LC/MSに適する・適さない溶離液、揮発性でもイオン化抑制を起こす溶離液はある | 日本一タフな質量分析屋のブログ

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日本で唯一、質量分析に関するコンサルタント、髙橋 豊のブログです。エムエス・ソリューションズ株式会社と株式会社プレッパーズの代表取締役を務めます。質量分析に関する事、趣味の事など、日々考えていることや感じたことを綴っています。

LC/MSに使用する溶離液には、基本的に“揮発性であること”が求められます。これは、不揮発性(の塩を含む)溶離液が以下の点でLC/MS分析に不具合を生じさせるためです。

 1. 不揮発性塩のイオン化効率が高く(ESIで顕著)、分析種のイオン化を抑制してしまう

2. 不揮発性塩がイオン源に析出して、ニードルやオリフィス(コーン)などを目詰まりさせる

3. 不揮発性塩がイオン源に残存して、その後の分析に悪影響を及ぼす

 

しかし、従来LC分析においては、リン酸塩緩衝液を代表とする不揮発性(の塩を含む)溶離液が多用されてきました。リン酸塩緩衝液がLC分析で多用されている理由は、①低波長領域に吸収をもたないこと、②幅広いpH領域で緩衝能を示すために分離条件の検討が容易であること、などが挙げられます。

 

例えばリン酸塩緩衝液を用いたLC条件が確立されている試料があり、それをLC/MSに移行する場合、通常は酢酸アンモニウムやギ酸アンモニウムなどの揮発性溶離液に変更する必要があります。しかし、その際に試料中成分の分離挙動が変わってしまい、目的成分(分析種)の相関が分からなくなることがあります。この問題に対して、例えばアジレント・テクノロジー株式会社のアプリケーションノートでは、二次元LCを用いた方法を紹介しています。この方法は確かに有用ですが、専用システムが必要なので、なかなか手が出せないというLC/MSユーザーもいると思います。

 

ソルナック(カートリッジ&チューブ)は、そのような場合に使える技術として開発しました。もちろん万能な技術ではありませんが、LCMSの間にソルナックを接続するだけで、簡便にリン酸塩緩衝液を用いたLC/MSが実現可能です。

 

さて、LC/MSに使える揮発性溶離液の中にも、分析種のイオン化を抑制してしまうものがあります。その代表例は、TFA (trifluoroacetic acid、トリフルオロ酢酸)HFBA heptafluorobutyric acid、ヘプタフルオロ酪酸)などのパーフルオロカルボン酸です。これらは、塩基性化合物に対するイオン対試薬としてLC/MSに用いられますが、酸性度が高すぎるためにニードルと対向電極との間に流れる電流量が大きくなり過ぎて、分析種のイオン強度が減少してしまうという問題が起こります。そこで、ソルナックを溶離液中のTFA除去のために用いてみました。

ソルナックチューブ_TFA除去

 

試料はタンパク質。タンパク質の分析と言えばプロテオーム解析を思い浮かべる人が多いと思います。プロテオーム解析では、タンパク質を酵素消化してLC(逆相分配クロマトグラフィー)-MS/MSMALDI-TOFMSで分析してタンパク質の同定などを行います。タンパク質を酵素消化して得られたペプチド混合物のLC-MS/MSでは、LCの溶離液にはギ酸が主に用いられます。しかし、酵素消化しないインタクトタンパク質を逆相分配クロマトグラフィーで分離する場合、ギ酸よりTFAの方が適しています。

 

TFA溶離液を用いたインタクトタンパク質のLC/MS分析において、ソルナックチューブを用いてTFAを除去することで、ソルナックチューブを用いずTFAをイオン源に導入した場合と比較して34倍高いシグナル強度が得られました。ギ酸を溶離液に用いた時との比較データも掲載しています。詳細はアプリケーションノートをご覧ください。⇒ TFA溶離液を用いたインタクトタンパク質のLC/MS分析(TFA除去によるイオン化抑制の低減)

 

 

 

 

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