使えます。

安息香酸

 

LC/MSでは、安息香酸は弱酸性でプロトンの授受に関与する官能基はカルボキシ基なので、負イオン検出で測定するのが一般的です。安息香酸を負イオンで検出する時に、強酸性の溶離液を使用してしまうと、溶離液の添加剤の方がイオン化され易くなり、安息香酸のイオン化を抑制してしまうという問題が起こります。

 

このように、一般的なHPLCでは普通に用いられる解離抑制による溶離液条件は、LC/MSには適さないということになります。不揮発性塩を含む緩衝液と同様、通常のHPLCで使える移動相条件がLC/MSで使えないというのは、分析条件を検討する上ではストレスになります。

 

今回、この問題に対してソルナックチューブを適応させてみました。ソルナックチューブは、元々はリン酸ナトリウムやリン酸カリウムを除去するために開発したものです。そのため、ソルナックチューブには、陽イオンと陰イオンの両方を吸着させる機能があります。そのため、分析種もソルナックチューブに吸着してしまう可能性があります。一方、解離抑制を志向した溶離液条件に用いる場合、例えば今回の安息香酸の例では、溶離液の添加剤としてTFAを用いるとすると、安息香酸とTFAではTFAの方がpKaが小さいために、TFAのみが吸着して安息香酸は吸着しないようにイオン交換樹脂を細工すれば、TFAのみを選択的に除去することができます。

 

添付URLのアプリケーションデータでは、試料にトリプトファンを用いています。トリプトファンは、芳香環の影響によって解離抑制の条件を用いなくても逆相カラムに保持しますが、今回はTFAよりも負イオン([M-H])になり難い(TFAによりイオン化抑制を受け易い)例として用いました。

 

塩基性化合物のLC/MSについても、逆の性質のソルナックチューブを用いることで、解離抑制による溶離液条件を用いることが可能になります。

 

 

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引用元:解離抑制を志向したLC溶離液条件はLC/MSには適さない