美味しい食事は刑務所で――シェフも給仕も受刑者が担当 英 | 勇者親分(負けず嫌いの欲しがり屋)

勇者親分(負けず嫌いの欲しがり屋)

変なニュース面白いニュース、野球、サイエンス、暇つぶし雑学などなど

http://www.cnn.co.jp/fringe/35046069.html

(CNN) 受刑者の再犯防止や出所後の職確保を目指し、刑務所内にレストランを開店する試みが英国で広まりつつある。料理の腕をふるい給仕にいそしむのは受刑者自身だ。

仕掛け役は英国の慈善団体「クリンク・チャリティー」。クリンクはこのほど、ロンドン南部のブリクストン刑務所内に新レストランを開業した。ウェールズのカーディフ刑務所、サリー州のハイダウン刑務所に続き、クリンクが手掛けるものとしては3軒目の刑務所内レストランとなる。

クリンクの最高責任者であるクリス・ムーア氏は、「ブリクストン刑務所のクリンクは、単にロンドンで新規開店するレストランという域にとどまらない。再犯問題に取り組むのと同時に、業界内で大きな課題となっているスキル不足を解消する上でも、頼りになる解決策を提供するものだ」と自負をのぞかせる。

ロンドンの新レストランで提供されるのは高級欧州料理で、昼時の打ち合わせ用に5つの会議室まで備えている。

以下ではそんなクリンクの取り組みを紹介しよう。


入店者応対

刑務所内という立地や受刑者がシェフとなっていることの他にも、クリンクのレストランにはユニークな特徴が多々ある。まず入店者応対が独特だ。
食事客は18歳以上のみで、48時間以上前に事前予約が必要。入店にはパスポートなどの身分証明書の提示が必要とされる上、携帯電話をはじめ、カメラや大型バッグ、ノートパソコン、鋭利なものはいずれも持ち込み禁止だ。

持参できる現金も80ドル(約8000円)以内と決まっており、食事代は小切手や事前に用意した明細票によって支払われる。さらに、来店者の指紋摂取や写真撮影、一連の身体検査や所持品検査まで行われる。ちょうど空港での検査のようなものだという。

このように規則は厳しいが、客足が遠のくことはない。去年は1万8000人あまりがクリンクのレストランで食事をした。


運営方法

刑務所の等級によってレストランの運営方法も異なってくる。

ハイダウン刑務所はB級(英国ではAからDまで等級があり、A級がもっとも厳重)に指定されている。そのため、利用者には英国内務省の事前認可が求められるほか、ナイフやフォークはプラスチック製のみ、アルコールの提供はないなど、特別な措置が取られている。

ちなみにブリクストン刑務所はC級、カーディフ刑務所はD級だ。カーディフの場合は敷地内ではなく、刑務所に隣接する形でレストランが設置されている。
シェフや給仕人はいずれも受刑者で、刑期満了まで6~18カ月を残す。週40時間フルタイムで訓練を受けたうえに、調理や接客、清掃などの資格を得るための勉強も怠らない。

ムーア氏によると、2017年までに国内の10カ所の刑務所でレストランを開店する計画だという。

今のところ取り組みは順調だ。12年12月の統計によると、クリンクのプログラムを修了した受刑者の再犯率は、11年の1年間で12.5%ほど。英国全体の平均である47%と比べて低い数字だ。

とはいえ、課題もある。費用がかさむ上、現時点では利益を出すことができていない。09年のクリンク設立に携わったアルベルト・クリスティー氏は、個人で30万ポンド(約5000万円)を調達しなければならなかった。

ムーア氏によると、現状でも、各レストランにつき年15万ポンド程度(約2500万円)の赤字を計上している状態だという。出所後の継続支援も含め、受刑者の訓練に費用がかかるためだ。英刑務所運営サービス(HMPS)や政府、個人の慈善活動家から資金援助を受け、損失を軽減しているのが実情だ。


料理

では肝心の料理はどうだろうか。
食材に関しては、なるべく地元のものを利用している。ブリクストン刑務所では地元の精肉店から肉を仕入れ、ハイダウン刑務所では刑務所の畑で取れた野菜を使う。このため、ハイダウンの受刑者のなかには造園や園芸の資格まで取得しようとするものもいるという。

出されるのは現代風にアレンジされた欧州料理で、時節に合わせてメニューが変わる。

ブリクストン刑務所での例を挙げれば、カニとサバの燻製(くんせい)をつかった春巻きや、豚肉のハーブ焼きのマッシュルーム添え、アーティチョークのラザニアといった具合だ。


さらなる更正支援プロジェクト

慈善団体を支援するのは、かつて殺人罪で終身刑を受けたアーウィン・ジェイムズ氏。20年間の服役後、2004年に仮出所し現在は英ガーディアン紙のコラムニストを務めている。

更正が刑務所内で完結することはありえず、出所後も継続的な支援が必要だとの立場から、同氏はクリンクの試みを高く評価する。

ジェイムズ氏はCNNの取材にメールで応じ、「クリンクのレストランに参加すれば、技術を身につけて社会に貢献できる喜びを味わうのがどういうことか、その満足感を発見もしくは再発見できるだろう」と述べた。

ただ、英国には慈善団体運営によるレストランが他にもあるが、コスト高で失敗する例も散見される。クリンクが英国国外に進出する計画も今のところない。