ネブライザーガスを用いる通常のESIでイオン化抑制が起こり易いのは、エネルギー供給を絶たれた状態の帯電液滴から界面活性剤などの夾雑成分が優先的にイオン化し、分析種が内部に残った液滴には既に過剰電荷が存在しなくなってしまう場合、あるいは過剰電荷は残っているとしても液滴が大きくて分析種がイオンエバポレーションするまでに時間を要してしまう場合です。
つまり、分析種をイオン化するためのエネルギーが常に供給されている状況においては、イオン化抑制は起こり難いということになります。その例を2つご紹介します。今回はその1つ、探針エレクトロスプレーの例です。
探針エレクトロスプレー(Probe Electrospray, PESI)については、お仕事でLC/MSを扱っている方でもご存じないケースが多いと思います。山梨大学の平岡先生が開発された方法です1)。
通常、エレクトロスプレーはそのサイズを問わず、試料溶液はキャピラリーを介して連続的に供給され、キャピラリー先端で対向電極との電位差の作用で帯電液滴になります。帯電液滴としてキャピラリー(テイラーコーン)を離れた瞬間にエネルギー供給が絶たれるため、初期の液滴サイズと電荷密度によりますが、多かれ少なかれ夾雑成分によるイオン化抑制を受けます。
PESIは、キャピラリーに試料溶液を流す替わりに針先に試料溶液を塗布し、高電圧を印加することにより、針先から直接イオンエバポレーションを起こすイメージです。即ち、針に付着した試料溶液には常に高電圧(エネルギー)が供給されており、針に付着した液体全体が帯電液滴として働きます。針に電圧を印加する時間は自由に制御できるため、例えば界面活性剤のようなマトリックス成分を大量に含む試料溶液の場合、界面活性剤が帯電液滴の表面から優先的にイオンエバポレーションを起こしてイオン化しますが、その後も継続して電圧を印加し続けると、界面活性剤のイオンが消失した後に分析種のイオンが出現してきます2)。
このデータは、エネルギーを絶えず供給し続ければ、エレクトロスプレーはイオン化抑制を起こさないという証明になると考えられます。
PESIはエレクトロスプレーイオン化の究極の形ですが、ネブライザーガスを用いる標準的なESI.>ミクロESI>ナノESI>PESIという順番にイオン化抑制を起こし難くなります。
標準的なESIを用いてイオン化抑制(マトリックス効果)の問題を抱えている場合、試料前処理、LC分離の改善、イオン化法の変更など様々な回避法が提案されていますが、ESIのスケールダウンも有効な方法です。
文献
1) 平岡賢三、分析化学、59(2), pp.95-105 (2010).
2) 平岡賢三、TMS研究会講演要旨集、p.10 (2013).
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引用元:第65回質量分析総合討論会に参加して:イオン化温故知新、ES・・・