「寝る直前10分の勉強」が効果絶大なワケ できる子は「海馬の基本」を押さえている | 勇者親分(負けず嫌いの欲しがり屋)

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■睡眠の取り方で、成績にぐっと差がつく

同じ塾に通い、中学受験のために勉強しているA君とB君。2人は同じくらいの成績ですが、家庭での勉強時間は実は全然違います。

A君は、毎晩21時には就寝。勉強は時間を決めて「時間内でできるところまで」というスタイルです。一方B君は、A君の倍の勉強時間を毎日確保しています。就寝も、23時、24時は当たり前。「目標を達成するまで頑張る」と、毎晩、遅くまで勉強しています。

家庭での勉強時間に倍ほどの開きがある2人。それなのに、2人の成績がほとんど変わらないのはなぜなのでしょうか? それには、A君、B君の才能や素質とは違った理由が考えられます。

実は、脳科学的に見て、学習と睡眠はきわめて密接な関係があることがわかっています。必要な睡眠をきちんととれていないと、それだけで学習の効率が下がってしまうのです。

つまり、睡眠時間を削って勉強に励んでいたB君は、必要な睡眠時間をとれなかったばかりに勉強効率を下げてしまっていた可能性があるのです。一方、A君のような「睡眠優先」の態度は、勉強でしっかり成果を上げるために、非常に有効です。

ここで、脳と睡眠について、もう少し詳しくお話ししましょう。「海馬」という脳の領域をご存知でしょうか。海馬はおもに「記憶」をつかさどる、勉強と非常にかかわりの深い部分です。

近年の研究で、私たちの記憶力は、この海馬の大きさと関係していることがわかっています。簡単にいってしまえば、「海馬が大きければ、記憶力もいい」といえるのです。一方、海馬が十分に育っていないと、記憶の定着は悪くなります。認知症の人の海馬は縮んでいる、というのが、まさにこの例でしょう。

そして、この海馬の「大きさ」は、生まれつきのものだけではありません。海馬は自分の努力で大きくすることができるのです。

人間の脳にある神経細胞は、生まれてから死ぬまで、右肩下がりで減っていきます。しかしその中でも海馬だけは例外で、増やすことができます。そしてその成長と深く関連しているのが「睡眠」なのです。

十分な睡眠が海馬を育て、睡眠不足は海馬を縮ませる……。その一番の原因は、ストレスにあると考えられています。

睡眠時間が不足すると、「たとえ自分がそう感じていなくても」心身ともに大きなストレスを感じます。深夜までやる気に満ちていて、集中力が続いていたとしても、心身は睡眠不足を感じている可能性があるのです。

■睡眠とストレス、海馬の関係

では、年相応の必要な睡眠時間はどのくらいなのでしょうか?

この辺りは私の専門分野ではありませんが、アメリカの国立睡眠財団の発表によると、中学受験を控えたお子さんであれば「9~11時間」、高校受験を控えたお子さんであれば「8~10時間」といわれています。

 

この、睡眠とストレス、海馬の成長に関しては、大人も基本的に同じです。しっかり眠ることは、学習や仕事の効率を上げるばかりでなく、脳の健康維持にも役立ちます。認知症の予防にもつながります。

親子ともに、しっかり寝ることは生涯にわたって生き生きとした脳を保つうえで、とても大切なのです。

ただし、今日まで睡眠不足の生活を続けてきたからといって、取り返しがつかないわけではまったくありません。睡眠不足を改善すれば、海馬(脳)はまた成長を取り戻します。

B君のように深夜まで勉強を頑張っている子どもに「もう勉強をやめて寝なさい」と言うのは難しいかもしれませんが、特に子どもは自分の睡眠不足に気づけません。生涯にわたって脳の健康を保てるように、きちんと睡眠をとらせましょう。

ちなみに、思い切り外で遊んで、お昼寝でぐっすり。そして夜はいつまでも起きている……。そんなお子さんも多いと聞きます。しかし脳の成長にとって大切なのは、あくまでも夜の睡眠です。その意味では、夜眠れなくなるほどのお昼寝は避けたほうが無難です。

昼寝のときには部屋を明るくしておく、眠っているからといって静かにしない、一定の時間で起こすなどしてあげましょう。お昼寝は「浅い眠りで、ちょっと疲れが取れるくらい」を目安としたいものです。

■医学部学生がこぞって行っていた「睡眠『前』学習」

ところで、B君の勉強法には、実は脳科学的に見て理にかなった部分もあります。それは、「寝る前に勉強をする」ということです。

寝る直前に勉強――特に暗記もの(漢字の書き取り、英単語の暗記、日本史の年号、古典の単語など)に取り組むのは、脳のしくみに非常に合致しています。このときの重要なポイントは、勉強を終えたら、「すぐに」寝ること。なるべく何もせず、「本当にすぐ」寝てください。

私たちの脳は、眠っている間にその日1日の記憶を整理し、必要なものを定着させます。つまり、勉強をした内容がきちんと脳に保存されるのは、寝ている間なのです。

ですから、勉強と睡眠の間になるべく何もしないことが、勉強した内容を効率よく定着させる秘訣です。

では、暗記をした後に他のことをすると? 脳の中で記憶がごちゃ混ぜになり、肝心の勉強内容が抜けてしまいます。これは「記憶の撹乱」と呼ばれています。せっかく漢字を覚えたのに、その後にテレビを見ると、漢字とテレビの内容が脳の中で混ざってしまい、脳にうまく保存されることができなくなってしまうのです。

私が学生の頃に同じ医学部の仲間に勉強法を聞いて回ったことがありますが、そのときも皆、同じように勉強時間を組み立て、すぐに眠っていました。

合格を勝ち取る人というのは、長時間勉強している人ではなく、脳と睡眠の関係を知っている人なのかもしれません。

先日、「睡眠『前』学習」を実践したという小学5年生の女の子のお母さんに話を聞きました。「寝る前10分間勉強」と題して、漢字練習をしてから寝ることを習慣にしたといいます。

その結果はすぐに出ました。2学期の漢字50問テスト満点、学年末の漢字50問テスト満点。寝る前のたったの10分間で、今まで取ったことのない点数を取ることができたと女の子も喜んでいたそうです。

そして一番驚いたのはお母さん。「下の子にも始めました」とおっしゃっていました。私も今後の結果を聞くのがとても楽しみです。

■勉強時間の組み立てかた

夕食後に勉強をするのであれば、まずは算数や数学などの論理的思考能力を使う教科を、寝る時間が近づいてきたら記憶科目に切り替えます。そして暗記をしたらすぐに寝てしまいます。

このように考えると、「一夜漬け」の勉強法が論外だということがわかりますね。せっかく時間をかけて勉強をしても、睡眠をとらなければ、脳は内容を保存することができないからです。

テストが近くになると、「寝る時間を削っても勉強をして、少しでもいい成績をとってほしい」と望むお母さん方が増えるようです。けれども、脳の観点からすると、それはいい方法ではありません。寝ている間に、子どもの脳は昼間の内容をせっせと保存しています。

寝る時間もまた、大切な勉強時間なのです。

(構成:黒坂真由子/イラスト:伊藤ハムスター)