プログラムなどは、こちらをご参照下さい。
インフォマティクスなどという言葉(研究分野)は、私が質量分析を始めた頃には無縁でした。
その頃の質量分析については、こちらで少し書いています。
何しろマススペクトルデータがアナログですから、一人が一台の質量分析計で測定できる検体数は、どんなに頑張っても10検体くらい。
しかも試料導入法は直接導入しかありませんでしたから、単離精製した化合物を測定していて、1検体1化合物でした。
(例えば天然物試料をLC/MSで測定すれば、1検体100以上の化合物です)
質量分解能は低く同位体ピークが分離できる程度、MS/MSはありませんでした。
イオン化法は電子イオン化(electron ionization, EI)のみ。
マススペクトルから得られる情報は少なく、当時はまだパソコンも普及していませんでしたし、方眼紙に定規と鉛筆でマススペクトルを書いて、
フラグメンテーションの解析も電卓片手に手書きでした。それで何とかなっていました。
しかし、今はパソコンの性能が上がってデータ測定のスピードがあがり、1検体100以上の化合物から成る試料を1日に数百検体も測定できてしまいます。
質量分析計の性能も向上し、特に分解能についてはTOF-MSで30,000以上、FTを使う装置では100,000以上が容易に達成できます。
MS/MSが可能な装置も増えています。マススペクトルから得られる情報量が桁違いに多くなっていて、とても人の手と目、頭だけでは処理できなくなっているのが現状でしょう。
私自身、お客様からの依頼で天然物のLC/MS/MS測定&マススペクトル解析をすることがありますが、マススペクトル解析支援ツールやデータベースを活用しています。
そんな訳で、今回は知り合いから教えて貰ったこのワークショップに参加してみました。
演者の中に二人知り合いがいたというのも、参加の決めてにはなりました。
未知化合物の構造推定を質量分析を用いて行う場合、高分解能のMS/MSが必要なのは言うまでもありません。
そのデータから以下に構造を推定していくか...
完全に未知化合物の場合には、よほど運が良くないと、何等かのデータベースやツールを使わざるを得ないと思います。
前に解析した化合物とマススペクトルが似ているとか...
イオンの精密質量情報から、元の分子の元素組成を一義的に決められるという前提の基に、今は以下のアプローチがあると思います。
- 1. MS/MSにより得られるマススペクトル(プロダクトイオンスペクトル)のデータベースで検索する
3. 有機化合物データベースに登録されている化合物の構造からコンピューターでフラグメンテーションを予測し、実測のプロダクトイオンスペクトルと比較する
1については、一般的に使えるデータベースへの登録化合物数が非常に少ないので、よほど運が良くないとマッチすることは無いでしょう。日々データ数は増えているので、将来的には期待できます。
2については、そもそも未知化合物のマススペクトルと精密質量情報から、”この化合物はこんな構造だ”などと推測することは先ず不可能なので、医薬品の代謝物や、天然物であれば既知成分の類縁体など、かなり限られると思います。
3については、私自身も最も期待していますし、これから益々需要が伸びてくる方法だと思います。今は、MetFragというWebツールを主に使っています。今回のワークショップでは、理研の津川氏がその方法で解析ツールを開発していて、今回もそのお話しをされていました。私は、津川氏のお話しは今までに4~5回は聞いていて、直接お話ししたことも何度かあります。もともとは質量分析の専門家ではないとのことですが、有機イオンのフラグメンテーションについてとても良く勉強されていて、彼の開発しているツール(MS-FINDER)は最近使い始めました。MetFragの方が、私にとっては手軽に使えるのですが、今後はMS-FINDERを使い込んでいこうと思っています。MS/MSにおけるフラグメンテーションは、切れやすいところから切れる(結合エネルギーの小さな結合ほど開裂し易い)という基本原則はありますが、単純に開裂するだけでなく、転位反応や再配列などを伴う開裂もあるし、イオン-ニュートラルコンプレックスを経由して起こる開裂もある。置換基効果や同位体効果までも考慮すると、構造からフラグメンテーションを予測するというのは、実際には非常に難しいことだと思います。実際、上記2では、経験則に基づいて構造からフラグメンテーションを予測してくれて、私も使ったことがありますが、実測のイオンと合わない予測フラグメントイオンが沢山出てきて、余り役に立たない印象です。3でも、構造からフラグメンテーションを予測することは同じですが、その予測にどのようなフラグメンテーション上の情報を加えていくかが重要なのだと思います。津川氏は、そのような情報(例えばマスシフト則とか)を加えて実装を工夫されているようです。
ワークショップでは、その他には、沖縄科学技術大学院大学の早川氏の話は面白かったですね。やはり、プロダクトイオンスペクトルから低分子化合物の構造を推定するためのツールを開発していますが、アプローチがとても興味深かったです。”似た構造の化合物はプロダクトイオンスペクトルも似ている筈”という考えの基で、ある試料のLC/MS/MS測定から得られた複数のプロダクトイオンスペクトルの類似性からクラスタリングを行い、精密質量から得られた元素組成からデータベース検索を行い、クラスタリングしたグループでデータベース検索結果の中に共通の部分構造を有するものがあれば、それがそのクラスタリンググループの共有構造に近い筈、という考えに基づいて未知化合物の構造推定を行うという方法のようです(全ては理解できませんでした)。
私も質量分析屋ですから、日本の研究者の方が開発しているツールは使い込んで行って、質量分析屋として開発に協力できることがあれば協力したいと思います。
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エムエス・ソリューションズ株式会社
http://www.ms-solutions.jp/
住所:〒187-0035 東京都小平市小川西町2-18-13
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引用元:質量分析インフォマティックス研究会第二回ワークショップに参加・・・