質量分析の基礎:試料導入法とイオン化法、電子イオン化 | 日本一タフな質量分析屋のブログ

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日本で唯一、質量分析に関するコンサルタント、髙橋 豊のブログです。エムエス・ソリューションズ株式会社と株式会社プレッパーズの代表取締役を務めます。質量分析に関する事、趣味の事など、日々考えていることや感じたことを綴っています。

前回、試料導入法とイオン化法について、さわりだけ書きました。



 



今回から、具体的に解説します。



先ずは電子イオン化について。



 



電子イオン化は、英語ではelectron ionizationと言い、通常EIと略して書きます。MS装置の中でイオンを作る部品をイオン源と言います。EIイオン源はこんな感じ



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昔は電子衝撃イオン化(electron impact ionization)と言っていました。衝撃と言うと、電子が分析種分子に衝突するイメージですが、電子の大きさを考えると、分子に¨物理的に衝突する¨ことは考えにくく、¨光の照射¨に近いと考えられることから、改名された経緯があります。



 



EIは、現在市販装置に使われている様々なイオン化法の中で最も古くから使われていて、ある意味汎用性の高い方法です。



 



EIについては、以前アメブロでも書いていますが、真空中でのイオン化であり、分析種分子は加熱によって気化させる必要があります。



 



加熱・気化のプロセスは、試料導入法に関係します。EIが装着できるMS装置は、通常次の3種類の試料導入法が使えます。



 



1. 直接導入プローブ



先端部に昇温可能なヒーターを内蔵させたプローブを使います。プローブ先端に細いガラスのチューブを付け、その中に固体試料や高沸点の液体試料をいれ、チューブの部分をイオン源に入れて、プローブのヒーターを昇温(例えば1分間で300℃まで)させて試料分子を気化させ、EIでイオン化します。通常は単離精製された試料に用いますが、混合物試料に使うこともあります。



 



2. リザーバー



主に沸点の低い液体試料の導入に使用するタンクのような物です。低沸点の化合物は、1の直接導入プローブでは、真空中に導入した瞬間に気化してしまって測定できないので、リザーバーに溜めて、少しずつイオン源に導入します。質量校正に使う標準試料(パーフルオロケロセンが一般的)は、通常リザーバーから導入します。



 



3. ガスクロマトグラフから導入



通常、複数の揮発性化合物の混合物から成る試料に対して、混合物を分離しながらMS装置に導入するために用います。



 



1の直接導入プローブは低温から昇温させて分析種を気化させます。その際、熱に不安定な化合物は熱分解を起こしてしまうことがあります。そんな時は、Desorption EI(DEI)という特殊なプローブを用いると、熱分解を回避することができる可能性があります。DEIは、直接導入プローブと同様な形状をしていますが、先端に白金線が取り付けられており、その白金線に瞬間的に高電流を流すことができる構造です。白金線に試料溶液を塗布してイオン源に挿入し、瞬間的に電流を流して瞬時に加熱することで、熱に不安定な化合物が熱分解を起こす前に気化される場合があります。



 



伝統的なイオン化とも言えるEIですが、生成するイオンの安定性と完成度は、現在使用されているイオン化法の中でも最も高い、有用なイオン化法です。



 



 

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引用元:質量分析の基礎:試料導入法とイオン化法、電子イオン化