ウルトラマラソンランナー、日本一タフな質量分析屋、高橋豊です。
このシリーズでは、私が質量分析を始めてから現在に至るまでの、質量分析計の性能変化と、それに伴う限界の変化について書いています。
前回は、不揮発性化合物の分析を(恐らく)最初に可能にした、FDと言うイオン化法について書きました。
FDは、ベンゼン環やメチレンの繰り返し構造をもつような、分子中にOH, NH2, COOHなどの極性基をあまりもたず、
且つ分子量が大きく揮発性のない化合物の分析に有効です。
一方、極性基があって揮発性のない化合物の分析のために開発されたイオン化法について、何回かに別けて解説します。
その1 高速原子衝撃法(FAB)
1980年頃に開発されたイオン化法
試料を溶媒に溶解して、グリセリン等のイオン化助剤(マトリックスと呼ぶ)と混合、小さな金属板に塗布して真空の質量分析計に導入、キセノンと言う不活性な気体を6 kV位に加速させて試料に衝突させると、そのエネルギーによって試料分子がイオンになります。
溶液から直接気相イオンを生成させる方法で、加熱による気化は必要ないので、揮発性のない化合物でもイオン化することができます。
化合物の性質に応じてマトリックスを選択します。
プラスイオンを検出するモードでは分子にプロトン(H+)が付加したイオンが、
マイナスイオンを検出するモードでは分子からプロトンが脱離したイオンが、
それぞれ検出され易く
今後解説する新しいイオン化法よりシンプルなマススベクトルが得られる傾向があります。
つまり
マススベクトルが解析しやすいので
有機合成や天然物化学の研究者など、質量分析の専門知識がない人に好まれる方法です。
イオン化できる分子量の上限は通常2000位で、タンパク質などの大きな分子はイオン化できません。
マトリックスのイオンが、
~m/z 300位の範囲に強く観測されるので、
分子量300位までの小さな分子では、イオン強度が低い(イオン化されにくい)と
マトリックスのイオン群に埋もれてしまうことがあります。
FD同様、後に開発された新しいイオン化法でカバーされる化合物が多いので、
今では使う人(企業等)は大分少なくなっています。
私が群馬高専と群馬大学で使っていた装置には、FABはついていませんでした。
日本電子に入社して、最初に使った装置にはついていました
![!](https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char3/092.png)
医薬品の多くや低分子のペプチド(アミノ酸が複数つながった構造)、極性基をもつ天然資源物質など、
それまでに使っていた装置では逆立ちしても測定出来なかったので、
初めてFABを使った時には、
その応用範囲の広さに驚いたものです
![びっくり](https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char3/014.png)
私が普段の仕事で使う装置には、FABは着いていないので、最近はめったに使いませんが、
質の高いイオン(←この意味が解る人は日本に何人いるかなぁ?)を生成するので、
非常に優れたイオン化法です
![おねがい](https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char3/005.png)
次回は他のイオン化について解説します。
ではまた~
![ルンルン](https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char3/087.png)
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